複合名詞になる(合成語が構成される)とき、変音現象がおこることがあります。語の構成要素の音素が変化する現象のことを変音現象と呼びます。以下ではその現象9つの解説を例を併せて解説していきます。
連濁(れんだく)
後項成分の語頭音が濁音になる現象。
ほん(本)+たな(棚)➔ほんだな(本棚)
hon+tana➔hondana
他の例:本棚 長靴 円高 山桜 三千円 火花 肩車
他にも細かい規則がある。
連濁は修飾している時に起こり易い
尾ひれ 尾びれ(←修飾しているから連濁発生)
後部要素が外来語のときは,連濁は起こりにくい
「雨ガッパ」
しかし、古くからあるものは起こる時がある。これは、外来語が日本語に昇格した証として捉えることができる
連濁を起こしにくい状況
格関係がある複合語(稲刈り)や、複合語全体が「~する人」となっているものは連濁を起こしにくいです。以下、3つを紹介します。
①並列関係には起こりにくい
例:草花 目鼻 草木 後先 (「めばな」「くさぎ」とは言いにくい)
②後項第2音節が濁音の語は連濁しない
「黒こげ」は「黒ごげ」とは言いにくい
③漢語は原則として連濁しない
例外:水鉄砲 骨折り損
連濁は必ず起こるとは限らない
例えば「玉(たま)」は「100円玉」、「赤玉」などは「だま」と濁るが、勾玉や水玉は濁らずに「たま」と発音される。実はこれらには規則性がある。前に来る語に濁音が含まれていたり、 清音の後ろに濁音が存在すると連濁が起こらない。「水玉」は「玉」の前に濁音「ず」があり、これが連濁を阻む。
ただし連濁には例外も存在する。とくに和語の連濁に関しては諸説が存在し、完全な規則体系はまだ発見されていない。
例えば「窪園」も「その」の前に「ぼ」があるため、原則としては「くぼその」となるはずだが、「くぼぞの」という読み方も普通に存在する(「くぼその」という読み方もないわけではない)。
転音(てんおん)
前項末尾の母音が交替する現象(=母音交替)
さけ(酒)+や(屋)➔さかや(酒屋)
sake+ya➔sakaya
き(木)+かげ(陰)
ki+kage➔木陰(こかげ)
他の例:白玉
音便の一、促音化(そくおんか)
ひく(引く)+つかむ(掴む)➔ひっつかむ
hiku+tukamu➔hittukamu
ローマ字だけ見ると音韻添加のようにも見えるが、kuがなくなっているので、促音化と捉える
他の例:屈(くつ)+強(きょう)➔屈強(くっきょう) 早速(さっそく) 早急(さっきゅう) 突破 熱心
促音便(そくおんびん)
追い+払う➔おっぱらう
差し+引く➔さっぴく
促音挿入(そくおんそうにゅう)
崖淵➔がけっぷち
やはり➔やっぱり
「おっぱらう」や「がけっぷち」など促音の後に現れるハ行音はパ行音になるのが和語・漢語の原則である。
音便の一、撥音化(はつおんか)
ぶつ+なぐる(殴る)➔ぶん殴る(ぶんなぐる)
butu+naguru➔bunnaguru
他の例:熊ん蜂 ひっつかむ
半濁音化(はんだくおんか)
半濁音とは「゜」がついた音のことである。「品」に「絶」がつくことで「ひん」が「ぴん」と音変化する現象を半濁音化と呼ぶ。後項の語頭のハ行音がパ行音に転じ、促音化も直前で同時に起こる
ぜつ(絶)+ひん(品)➔ぜっぴん(絶品)
zetu+hin➔zeppin
しつ(湿)+ふ(布)➔しっぷ(湿布)
situ+hu➔sippu
他の例:おんぷ(音符) しっぴつ(執筆)
音韻添加(おんいんてんか)
前接語と後接語の音が合わさる時、新しい音素が追加される現象
ま(真)+なか(中)➔まんなか(真ん中)
ma+naka➔mannaka
他の例:massiro真っ白 harusame春雨
