『みんなの日本語 初級I 第二版』完全準拠。
導入や練習の仕方、教師として知っておきたい文型のポイントなどを解説します。
学習項目
練習A
1.Vナイ形
2.V[ナイ]ないでください
3.V[ナイ]なければなりません
4.V[ナイ]なくてもいいです
5.目的語の主題化(取り立ての「は」)
教案
新出語彙
この課でも、いくつかの動詞が出てきます。特にⅢグループの長い言葉が多いので、口慣らしをしっかりしましょう。
★ポイント
- 忘れます:「家で忘れます」という誤用が頻出。「<場所>にNを~」を強調する
- 禁煙:『みんなの日本語』にはないが、「喫煙」もセットで教えると実生活に役に立つ
練習A-1:ナイ形
導入:ナイ形の紹介
◆絵カードなどで、悪い学生の例を示し、先生の発話で紹介する
T:ここは教室です。この学生は寝ています。悪いですね。先生は何と言いますか。(ジェスチャーで問う)
S1:起きてください。
T:いいですね。
S2:寝るダメです。
T:はい。寝ないでください。
S2:寝ないでください。
T:この学生はおにぎりを食べています。先生は?
S3:おにぎりを食べないでください?
T:そうです。この学生は友達と話しています。先生は?
S4:話しないでください?
T:話・さ・ないでください。
たべ ないでください。
はなさ ないでください。
T:ここ。(「ね」を指す)ねますない、ねてない、じゃありません。ね・ないでください。これは新しいformです。ナイformです。
導入:ナイ形
例えば「書きます」は、テ形は「書いて」と「て」までが形でしたが、ナイ形は「書か」までがナイ形で、「ない」は形に入っていません。ナイ形の練習は「~ない」で練習しますが、「ない」の部分は「なければ」や「なくても」などに変化するので気をつけましょう。
◆Ⅲ→Ⅱ→Ⅰグループの順番で導入する
T:はい、じゃあⅢグループ。Ⅲグループの動詞は何ですか。
S:します、きます。
T:そうですね。これは特別です。スペシャルですから、覚えてください。「します」は「し ない」、「きます」は「こ ない」です。
「来ます」の「こない」はよく「きない」と間違えるので、何度も練習させましょう。テストなどで確認するときは、必ずひらがなで書かせるようにします。
T:Ⅱグループはいつも簡単です。「ます」さようなら、「ない」こんにちは。
T:Ⅰグループは、「書きます」「書かない」、「読みます」「読まない」(一覧を見せる)ルールは何ですか。
S:「いーーー」が「あーーー」です。
T:そうですね。ひとつ、スペシャルがあります。「かいます」は「か・わ・ない」。「かあない」じゃありません。「い」は「わ」です。
もうひとつ特別なのが、「あります」で、ナイ形は「ない」となります。「あらない」と言う学生が初級が終わるまで言い続ける学生がいます。ただ、今回の文型では使わないので、20課の普通形の時に教えてもよいでしょう。
練習
T:皆さん、これは?(「働きます」を指して)
S:働かない
T:じゃこれは?(「休みます」を指して)
S:休まない
T:じゃS1さん、これは?(「行きます」を指して)
S1:行かない
T:じゃS2さん、これは?(「帰ります」を指して)
S2:帰らない
フラッシュカードはこちら➔17 FC ない形
◆文字で確認
『文型練習帳』79ページを使うなどして、ナイ形を文字で確認する。
練習A-2:V[ナイ]ないでください
これを教えるとき注意しなければならないのが、公の場、知らない人に言ってはいけないということです。見ず知らずの人に突然、「禁煙ですから、吸わないでください」と言われたらどう思うか考えさせましょう。
導入
◆ナイ形の導入で使った悪い学生の例を思い出させる
T:この学生に、先生は?
S:寝ないでください。
T:この学生には?
S:おにぎりを食べないでください。
T:この学生には?
S:話さないでください
ここで ね
おにぎりを たべ
はなさ
◆カードや文字カードで「~ないでください」を作る練習
T:「~ないでください」を作ります。はい。(カードを見せる)
S:食べないでください。
(全体→個別当て→全体と繰りかえす)
◆「~てはいけません」(15課)との違いを確認
T:(病室と禁煙マークを見せる)これは?(マークを指す)
S:禁煙です。
T:そうですね。禁煙は、たばこを吸ってはいけません。勉強しましたね。
(煙草を吸っている人と、医者を出す)では、この人。医者です。何と言いますか。
S:たばこを吸わないでください。
T:そうです。吸ってはいけません、はルール。吸わないでください、はお願いです。
練習B-1
◆拡大した絵を用いて行う
T:(例の絵を見せて)ここに・・?(文を作るよう促す)
S:ここに自転車を置かないでください。(リピート練習)
(続けて1~4も行う)
導入:~ですから、Vないでください
◆もう一度、禁煙マークとたばこを吸っている人を見せる
T:はい、医者は何と言いますか。
S:たばこを吸わないでください。
T:そうですね。どうして?
