私のレッスンで多いのが
「読解と聴解ってどうやって教えるんですか」
という質問。日本語能力試験では読解や聴解も様々な形式で出題されるので「コレ」と一言で述べるのは難しいですが、ここでは「だいたいこんな感じです」というのを簡単に紹介したいと思います。
読解の教え方
ボトムアップとトップダウンというものがあります。端的に言うならば、前者が下から丁寧に教える方法、後者はその逆です。
ボトムアップ型
少子高齢化というテーマの読解を読むとします。本文を読む前にテーマについて話します。
T:少子高齢化って知ってる?
S:知りません
T:漢字見て。子どもが、少なくなる。高齢、化は変化という意味だね。つまり?
S:子どもが少なくなって、おじいさんが増える
T:今日はこの少子高齢化についての読解を読むよ。皆の国ではどう?
のような感じで学生の先行知識を活性化、要は読む前の準備体操をするということです。さらにボトム(底)から始めることもできます。本文内の語を全てさらっておいたり、難しそうな文型の復習をしておいたりすればより本文が読みやすくなるでしょう。
トップダウン型
T:はい、授業を始めます。今日は暑いね。じゃまずはこれ読んで(読解問題配布)
ボトムアップの逆です。補助輪なしでいきなり読ませます。本来はこちらの方がいいのですが、レベルの低い学生や、非漢字圏の学生はボトムアップでまずは言葉を練習してからでないと『読む』という活動ができない、読解どころではないのです。読解の途中で文法の解説、語の解説をすると、その授業が読解ではなく、文法・語彙の授業になりかねません。
本来はこちらの方がいいのですが、と述べましたが、試験(留学生ならばJLPT・EJU)とはそういうものです。試験の前に試験内容についての準備体操などあるはずがありません。だから、ボトムアップでやっているクラスもいずれトップダウンに次第に移行、慣れてもらうしかないのです。
読解授業中の教師の役割
それでは、授業中教師は何を言い、すればいいのかを説明します。ボトムアップは紹介したので、ここからはトップダウンでの教師の動き方を説明します。
- 読解問題配布
- 時間を計る(タイマーや時間は見えるようにする)
- どんな話だったか聞く
- 段落ごとの話を聞く。または、その繋がりを聞く
- 個別または全体に当てながら答えを確認
- 適宜解説
タイマーを見えるようにするのは時間を意識させるためです。さらに、読解は教師が終わりと言っても読み続ける人が多いですが、タイマーが鳴ると皆やめます。タイマーには人の行動を止める不思議な力があるのです。さらにタイマーを見せることで、なかなか読み始めない学生を半強制的に読ませることもできます。タイマーには人の行動を開始させる不思議な力があるのです。
全体でどんな話かを聞き、段落ごとの内容も確認します。先に答えを言うと、学生のその設問に対する興味が失せます。答えは最後です。後は、答えを聞く➔間違いが多ければ解説➔答えを聞く、の繰り返しです。学生の間違いが少なければ特に解説はしません。一つ一つの設問に解説をしていたら時間がいくらあっても足りないからです。
文章の読み方
以下、いくつか読解を読む際のコツを紹介します。
①まず出典を読む
何について書かれた本なのかは本がタイトルでわかることがあります。つまり、文章の最後に書かれている出典を読めば、先行して本の内容がわかるのです。しかし、これに頼り過ぎるとミスリードされてしまうこともあるので、あくまで参考までに、と伝えた方がいいです。
②文中の接続詞にも気を付ける
「しかし・なぜなら」などの文頭にある接続詞に注目するのはもちろん、文中にも接続詞はたくさんあります。例えば、理由を表す「~のである(輸出が増えた。円安が進んだのである)」などがあります。
文章全体でどのような構成になっているのかがわかれば、読解を早く、正確に読み進められます。
辞書に注意
読解中、一から十までわからない言葉を調べつくし、きれいに読めるようになってから読み始める学習者がいます。読解は道をきれいに整備してから読むものではなく、暗闇の中読み進めるものです。
辞書を使わせないようにしましょう。
試験中に辞書など使えません。わからない言葉にぶつかった時にその言葉の意味を推測する方法を教えなければなりません。 授業中に辞書を自由に使えるようにすると、学習者の推測する力が養えません。
もし使わせるのなら、「答えを全て選んだ後なら使ってもいい」ということにした方がいいです。
聴解の教え方
次に聴解です。N1とN2の聴解のパターンです。
聴解にもトップダウンとボトムアップがありますが、やり方は読解とだいたい同じなので、省きます。
聴解授業中の教師の役割
- 聴解問題配布
- 個別または全体に当てながら答えを確認
- 適宜解説
聴解は、解説を
①一つずつやる方法
②まとめてやる方法
とがあります。聴解は問題がどんどん流れ、読解と違い、目に見える形で残りません。つまり、解説が②だとしにくいのです。問題を10聴いてから解説を始めても、学生は最初の方の問題を覚えていません。
そこで①です。一つ問題を聴いては解説、また一つ聴く、とやれば解説が効果的になります。
しかし、JLPTは問題が一つ一つ止まる訳ではありません。集中力の持続も試されているのです。あまりJLPTとかけ離れた形式で問題を解くのはよろしくないので、①と②の折衷案で問題を3つから5つ聞いたのち、解説をします。そして、たまには問題を一度も止めず、20分や50分ぶっ続けで聴いて練習をするといいでしょう。
紙を配るだけならだれでもできる
読解や聴解に限らず、語彙、文法全ての科目は教える前に教師自身もしっかり予習しなければ適確なアドバイスができません。問題用紙と答えをこしらえ、教室に向かい紙を配り答えを言う、そんなことは誰でもできます。
ここに書いているのは大まかな流れに過ぎません。読解聴解指導法の中の1割にも満たない、大変拙いものです。読解ならばスキミング・スキャニング能力や指示詞の役割を教えたり、聴解ならば頻繁に用いられる縮約形を教えたりと、学生が本当に知りたいこと、どう読めば読解で点数が取れ、どう聞けば聴解で点数が取れるのかを予習しながら考えることが教師には求められます。
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