『みんなの日本語 初級I 第二版』完全準拠。
導入や練習の仕方、教師として知っておきたい文型のポイントなどを解説します。
学習項目
練習A
1.NはAdj.です
2.ナadj.です/ナadj.じゃありません/イadj.です/イadj.くないです
3.ナadj.-なNです/イadj.-いNです
教案
新出語彙

この課では言わずもがな、大量の形容詞が出てきます。絵カードなどを使って繰り返し練習しますが、「大きい」「小さい」などは比較対象がないと大きいのか小さいのかわからないので、両方提示し比べながら練習するとよいでしょう。
★ポイント
- ハンサム:男性の容姿を形容するときに用いる。女性には用いない
- きれい:beautifulとclean、両方の意味がある
- あつい:漢字が違うことに注意。気温は「暑い」、モノの温度は「熱い」。「厚い」は44課
- やさしい:「易しい」⇔「難しい」、「簡単な(12課)」⇔「複雑な(39課)」
- たのしい:自分が出来事に参加して得た感情を説明するときに使う
おもしろい:自分が見るなりして感じた、モノの属性を説明するときに使う
※詳しくは「教師用メモ」で後述 - ところ:単体では使えず、名詞修飾節でのみ使える。トキを表す「ところ」は46課で扱う
×あのところへ行く
×ところの名前を教えてください
練習A-1:NはAdj.です
導入:ナadj.とイadj.
新出語彙を確認した流れで、日本語の形容詞はナ形容詞とイ形容詞の2種類あることを提示します。表にして示すとよいでしょう。分類方法は「~い」で終わる言葉はイ形容詞、ただし例外もあり「きれい」「ゆうめい」はナ形容詞、と説明します。
◆自分で分類して確認
『文型練習帳』35ページの「形容詞の整理」を使って、ナ形容詞とイ形容詞の分類の確認をしましょう。「きれい」「ゆうめい」はナ形容詞であることをしつこく繰り返します。
使用教材:
導入:Nはナadj.です
T:(「ハンサム」の絵を見せて)これはなんですか。
S:ハンサムです。
T:この人は田中さんです。田中さんはハンサムです。

T:(「親切」の絵を見せて)これはなんですか。
S:親切です。
T:この人は田中さんです。田中さんは・・・?
S:田中さんは親切です。
導入:イadj.です
T:(「大きい/小さい かばん」の絵を見せて、大きいほうを指す)これはなんですか。
S:おおきいです。
T:そうですね。このかばんは大きいです。
T:(小さいほうを指して)このかばんは?
S:小さいです。
T:この・・・?
S:このかばんは小さいです。
練習B-1
◆拡大した絵を用いて行う
T:(例の絵を見せて)ミラーさんは・・・?(文を作るよう促す)
S:ミラーさんは親切です。(リピート練習)
(続けて1~4も行う)
練習A-2:ナadj.です/ナadj.じゃありません/イadj.です/イadj.くないです

8課では現在・肯定と現在・否定のみを扱います。過去・肯定と過去・否定は12課で勉強します。
導入:ナadj.じゃありません
T:(「ハンサム」の絵を見せて)この人はハンサムですか。
S:いいえ。
T:ハンサムじゃありません。
T:(「静か/にぎやか」の絵を見せて、静かなほうを指す)にぎやかですか。
S:いいえ、にぎやかじゃありません。
T:(にぎやかなほうを指す)静かですか。
S:いいえ、静かじゃありません。
練習B-2
◆キューを出し、否定形を作らせる
T:山田さん、元気
S:山田さんは元気じゃありません。(リピート練習)
導入:イadj.くないです

ナ形容詞の否定形は名詞と同じ形ですが、イ形容詞は全く異なるので、よく確認します。また、ここで「ナ形容詞とイ形容詞の分類を覚えなければならない意味」がはっきりと生じます。
T:(「忙しい/暇」の絵を見せて、忙しいほうを指す)暇ですか。
S:いいえ、暇じゃありません。
T:(暇なほうを指す)忙しいですか。
S:いいえ、忙しいじゃありません。
T:忙し・く・ない・です。(強調)

