日本にある様々な依頼・指示表現について。使い方を誤ると問題が起こる場合もあります。
直接的な依頼・指示表現
以下、いくつか依頼・指示表現を紹介します。これらはほとんど初級段階で学ぶ表現です。かっこ内の数字はみんなの日本語で扱う課とJLPTのレベルです。
- Vて(20)
- Vてください/ないでください(L14/L17)
- Vていただけますか/いただけませんか( /L26)
- Vてくださいますか/くださいませんか( /L41)
- しろ/しなさい 命令形(L33)
- するな 禁止形(L33)
- すること/しないこと(N2)
直接的な依頼・指示表現は初級で学ぶにもかかわらず、実はかなり危険な表現ばかりなのです。なぜ危険なのか、いつどこでどうやって使うと危険なのかをこれから説明していきます。
間接的な依頼・指示表現
「てください」が直接的な依頼・指示とは上述の通りですが、間接的な依頼・指示表現というものもあります。一例を以下に示します。
依頼・指示表現の実際の使用状況
- ありますか
- できますか
実際の生活場面で、例えば時間を知りたい時
「時計を見せてください」と言うよりも「時間わかります?」や「時計あります?」という方が多いでしょう。他にも、店員に「ごはん大盛にしてください」と言うよりも「ごはん大盛にできますか」という方が多いと思います。「ごはん大盛で」のように文尾を濁す言い方(この言い方は少し乱暴ですが)もあると思います。
日本では直接依頼、または指示するよりも間接的に相手にその意思を伝える方が無難です。
他にも、部下に仕事を頼む時、何と言いますか。
「この仕事して」はたとえ部下であってもかなり乱暴な頼み方です。
「この仕事をしていただけませんか」はそもそも目下の人に使わないので不可です。
「この仕事、頼める?」「この仕事、頼みたいんだけど」「この仕事、頼んでもいい?」の3つは丁寧な頼み方です。
それでは、直接的な依頼・指示表現はいつ、どのように使うのでしょうか。以下でその使用場面を3つ紹介します。
指示
- A 教師が学生に対して「教科書30ページを開いてください」
- B 教師が学生に対して「ちょっとこっちへ来てください」
- C 教師が学生に対して「答えをホワイトボードに書いてください」
- D 医者が患者に対して「少し休んでください」
Aは「ひらけますか」などとは言わず、「てください」だけですが、Bは「来られますか」とできます。これは、AよりBの方が聞き手(行為者)の負担が多いからです。同様にCも「書けますか」とできますし、そうすることで相手に優しい印象を与えます。
Dの場合は医者が丁寧な人であれば、「休んだ方がいいです」や「休まれてはいかがですか」なども使われますが、患者の容体が悪い場合はやはり「休んでください」が適当です。
掲示やお知らせ
掲示での「てください」の使用は特に多いです。掲示は不特定多数に向けたメッセージなので、「~ていただけますか」などの待遇表現は必要ない場合が多いです。
- 学校の掲示物「赤い長方形の財布が落ちていました。心当たりのある方は事務所までお越しください」
- 建物の掲示物「缶は黄色い箱に入れてください」
規則である事を伝える
- 駅でたばこを吸っている人に「たばこはご遠慮いただけますか」
人に注意なんて誰もしたくないものです。しかし、しなければならない時もあります。そんな時に使えるのが先ほど紹介した間接的な依頼・指示表現です。「ことになっています・てはいけません・なければなりません」などのことです。他にも「時計ありますか」「大盛にできますか」などを紹介しましたが、「できますか」を使う際には注意が必要です。
何かを頼む際は基本的に「できますか」と可能動詞にするといいですが、禁止を伝える際は可能動詞を使うと嫌味になってしまいます。
駅でたばこを吸っている人に「ここでたばこを吸うのを止められますか」と言ったとします。言われた人は馬鹿にされたと思うでしょう。
他にも例を紹介します。映画館、隣の人が電話を始めました。10分経っても電話が終わらない場合、あなたは何と言って注意しますか。
- 「電話をやめられますか(嫌味)」
- 「電話を使わないでください(かなり直接的)」
- 「電話は使ってはいけませんよ」
- 「電話は使えないことになっているんですが(規則の伝聞)」
- 「電話をやめていただけませんか」
- 「すみません、少し静かにしていただけますか(間接的)」
- 「あのー、すみません。少し静かに・・・」
下に行くにしたがって相手の感情を逆なでしない表現を並べました。つまり、一番下が最も角の立たない言い方です。
特殊な依頼・指示表現
以下の3つは特殊な依頼・指示表現です。これらは初級でも、文型としても教えることはありません(適宜教師の裁量で教えることはあります)
- する!(「してください」という意味)
- した!(「してください」という意味)
- しない!(「しないでください」という意味)
右に(「してください」という意味)と書いてありますが、「する!」は「してください」よりも強い語気で発話され、家族など親しい間柄でよく使われます。
- 部屋を散らかした子どもに母親が「ほら!早く片付ける!」
- 嫌いな食べ物を残した子どもに父親が「「さっさと食べた食べた!」
目上の人には命令形や禁止形同様、例外(緊急時など)を除いては使ってはいけません。
もっと特殊な依頼・指示表現
防げますか!
実はこの「依頼・指示表現」の記事を書こうと思ったきっかけになったのがこの看板です。「防げますか」とは、「防げないぞ」という意味です。
似た表現に
例1.
A:ねえ、〇〇って知ってる?
B:そんなこと知るか!
例2.
A:Bさんも来ない?
B:誰が行くか!
があります。
「防げますか」をふつう形に直すと「防げるか」となります。ただ、警察署が出す看板にふつう形を用いるとかなりきつい感じがします。私もこの道路は時々通るのですが、スピードを出している車が多く、接触事故が後を絶たないので、警察もこのようなきつい言い方をしているのだと思います。
まとめ
日本語には依頼・指示表現が非常に多くあります。
今回主に扱ったのは依頼が直接的か間接的かという点です。前者を使うと相手を不快にさせる場合がありますが、相手にはっきりと何か、主に大切な事を伝えたい時は便利です。日本人は依頼すること、されることを嫌うので、それの代用として後者を使ったり、どちらにも属さない「ありますか」「できますか」などが好まれます。
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