『みんなの日本語 初級II 第二版』完全準拠。
導入や練習の仕方、教師として知っておきたい文型のポイントなどを解説します。
学習項目
練習A
1.わたしは<人>にNをいただきました
2.<人>がわたしにNをくださいました
3.わたしは<人>にNをやりました
4.V[テ]いただきました
5.V[テ]くださいました
6.V[テ]やりました
7.V[テ]くださいませんか
教案
新出語彙

様々な名詞が出てきます。学生がすでに知っている言葉を説明・練習しても仕方がないので、語彙練習は生活環境に合わせて行いましょう。
★ポイント
- かわいい:今では解釈が拡大してしまっているが、教科書では「子ども・ペット」にのみ使っている
- お祝い/お見舞い:~をします、~をあげます、の形で扱う
- 興味:物/事/人に~があります(「趣味」(18課)との混同が多い)
何(①)興味がありますか。 ①=〇に ×か
何(①)趣味がありますか。 ①=×に 〇か
「あげます・もらいます・くれます」復習
◆絵カードで復習
T:(男の人が女の人に花をあげている絵を見せる)これを見てください。男の人は太郎さんです。女の人は花子さんです。(PPTで見せて名前も提示しておくとよい)太郎さんは花子さんに、花を・・・?
S:あげます。
T:そうです。勉強しましたね。太郎さんは花子さんに花をあげました。じゃ、花子さんは?花子さんは太郎さんに・・・?
S:花をもらいました。
T:そうですね。あげます、もらいます、覚えていますか。
はなこさんはたろうさんにはなを もらいました。
※絵も一緒に提示し、モノの移動をわかりやすく矢印で示すとよい
◆別の絵カードを使う
T:(別の、シャツをあげている絵で、武さんと私、と名前を表示する)この男の人は友達の武さんで、この人は私です。私は武さんに?
S:シャツをもらいました。
T:はい。じゃ、武さんは私に?
S:武さんは、わたしにシャツをくれました。
T:「私に」のときは「くれました」を使いますね。
※絵も一緒に提示し、モノの移動をわかりやすく矢印で示すとよい
『げんきⅡ 第2版』p.66にあるような絵を使って、だれがだれに何をあげたか、もらったか、くれたかを描写する練習。
◆既習の「人の身分」の語彙を確認(家族呼称・役職名)
目上:社長・先生・店長
目上じゃない:友達・彼女・彼氏・同僚・親・子ども・弟・妹・息子
(↑の語彙は図にして矢印で関係を示すとわかりやすい)

いきなり「いただきます」からやると「なんか昔似たの習ったな」と頭が追い付かないままになってしまうので、かならず復習から入りましょう。なお、「差し上げます」はみん日では扱いません。
練習A-1:わたしは<人>にNをいただきました
導入
◆導入。誕生日の雑談の流れで↓
T:私は友達に本をもらいました。
T:私は〇〇先生(校長など)にこれ(時計)を?
S:もらいました。
T:いただきました。
わたしは こうちょうせんせいに とけいを いただきました。
(人が変わって「もらいました」➔「いただきました」になったことがわかるように板書する)
T:「いただきました」を使ったら、もっと丁寧です。ですから、上の人、先生、店長、先輩、上の人からなにかをもらったとき、「いただきました」を使います。

日本では通常家族は目上ではありませんが、家族を目上だと考える文化もあります。そういった文化圏からの学習者に教えている場合には、日本語では「家族は”もらいます”を使う」ことに注意しましょう。
◆QA練習
T:上の人、先生、店長、先輩、誰でもいいです、上の人に何をもらいましたか。
S1:本をいただきました。
T:誰に?
S1:先輩
T:全部お願いします。
S1:先輩に本をいただきました。
T:じゃS2さんは?
・・・
他例文
- 昨日先生に宿題をいただきましたが、なくしてしまいました。
- 私はよく店長にたばこをいただきます。
- このカメラは店長にいただきました。
- すみません、昨日休んだので、昨日のプリントをいただきたいんですが……。
- A:素敵な時計ですね。 B:ええ、社長にいただいたんです。
練習B-1
◆拡大した絵を用いて行う。まずはキュー出しで一文作成
T:これは何ですか。(靴下を指す)
S:靴下です。
T:そうですね。この人は私の姉です。私は姉に・・・?
S:私は姉に靴下をもらいました。(リピート練習)
T:じゃ、こっち。これは絵葉書です。この人は先生です。私は先生に・・・?
S:私は先生に絵葉書をいただきました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
◆例を確認してから、ペアで練習