さいごの「い」が「く」に変わることに注目させます。
T:(「大きい/小さい」の絵を見せて、大きいほうを指す)小さいですか。
S:いいえ、小さくないです。
T:(小さいほうを指す)大きいですか。
S:いいえ、大きくないです。
◆「よくないです」
T:(「いい/悪い」の絵を見せて、いいほうを指す)悪いですか。
S:いいえ、悪くないです。
T:(悪いほうを指す)いいですか。
S:いいえ、いくないです。
T:よ・くないです。(強調)

「よくないです」は、定着に時間がかかるので、今後も繰り返し確認します。
練習B-3
◆キューを出し、否定形を作らせる
T:この自転車、新しい
S:この自転車は新しくないです。(リピート練習)
導入:とても/あまり

「とても」「あまり」は程度を表す副詞ですが、程度の感覚は人によって違うため導入が難しいです。架空の人物を設定し、比較しながら行うとよいでしょう。
T:(男の人と、女の人2人、ミラーさんの絵を用意し、それぞれのセリフで)
男:ミラーさんはハンサムですか。
女1(普通の顔):はい、ハンサムです。
女2(目がハート):はい、とてもハンサムです。
T:(女の人と、男の人3人、彼らの部屋の絵を用意し、それぞれのセリフで)
女:部屋はきれいですか。
男1(片付いた部屋):はい、きれいです。
男2(ゴミだらけの部屋):いいえ、きれいじゃありません。
男3(少し散らかった部屋):いいえ、あまりきれいじゃありません。
わたしのへや は あまり きれい じゃありません。

「あまり」は常に否定形を伴うことを強調します。
練習B-4
◆実施例1:キュー出しで行う
T:ミラーさん、ハンサム。
S:ミラーさんはハンサムですか。(リピート練習)
T:(【○】を出す)
S:はい、ハンサムです。(リピート練習)
◆実施例2:2人の会話として、パワーポイントを使って行う
T:(Aさんの絵の上に【ミラーさん、ハンサム?】と出し)ミラーさんは・・・(質問するよう促す)
S:ミラーさんはハンサムですか。(リピート練習)
T:(Bさんの絵の上に【○】を出す)
S:はい、ハンサムです。(リピート練習)
◆実施例3:ペアで練習
例を確認してからペアで練習。終わったら発表させるなどし、Tの口から正しい文を発話しリピートさせる。
導入:Nはどうですか
T:S1さんは、いつ日本へ来ましたか。
S1:今年の4月に来ました。
T:日本の生活はどうですか。おもしろいですか。いそがしいですか。たのしいですか。
S1:おもしろいです。
T:そうですか。S2さんは?日本の生活はどうですか。
S2:いそがしいです。
…おもしろいです。
…いそがしいです。
T:S3さん、日本の食べ物はどうですか。
S3:たかいです。
T:S3さん、S4さんに。
S3:S4さん、日本の食べ物はどうですか。
S4:おいしいです。
(続けて繰り返す。途中で「食べ物」を別のものに変える。学生に考えさせてもよい)
導入:~。そして~。/~ですが、~。
◆そして
T:日本の電車はどうですか。
S:便利です。
T:(1を指で表す)便利です・・・(2を出して)
S:きれいです。
T:はい、日本の電車は便利です。そして、きれいです。

よく「便利ですときれいです」という誤用が生まれます。「と」(4課)は名詞の並列の機能を持つ助詞で、「そして」は文と文をつなぐ接続詞です。
◆~が
T:日本語はどうですか。
S:おもしろいです。
T:おもしろいです・・・
S:むずかしいです。
T:日本語はおもしろいですが、難しいです。

「私はお金がありませんが、お酒を買います」のような動詞文は、ここでは扱いません。
◆違いを確認
T:便利です。きれいです。いいです。
おもしろいです。いいです。むずかしいです。わるいです。