S:禁煙です。
T:禁煙です・・・
S:から?
T:そうです。禁煙・・・
S:禁煙ですから、たばこを吸わないでください。
練習B-2
◆キュー出しで練習する
T:禁煙です、たばこを吸いません。禁煙ですから・・・?(文を作るよう促す)
S:禁煙ですから、たばこを吸わないでください。(リピート練習)
T:危ないです、押しません。危ない・・・?(文を作るよう促す)
S:危ないですから、押さないでください。(リピート練習)
(続けて2~4も行う)
まだ「~ないでください」の形に不安があれば、先にそちらを口慣らししてから、「~から」を含めた一文にしていくとよいでしょう。
活動:後件作成
◆学生が実際に言いそうな言葉を前件に選び、後件を考えさせる
禁煙です から、 ???
友達が寝ています
エアコンをつけました
風邪です
明日はテストです
練習A-3:V[ナイ]なければなりません
「なければなりません」は、早口言葉のようにかなり言いにくいので、十分に口慣らしをしましょう。なお、ナイ形を使っていますが否定の意味はありません。
導入
T:(畳の部屋の写真を見せる)ここは日本のうちです。(靴を履いている人の絵)靴で入ります。いいですか。
S:いいえ、靴で入ってはいけません。
T:そうですね。日本のうちに、靴で入ってはいけません。靴を、どうしますか。
S:ぬぎます。
T:はい。日本のうちで、靴を脱がなければなりません。
くつを ぬが
◆カードや文字カードで「~なければなりません」を作る練習
T:「~なければなりません」を作ります。はい。(カードを見せる)
S:食べなければなりません。
(全体→個別当て→全体と繰りかえす)
練習B-3
◆キュー出しで行う
T:「~なければなりません」をつくります。早くうちへ帰ります。はい。
S:早くうちへ帰らなければなりません。(リピート練習)
(続けて1~4も行う)
活動:後件作成
◆状況の絵カードのみを見せ、その状況の時、何をしなければいけないかを考えさせる
彼女とデート。彼氏は?→お金を払う 荷物を持つ
毎日宿題を?
病院で、医者が聴診器をあてようとする→服を脱ぐ
今晩は彼氏とデート→早く帰る
風邪→薬を飲む
忙しい母→手伝う
エアコンをつけた→窓を閉める
消しゴムがない→買う
学生ですから→勉強する
お金がありませんから→働く
テストに名前がない・・・0点→名前を書く
図書館で本を借りた→返す
授業中居眠り→起きる
空港→パスポートを見せる
導入:~までに~
「まで」と「までに」は意外と理解が難しいです。絵や図を描くなどして、視覚的にわからせましょう。
T:(銀行の絵と【9:00~15:00】を見せる)銀行は?(時間を指す)
S:9時から3時までです。
T:そうですね。9時に始まります。(ジェスチャーでずっと続いているところを見せる)3時に終わります。
T:いま1時です。5時まで宿題をします。
(時間軸を書き、1時から5時までは宿題している子供の絵、5時より後におやつを食べる子供の絵を出す)
T:いま1時です。5時・までに・宿題をします(強調)。
(同じように時間軸を書き、1時から2時まで宿題、おやつを挟み、また3時から5時まで宿題)
これもいいです。
(1時から2時までおやつ、あと宿題)
これもいいです。
(1時から4時まで宿題、あとおやつ)
「まで」はその時まで継続することを、「までに」は締め切りを表していることを理解させましょう。
◆問題で確認
①まいにち、9じから 5じ(まで・までに) はたらきます。
②あした(まで・までに) レポートを かいてください。
③ぎんこうは ごご3じ(まで・までに)です。
④まいばん 11じ(まで・までに) ねます。
⑤ きのう、ごぜん10じ(まで・までに) ねました。
⑥ このほんを きんようび(まで・までに) かえします。
◆練習問題
答えと解説はこちら↓
練習B-4
◆例を確認してから、ペアで練習させる
ペアワークのやり方は様々です。まだ文がうまく作れそうにないと感じたら、全体で正しい文を確認してからペアでもう一度練習させてもいいでしょう。また、終わってから教師のキューに続いて全体でリピート練習すると、最後に正しい文を自分の口で練習して終わることができます。
練習A-4:V[ナイ]なくてもいいです
「明日は休みですから、先生に会わなくてもいいです/彼女と買い物しなければなりません」とする学生がいます。これらは、『あえて』提出して、そのニュアンスを伝えると盛り上がります。
導入
T:(ホテルの部屋の写真を見せる)ここはホテルです。(靴を履いている人の絵)靴で入ります。いいですか。
S:はい、いいです。
T:そうですね。ホテルで、靴を脱がなくてもいいです。靴を脱ぎます。いいですか。
S:いいです。
T:そうです。靴を脱がなくてもいいです、は、靴を脱ぎません、いいです。靴を脱ぎます、も、いいです。
くつを ぬが
◆カードや文字カードで「~なくてもいいです」を作る練習
T:「~なくてもいいです」を作ります。はい。(カードを見せる)
S:食べなくてもいいです。
(全体→個別当て→全体と繰りかえす)
練習B-5
◆キュー出しで行う
T:「~なくてもいいです」をつくります。タクシーを呼びません。はい。
S:タクシーを呼ばなくてもいいです。(リピート練習)
(続けて1~4も行う)
練習B-6
◆前件と後件を与え、後件を「なければなりません」か「なくてもいいです」に変化させる練習
T:用事があります、出かけます。用事がありますから、でかけ・・・?