音韻脱落(おんいんだつらく)
音韻が脱落して音韻数が減少する現象
かわ(河)+はら(原)➔かわら(河原)
kawa+hara➔kawara
他の例:ariso荒磯
音韻融合(おんいんゆうごう)
前接語と後接語の音が合わさる現象
きうり➔きゅうり(胡瓜)
kiuri➔kyuuri
他の例:かりうど→かりゅうど(狩人)
連声(れんじょう)
二つの語が連接するとき、母音・ヤ行・ワ行で始まる語が、[ m ]、[ n ]、[ t ]を末尾に持つ字音語に後接した場合、後接語の語などがマ行・ナ行・タ行の音に変化すること。漢語の熟語に多く見られる。ところが、中には「原因(げんいん)」のように、連声しないものもある。前項末尾の子音が繰り返され、後項語頭に変化が生じる
はん(反)+おう(応)➔はんのう(反応)
han+ou➔hannou
他の例:三位(sanmi) 因縁(innen) 安穏(annon)
複数の変音現象が同時に起こる
変音現象は必ず一つ起こるわけではない。二つ以上の現象が同時に起こることもある
転音+連濁
あめ(雨)+かさ(傘)➔雨傘
ame+kasa➔amagasa
促音化+半濁音化
しつ(湿)+ふ(布)➔しっぷ(湿布)
situ+hu➔sippu
なぜ変音現象が起こるのか
楽だからです。
日本人がアボカドをアボガドと発音してしまうのと同様に、「ぜつひん」や「ほんたな」「さけや」と発音するよりも「ぜっぴん」「ほんだな」「さかや」と発音する方が楽なのです。
カラオケでマイクの音を確認する際、マイクに向かって「え、え」と言わず、「あ、あ」と言うのは
口の負担: え>あ
だからです。sakaya は「か」で、 sakeya の「け」よりも口の負担が軽いので、自然と日本人は「さかや」と発音するようになったのです。
同様に、「柳田」という名字の人がいたら、恐らく大半の日本人が「やなぎだ」と発音すると思います。「やなぎた」と発音すると本人に聞いたとしても「やなぎだ」と発音してしまう、これも同様の理由です。
他にも例を挙げたらキリがありませんが、「すいぞくかん」を「すいぞっかん」、「せんたっき(せんたくき)」「たいく(たいいく)」「ふいんき(ふんいき)」「すいません(すみません)」も全てがこの言いやすいからで説明できます。書く時と話す時で違うのです。
テレビではM氏が「すいぞっかん」と言った人に対し「すいぞくかん!日本語間違ってる!」としょっちゅう注意しているのを見ますが、氏にこのことを教えてやりたいものです。
学習者に「どうして日本語はよく音が変わりますか。面倒です。大変です」と言われたら、「”日本人が”発音しやすいようにそうなったんだよ」と説明するといいでしょう。
い抜きや縮約形、短縮句などについては以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
コメント
「合唱(gasshou)」は連声と関係ないと思います。
「合(がふ)」の「ふ」が促音化で「っ」になるのは、連声とは全く別の現象です。
ご指摘ありがとうございます。問題箇所について記載を削除いたしました。
格闘技で「バンタム」という階級があるのですが、間違えて「バンダム」という人がとても多いです。撥音の後って無意識に濁らせてしまいがちなのでしょうか?
一生懸命読みました。よくわかりました。
江戸中期ごろまでの歌舞伎では、芝居が始まる前に、幕の外でキャスティングを読み上げていたそうです。それを「役人触れあって」と台本に書いてあります。これは「やくにんぶれ」でしょうか、「やくにんふれ」でしょうか。「ぶれ」は私の音感には美しくないので、「やくにんふれ」と読みたいのですが。
お教えください。