いろいろな例を出し、「+/+」または「-/-」のときは「そして」、「+/-」または「-/+」のときは「が」を使うことを理解させます。「そして」は二文の間に置き、「が」は一文の中にあることにも注意させましょう。
(+はいい意味の言葉、-は悪い意味の言葉という意味です)
また、「私の町は小さいですが、親切です」という文も生まれます。その場合は、「小さい、は町です。親切、は人です。」と、言及の対象が変わってしまっていることに気づかせましょう。
練習B-5
◆パワーポイントでAさんとBさんの会話として見せるとわかりやすい
T:(Aさんの上に日本の地下鉄の絵と【?】を出し、セリフで)日本の地下鉄はどうですか。(リピート練習)
(Bさんの上に【便利】【きれい】を出す)
S:便利です。そして、きれいです。(リピート練習)
T:(Aさんの上に日本の車の絵と【?】を出し)日本の車・・・?(文を作るよう促す)
S:日本の車はどうですか。(リピート練習)
T:(Bさんの上に【高い】【いい】を出す)
S:高いですが、いいです。(リピート練習)
(続けて2~4も行う)
練習A-3:ナadj.-なNです/イadj.-いNです
導入:ナadj.-なNです/イadj.-いNです
◆ナadj.-なNです
T:(新宿の写真を見せて)これはどこですか。
S:新宿です。
T:そうですね。新宿は(人がたくさんいるところを見せて)にぎやかです。
新宿は人ですか。国ですか。町ですか。
S:町です。
T:新宿は町です。新宿は、にぎやかな、町です。
T:(富士山の写真を見せて)これはなんですか。
S:富士山です。
T:富士山です。有名ですね。富士山はなんですか。人?町?
S:山です。
T:富士山は・・・
S:富士山は有名な山です。
(ほかにもいくつか例を挙げて確認する)
◆イadj.-いNです
T:(東京駅の写真を見せて)これはどこですか。
S:東京駅です。
T:そうです。とても大きいです。東京駅は大きい駅です。
T:(富士山の写真を見せて)富士山です。富士山は3,776mです。高いですね。
富士山は・・・?
S:富士山は高い山です。
(ほかにもいくつか例を挙げて確認する)
◆名詞修飾確認

Appleのパソコンを見せ、以下の文を板書する
これは わたし( ) パソコンです。
おおきい( )
べんり( )
T:(一つ目のカッコを指し)これは?
S:の
T:これは私のパソコンです。(リピート練習)
(二つ目のカッコを指し)これは?
S:(首を振る、などする)
T:これは大きいパソコンです。(リピート練習)
(三つ目のカッコを指し)これは?
S:な
T:これは便利なパソコンです。(リピート練習)

特に中国の学生に多いのですが、「大きいのパソコン」「便利のパソコン」など、名詞修飾をなんでも「の」で言う誤用が頻出します。中国語で名詞修飾を作るときに「的」を使うことに起因しているのかもしれませんが、中級になってもこの誤用が化石化してしまっている人がゴロゴロいます。今の段階から根気強く訂正していきましょう。
◆3つの名詞修飾の練習
一つの絵を見せ、名詞・ナ形容詞・イ形容詞の名詞修飾を作らせます。『文型練習帳』の36ページを活用してもよいでしょう。
練習B-6
◆キューを出し、文を作らせる
T:大阪、にぎやか、町
S:大阪はにぎやかな町です。(リピート練習)
導入:どんなNですか
T:(大阪の写真を見せて)大阪はにぎやかな町ですか。小さい町ですか。どんな町ですか。
S1:にぎやかな町です。
S2:おもしろい町です。
T:(京都の写真を見せて)京都はどんな町ですか。
S1:静かな町です。
S2:古い町です。

学生がよく知っている町で行います。ただし、誰かの出身地や出身国だと、悪口が出てきてしまったとき困ります(特にコロナ関連で武漢は注意が必要です)ので、日本のどこかや学生と縁のない国・地域にしておきましょう。
…にぎやかな まちです。
…おもしろい まちです。