「~んです」で説明を付け加える用法です。
練習A-2:<人>がわたしにNをくださいました
・買います→買う
・くださいます→×くださう 〇くださる
また、学生が質問してきたり、突然言ってしまったら教える程度でいいですが、「くれる」同様、「くださいます」と「たいです」は一緒に使えないことに注意します。なぜなら、「くれる/くださる」には意志性がないからです。
・すみません、昨日休んだので、プリントを(〇いただき ×くださり)たいんですが……。
導入
T:私は友達に本をもらいました。友達は私に?
S:本をくれました。
S:時計を・・・
T:くださいました。
こうちょうせんせいは わたしに とけいを くださいました。

24課で作った教材の人物を先生と学生、店長と学生などに変えるだけで教材作成の手間がかなり少なくなります。24課との比較もしやすく、理解を促す効果もあるのでおすすめです。
◆「<人>がくれました」の形を練習
T:校長先生は私に時計をくださいました。この時計は・・・
S:この時計は校長先生はくださいました?
T:校長先生「が」です。これは「この時計は」がトピックですね。トピックの「は」は、強く言いたいときに使う形です。そして「誰!?」を強く言いたいとき、「が」を使います。
◆誰にもらったかで、「くれたんです」「くださったんです」を使い分ける
T:S1さん、きれいなハンカチですね。
S1:ええ、友達がくれました。
T:くれました、んです、は?
S1:くれたんです。
T:そうです。友達がくれたんです。じゃ、先生が?
S1:先生がくださったんです。
T:じゃ皆さん、これは?(「父」と書かれた文字カードを見せる)
S:父がくれたんです。
T:じゃ皆さん、これは?(「店長」と書かれた文字カードを見せる)
S:店長がくださったんです。
◆質問のしかたに注意
T:質問はどうやってしますか。(「?・先生」と書かれた文字カードを見せる)
S:誰がくださったんですか。 先生がくださったんです。
T:違います。「誰がくれたんですかです。
S:でも、店長ですから。
T:質問する時はまだ店長か先生か友達か母かわかりません。まだ上か下かわからないので、「誰がくれたんですか」だけを使います。
他例文
- 店長はよくたばこをくださいます。
- このライターは店長がくださった物です。
- 社長がおいしいお菓子をくださいました。
練習B-2
◆拡大した絵を用いて行う。まずはキュー出しで一文作成
T:(例1の絵を指す)姉は私に・・・?
S:姉は私に靴下をくれました。(リピート練習)
T:じゃ、こっち。先生は私に・・・?
S:先生は私に絵葉書をくださいました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
◆例を確認してから、ペアで練習

学生がよく理解し口も回っているようであれば、いきなりペア活動でもよいでしょう。「<人>が」になることによく注意させましょう。
練習A-3:わたしは<人>にNをやりました
教科書ではペット、植物のほか赤ちゃんや子供・孫に対して使う、と教えますが、「最近は、とくに人には”あげる”を使う人も多い」と付け加えてもいいでしょう。
参考:
『令和2年度「国語に関する世論調査」の結果の概要』
『敬語の指針』(文化審議会答申)
導入
◆犬などの写真や絵カードを使って導入
T:(先生が犬にエサをやっている写真を見せる)これは私の犬です。
S:かわいいです。
T:かわいいですね。これは何ですか。
S:エサです。
T:そう。私は犬に?何をしていますか。
S:エサをあげます。
T:そうですね。「あげます」もいいですが、「やります」、これも使います。
S:「あげます」と「やります」は何が違いますか。
T:「やります」はあまり丁寧じゃありません。ですから、よく動物や花に使います。
S:例えば何ですか。
T:例えば、私は猫にミルクをやります、花に?
S:水?
T:花に水をやります。
わたしは はなに みずを やります。
S:でも犬も猫も家族です。失礼です。
T:そうなんです。今の若い人は特にその考え方の人が多いです。でもおじいさんやおばあさんはまだ「やります」を使う人が多いです。ですから、聞いた時にわかるように、練習しましょう。
◆物や人だけを変えて練習
T:(「弟に本をやりました」の絵カードを見せる)、弟にやりました、じゃこれは?(弟を猫に、本をえさに変える)
S:猫にえさをやりました。
練習B-3
◆拡大した絵を用いて行う
T:(例の絵を見せて)犬に?
S:犬にえさをやります。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
「いただく・くださる・やる」まとめ
◆絵や図を使って、視覚的に整理する
『文型練習帳』pp.104-105を使うなどしてもよい。
練習A-4:V[テ]いただきました
導入
T:私はこの間、中国人の友達に中国語を教えてもらいました。(板書しながら話す)
S:どうでしたか。
T:中国人だから中国語を簡単に教えられると思いましたが、全然わかりませんでした。ですから、お金を払ってプロにお願いしました。チョウ先生です。とても分かりやすくて、素晴らしい先生でした。(板書しながら話す)
せんせいに ちゅうごくごを おしえて ました。
T:ここは?(下線を指して)
S:教えていただきました。
T:どうして?
S:友達じゃありませんから。先生です。
T:そうですね。「もらいました」は「いただきました」。「てもらいました」も同じです。上の人には「ていただきました」を使います。
せんせいに ちゅうごくごを おしえていただきました。
◆人を「先生」や「友達」に変えて練習
T:私は先生に?(「教える」の絵カードを見せる)
S:先生に教えていただきます。
T:私は友達に?(「教える」の絵カードを見せる)
S:友達に教えてもらいます。
T:私は祖母に?(「教える」の絵カードを見せる)
S:祖母に教えていただきます。
T:祖母に?
S:祖母に教えてもらいます。
T:店長に?(「送る」の絵カードを見せる)
S:店長に送っていただきます。
練習B-4
◆キュー出しで行う
T:小林先生、文法を説明しました。わたしは・・・?
S:私は小林先生に文法を説明していただきました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
練習A-5:V[テ]くださいました