S:用事がありますから、出かけなければなりません。(リピート練習)
T:悪い病気じゃありません、心配しません。悪い病気じゃ・・・?
S:悪い病気じゃありませんから、心配しなくてもいいです。(リピート練習)
(続けて1~4も行う)
文が長いので、切ってリピート練習をしてもよいでしょう。
なお、この練習では「なくてもいいです」は否定形でキューが出されているため、単純な変換練習になります。できるクラスならどれも肯定形でキューを出すか、追加で以下のような練習をするとよいでしょう。
- 日曜日です・学校へ来ます
- 朝7時から仕事です・早く起きます
- 日本語は難しいです・毎日勉強します
- お金がありません・働きます
- ここは日本語学校です・日本語で話します
練習B-7
◆「~なければなりませんか」の質問に、「はい、~なければなりません」または「いいえ、~なくてもいいです」で答える練習。ペアワーク、またはキュー出しで行う
多国籍クラスなら、それぞれの国について「~なければなりませんか」でお互いに質問させてもおもしろいでしょう。
練習A-5:目的語の主題化(取り立ての「は」)
もうレポートを書きました。→レポートはもう書きました。
(レポートについて言うと、それはもう書きました。というような意味)
対比と似ていますが、「これは×、これは○」という意味ではなく、「いまはこれについて話しています」ということを伝えるものです。
しかし今の段階でこの「主題化」をわかりやすく伝えるのは難しいです。「伝えたいもの、大事なことを文頭に持ってきて、を→は」と教授しましょう。
対比の「は」については、27課を参照してください。
参考:
導入
◆いくつか主題の「は」をつかった文を、状況とともに提示する
T:(荷物を隣の席に置いている人に)すみません、荷物は椅子の下に置いてください。
(たばこを吸っている人に)たばこはあそこで吸ってください。
(教室で教師が学生に)レポートは今日までに送ってください。
(医者が患者に)お酒は飲まないでください。
T:この文、荷物は椅子の下に置いてください。すこし違いますね。みなさんは、「椅子の下に荷物を置いてください」を勉強しました。でも、この人は「荷物!荷物!いま荷物の話をしています!」(何とかジェスチャーで伝える)「荷物は!椅子の下に置いてください」。「荷物」が話のトピックです。
→にもつは いすのしたに おいてください。
練習B-8
◆パワーポイントなどでAさんとBさんの会話として見せるとわかりやすい
T:(Aさんのセリフで)ここに荷物を置いてもいいですか。
(Bさんの頭の上に吹き出しで【荷物!あそこ!】と出す)荷物はあそこに置いてください。(リピート練習)
T:(Aさんのセリフで)ボールペンで答えを書いてもいいですか。
(Bさんの頭の上に吹き出しで【答え!鉛筆!】と出す)答え・・・?(文を作るよう促す)
S:答えは鉛筆で書いてください。(リピート練習)
(続けて2~4も行う)
教師用メモ
授業に役立つプリント
「まで」と「までに」の違い。ポイントは「ずっと」「1回だけ」というワードです。
「まで」と「までに」の違いの説明は簡単そうに思えて、意外と難しいです。違いはわりとどの学生もすんなり理解できますが、説明でミスすると、大変なことになります。具体的には、「まではずっとします、までには一回だけします」というような説明をします。すると、以下の文で学生に混乱が生じます。
9時( まで までに )寝ます。
もちろん導入や練習でこの文を見せるのは問題ありません。しかし、2つの違いを説明している時にこの「寝る」を使った文を提出しない方がいいです。
下の問題を参考に、違いを説明しましょう。
練習問題
「~てください」「~ないでください」「~てはいけません」「~なければいけません」「~てもいいです」「~なくてもいいです」を総復習できる練習問題です。
答えと解説はこちら↓
コメント
わかさたなに、なっています。あです。