「どんな」の後には必ず名詞が来ること、答えも形容詞の名詞修飾で答えることを徹底します。
T:S1さんの町はどこですか。
S1:北京です。
T:北京はどんな町ですか。
S1:にぎやかな町です。
T:S1さん、S2さんに。(質問するよう促す)
S1:S2さんの町はどこですか。
S2:ホーチミンです。
S1:ホーチミンはどんな町ですか。
S2:おもしろい町です。
(同様に繰り返す)
練習B-7
◆パワーポイントでAさんとBさんの会話として見せるとわかりやすい。ペアワークにしてもよい
T:(Aさんの上に【奈良】【町】【?】を出し、セリフで)奈良はどんな町ですか。(リピート練習)
(Bさんの上に【静か】を出す)
S:静かな町です。(リピート練習)
T:(Aさんの上に【七人の侍】【映画】【?】を出し)七人の侍は・・・?(文を作るよう促す)
S:七人の侍はどんな映画ですか。(リピート練習)
T:(Bさんの上に【おもしろい】を出す)
S:おもしろい映画です。(リピート練習)
(続けて2~4も行う)
導入:ナadj.-な/イadj.-い NをVました
T:(花の写真を見せる)これは何ですか。
S:花です。
T:そうですね。(「買います」を見せて)これは何ですか。
S:買います。
T:はい。花を買います。どんな花ですか。
S:きれいな花です。
T:きれいな花を買います。
(ほかの動詞でも確認する)
練習B-8
◆キューを出し、文を作らせる。個人で取り組ませてから確認してもよい
T:きれい、花を買いました。
S:きれいな花を買いました。(リピート練習)
活動:3ヒント
◆「3つのヒントから答えを考えるクイズ」を考える
活動の流れ:
1.例として「これは冷たいです」「これは白いです」「これは飲み物です」を出し、答えを考えさせる(答えは牛乳)
2.同じようなクイズを作らせる(3つのヒントのうち2つは形容詞文にするよう伝える)
3.グループ、あるいはクラス全体でクイズ大会をする
教師用メモ
「どう」と「どんな」の違い
どう:聞き手が経験したこと・訪れた場所・会った人などについて、印象・意見・感想などを聞く
どんな:話し手がよく知らない人物や物事について、状態や性質を尋ねる
上記の説明は『翻訳・文法解説』に書いてありますが、正直これを読んでもよくわからない、という学生もいると思います。かといって、この違いを今の段階で学生に説明するのは難しいです。
かみくだいていえば、「Nはどうですか」は経験してわかった(経験しないとわからない)こと、「どんなNですか」は見て(見れば)わかること、について尋ねていますので、以下のように説明します。
(みんなが知っているであろうA大学のホームページを見ながら)
T:A大学です。わかりますか。学生は〇〇人です。A大学はどんな大学ですか。
S:大きい大学です。有名な大学です。
T:そうですね。A大学は、どうですか。おもしろいですか。たのしいですか。
S:・・・
T:わかりません(ジェスチャーで示す)。どんな大学ですか。Webサイトを見ます。わかります。どうですか。行きません。わかりません。
さらに、「どんな」は必ず後ろに名詞が接続することも強調しておきましょう。
「楽しい」と「おもしろい」の違い
たのしい:enjoyable 自分が出来事に参加して得た感情を説明するときに使う
おもしろい:interesting 自分が見るなりして感じた、モノの属性を説明するときに使う
○パーティーは楽しかった ○パーティーはおもしろかった
×あの漫才は楽しかった ○あの漫才はおもしろかった
○勉強しているとき、楽しい ×勉強しているとき、おもしろい

「ハンサム」と「かっこいい」の違い
ハンサム:人にのみ用いる
かっこいい:モノゴトにも用いられる
彼は ○ハンサムだね ○かっこいいね
その時計、×ハンサムだね ○かっこいいね
×ハンサムな ○かっこいい 事言うね

「ハンサム」は今どきあまり使いませんので、「かっこいい」や「イケメン」を教えてあげるのもいいでしょう。テレビやアニメの影響で、すでに知っている学生も多くいます。
「親切」と「優しい」の違い
親切:相手にとって有益となる行為
優しい(43課):相手を思いやる気持ち
つまり、老人に席を譲った人を見て「彼は親切だ」と言えば、それは彼の行いに注目し「老人にとって有益な行為をした」と評していることになり、「彼は優しい」と言えば、それは彼の内面に注目し「老人を思いやった」と評していることになります。
学生はよく「母は親切です」や「母は私に親切にしてくれます(41課)」といいますが、家族について説明する場合は、「親切」より「優しい」を使ったほうがよいでしょう。
「彼はいいです」
「彼はいいです」は、言わなくもないですが誤用とします。「いい」だけでは何が「いい」のかわからないからです。「彼は性格がいいです」や「彼はいい先生です」のように、「いい」が指すものが限定され、「性格がいい」=「優しい」、「いい先生だ」=「教え方がうまい」等とわかれば可です。
「とても」の使い方
「とても」は形容詞と状態動詞の前に置かれ、肯定文で使用します。この段階で使い方を完璧に指導するのは難しいですので、学生から非文が出てきた場合はさらっと訂正しましょう。
◆「とても」の使い方を問うクイズ
答えと解説はこちら↓



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