24課の「~てくれる」のときと同様、「~てくださる」では「○○さんは私に/の/を」の3種類になります。
例:
先生は私に手紙を送ってくださった
店長は私のシャツを洗濯してくださった
友達のお父さんは私を駅まで送ってくださった
動詞によって使う助詞が違うので、しっかり教授しましょう。
※「先生が私と京都に行ってくださった」のような「と」はここでは教授しない
※「先生は私にエアコンをつけてくださった」は非文なので注意。他:電気をつける・窓を開ける・調べる等
どちらもほとんど同じように使うことができますが、「てくださる」の方が相手が自分から進んで恩恵を与える行為をしたというニュアンスが入ります。
例:
先生に作文を見ていただいた→私が頼んだ
先生が作文を見てくださった→先生が好意で見てくれた
導入
◆「私に」導入
T:チョウ先生は素晴らしい中国語の先生です。じゃ、素晴らしい日本語の先生はだれですか。
S:カキアゲ先生です。
T:誰が日本語を教えていますか。
S:カキアゲ先生です。
T:どうぞ(と言ってホワイトボードを指さす)
T:そうですね。先生は上の人ですから、「くれます」じゃなくて、「くださいます」。
- 私に歌を歌ってくださいました。
- 私にペンを貸してくださいました。
T:あ、S1さん、ごみ/かばん/上着/消しゴムが落ちていますよ。
S1:あ、先生、ありがとうございます。
T:いいえ。じゃこれを言ってください。先生は?
S1:先生は私に消しゴムを拾ってくださいました
T:違います。「私に」じゃありません。わたし・・・?
S1:私の?
T:そうです。「くれます」の時も勉強しましたね。
T:(板書の「消しゴム」を「作文」に変える)これは?
S:先生は私の作文を直してくださいました。
T:私は車を持っていませんから、チョウ先生にお願いしました。「すみません、車がありますか。駅までお願いします」。先生は「いいですよ」と言いました。先生は私?(チョウ先生がカキアゲ先生を車で送る写真を見せる)
S:先生は私を駅まで送ってくださいました。

「私をパーティーに」でいいのですが、助詞が増えて混乱するので、無理に「パーティーに」の部分は入れなくもて大丈夫です。
◆「私に/の/を」混交練習
T:(絵カードを見せる)私?
S:私に日本語を教えてくださいました
T:(絵カードを見せる)私?
S:私の服を洗濯してくださいました
◆「私に/の/を」を省略した答え方
S:先生、私に、私の、私を、わかりません。難しいです。
T:大丈夫です。ここは言わなくてもいいです。
(↑「店長は私に」の部分を消す)
S:でもそれはだれかわかりません。
T:わかります。「くれます」は24課で100%私、と説明しました。「くださいます」も同じです。ですから、「私」を言わなくてもいいです。でも、店長は言わなければなりません。私に、私の、私を、わからない時、言わなくてもいいです。そして、よく「店長は」は「店長が」になります

ここはかなり大事なところです。そして、この「私に/の/を」問題は最後に出すのがミソです。学習者が使い分けに辟易しているところにこの万能のルールを出すことで、学生の曇った顔に一筋の光を差してあげましょう。
練習B-5
◆キュー出しで行う
T:松本部長・駅まで迎えに来ます。「くださいました」を使いましょう。松本部長が・・・?
S:松本部長が駅まで迎えに来てくださいました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
練習A-6:V[テ]やりました

「~てやります」になると、「て」が付かないものよりも一層ぞんざい・偉そうに聞こえます。「目上→目下で使う」とだけ教えると、「私は後輩に肉をおごってやった」「私は学生に日本語を教えてやった」といった、聞くと気分が悪くなるような文が出てきてしまいます(文法的には正しく、何もおかしくない、と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが)。教授の際は、「(自分の)子供/孫・ペットに使う」を徹底しましょう。(植物に対して「~てやる」を使うシチュエーションはあまりありません)
導入
T:(教科書を忘れた友だちと私の絵を見せる)友達が本を忘れました。私は友達に本を・・・?
S:私は友達に本を見せてあげました。
T:そうですね。
T:これは私と私の娘です(読み聞かせの絵を見せる)。私は娘に・・・
S:私は娘に本を読んで・・・やりました?
T:そうです。自分のこどもとか、ペットのとき、「あげます」もいいですが、「やります」もいいです。
わたしは むすめに ほんを よんでやりました。

「てあげます」もそうですが、この文法項目は外国人にとって理解に苦しむところです。実際に「『てあげる』って言わなくてもいいよね?なぜ日本人はこんな無駄なものを付けて文を長くするんだ?しかも『てやる』なんて上から目線で不快じゃないか!」と問いただされたこともあります。詳しい説明、それをいつ言うかという状況を説明しましょう。
◆動詞による助詞の違いを教授
T:(お母さんが娘の宿題を見ている絵)私は・・・?
S:私は娘に宿題を見てやりました。
T:娘に?
S:娘の。
わたしは むすめの しゅくだいを みてやりました。
T:(娘を病院に連れていく絵)娘が風邪をひきました。私は・・・?
S:娘を病院へ連れて行ってやりました。
わたしは むすめの しゅくだいを みてやりました。
わたしは むすめを びょういんへ つれていってやりました。

「~てやります」においては「<人>に/の/を」が省略できないので、「やります」を使わない文を考えて、それと同じ助詞を使うよう指導しましょう。
練習B-6
◆キュー出しで行う
T:娘、おもちゃを買いました。私は・・・?
S:私は娘におもちゃを買ってやりました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
「Vていただく・くださる・やる」まとめ
◆自分で文を作るなど、文字で整理する
『文型練習帳』pp.106-107を使ってもよい。
練習B-7
◆例を確認してから、ペアで練習する

「だれに」の質問はつねに「もらう・くれる・あげる」を使うことを確認しましょう。「だれ」の場合は、尋ねる時点では上下がわからないためです。
練習A-7:V[テ]くださいませんか
家族・友達:道を教えて。(20課)
家族・友達:道を教えて ください。(14課)
先生・店長・知らない人:道を教えて くださいませんか。(41課)
先生・店長・知らない人:道を教えて いただけませんか。(26課)
導入
T:(東京タワーの写真を見せる)東京タワーで、私と東京タワーの写真を撮ってほしいです。丁寧にお願いしましょう。
S:すみませんが、写真を撮っていただけませんか。
T:そうですね。それもいいですが、「撮ってくださいませんか」もいいです。
S:何が違いますか。
T:「撮っていただけませんか」のほうが丁寧です。でも、「撮ってくださいませんか」もよく使いますから、覚えましょう。
しゃしんを とってくださいませんか。
◆先生と学習者が一緒に居酒屋へ行くという設定で話す
T:ここは店です。お酒を飲みましょう。S1さんは財布を忘れました。先生に何と言いますか。
S1:お金を払ってくださいませんか。
T:じゃS2さんに何といいますか。
S1:お金を払ってください?
T:そうです。S2さんに「てくださいませんか」はちょっと変です。友達なら、「払ってください」か、普通体の「払って」がいいですね。
練習B-8
◆キュー出しで行う
T:駅へ行きたいです。道を教えます。駅へ行きたいんですが、道を・・・?
S:教えてくださいませんか。
T:全部言いましょう。
S:駅へ行きたいんですが、道を教えてくださいませんか。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
練習C-3
◆例を確認してから、ペアで行う

余裕があれば、相手をバイト先の店長や先生などにして、オリジナルの会話を作らせましょう。これが使えれば丁寧にお願いができて、人生得するかも?と思わせて、練習を盛り上げましょう。
教師用メモ
3回の授受表現
7課 「Nをあげる/もらう」(上下・ウチソトは×)
24課 「Nをくれる」+「Vて あげる/もらう/くれる」(上下・ウチソトは×)
41課 「Nをやる/いただく/くださる」+「Vて やる/いただく/くださる」

全3回あり、今回で最後となる授受ですが、なかなか定着は難しいです。上級の学習者でたまに使っているのを見かける程度です。41課以降の例文などにこっそりまぎれさせて少しずつ定着を図るよいでしょう。


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