『みんなの日本語 初級II 第二版』完全準拠。
導入や練習の仕方、教師として知っておきたい文型のポイントなどを解説します。
学習項目
練習A
1.V[辞書]/V[テ]いる/V[タ]ところです
2.V[タ]ばかりです
3.~はずです
教案
新出語彙
日本で生活していれば、そろそろ新出の動詞くらいは聞いたことがある、という学生も多いかもしれません。ただし意味まではしっかり把握できていない可能性もあるので、確認しておきましょう。
★ポイント
- 焼きます/焼けます:他動詞/自動詞。参考までに、英訳の”bake”は乾燥させながら焼く、”grill”は火の上で焼く、”roast”はじっくり焼く(あぶる)、というイメージがある。ほかにもtoastなども日本語では「焼く」である
- ついています:ラッキー、の意。つねに「~ている」の形で使い、「私はつく」とは言わない
練習A-1:V[辞書]/V[テ]いる/V[タ]ところです
「ところ(所)」は8課で空間的場所で既出です。この課では時間的位置、その瞬間を指す「ところ」を扱います。
導入:3つの「~ところ」
◆今日勉強する3つの「ところ」を紹介。PPTを使って会話を見せるとわかりやすい
T:(食事を前にしている人と、電話をしている人の絵を見せる)Aさんは、これからご飯を食べます。「いただきます」そのとき、電話がきました。Bさんが話します。「もしもし、いまいいですか」。Aさんは答えます。「すみません。いまからご飯を食べるところです」。Bさん「わかりました。じゃ、またあとで」。
T:(食事している人と、電話している人の絵)Aさんは今食事しています。またBさんから電話です。「もしもし、もうご飯を食べましたか」。Aさんは答えます。「いいえ、まだです。今食べているところです」。Bさん「わかりました。じゃ、またあとで」。
いまごはんを たべている ところです。
T:(食事が終わった人と、電話している人の絵)Aさんはご飯を食べました。「ごちそうさまでした」。またBさんから電話です。「もしもし、もうご飯を食べましたか」。Aさんは答えます。「はい、たったいま食べたところです」。Bさん「そうですか、じゃあ・・・」。
いまごはんを たべている ところです。
たったいまごはんを たべた ところです。
S:ところです
はじめに3種類提示することで、「ところ」とその前の形に注意が向き、「ところ」の概念を理解しやすくなるほか、「この3種類は何が違うのか」というところも意識して授業に臨めるようになります。
導入:V[辞書]ところです
「時間がかかるもの」や「瞬間動詞」は接続できません。
例)×今から子どもを育てるところです。
×これから結婚するところです。
◆もういちど、先ほど導入で使ったAさんとBさんの絵を見せる
T:もう一度見ましょう。Bさん「もしもし、いまいいですか」。Aさん「すみません。いまからご飯を食べるところです」。
T:「ところ」の前は何形?
S:辞書形です。
S:先生、食べます、食べるところです、何が違いますか
T:「食べます」は、すぐ、いいです。明日食べます、いいです。「食べるところです」は、すぐ、だけいいです。
:〇すぐ 〇明日、来週 〇いつも
食べるところです
:〇すぐ ×明日、来週 ×いつも
T:それから、この「ところです」は、「いまからしますから、待ってください」や、「いまからします、一緒にしますか」という意味があります。
◆フラッシュカードで変換練習
T:宿題をします。いまから?
S:宿題をするところです。
T:寝ます。
S:寝るところです。
・・・
練習B-1
◆例を確認してからペアで練習する
始める前に、「Vるところだ」とよく一緒に使う言葉(これから、ちょうど、等)を確認してから始めるとスムーズです。
導入:V[テ]いるところです
「無意志動詞」「瞬間動詞」は接続できません。
×いま雨が降っているところです。
×いま結婚しているところです。
◆もういちど、先ほど導入で使ったAさんとBさんの絵を見せる
T:もう一度見ましょう。Bさん「もしもし、もうご飯を食べましたか」。Aさんは答えます。「いいえ、まだです。今食べているところです」。
S:先生、これも「待ってください」ですか。
T:宿題をします。いま?
S:宿題をしているところです。
T:ご飯を食べます。
S:ご飯を食べているところです。
・・・
◆よく使う形「~ので……」を導入
T1:じゃ、こんどはこれを見てください(AさんがBさんを誘っているPCを見せる。Bさんはイヤそうな顔をしている。教師がA役になり)Bさん、今から飲みに行きませんか。
T2:(今度は教師がBさん役になる)すみません、今勉強しているところなので……
T:Bさんを見てください。嬉しそうですか。
S:いやそうです。
T:そうですね。じゃこの「ので」の後ろは何だと思いますか。
S:行きません/行きたくないです。
T:そうです。でもはっきり言わなくてもいいです。
この「~ています」と「~ているところです」の違い、ニュアンスの差を直接法で説明するのは限界があります。ですので、「~ので、ちょっと待ってください」と一緒に使うなどして、「ているところ」の利用価値を上げてあげないと、学習者の覚えようというモチベーションも上がりません。
練習B-2
◆Tが質問し、Sに考えて答えてもらう
T:AさんとBさんが話しています。私がAさんをしますから、みなさんはBさんの答えを考えてください。パンはもう焼けましたか。いいえ、いま・・・(学生に発言を促す)
S:いま焼いているところです。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
教科書に載っている答え以外のものも生まれるかもしれません。なるべく学生から出てきた答えを生かしていきましょう。もちろん、これが難しければキュー出しにしたりペアワークにしたりしても良いでしょう。
導入:V[タ]ところです
◆もういちど、先ほど導入で使ったAさんとBさんの絵を見せる
T:もう一度見ましょう。Bさん「もしもし、もうご飯を食べましたか」。Aさんは答えます。「はい、たったいま食べたところです」。
T:どういう意味ですか。
S:今終わりました。
T:そうですね。今終わりました。そして、「~たところです」をつかうとき、どうしましたか?どうしますか?残念です、そんな気持ちがあります。
S:残念です?
T:はい。この例を見てください。(先生と学生が話している)この学生はカキアゲ先生に会いたいです。○○先生に聞きます。「すみません、カキアゲ先生はいますか」○○先生は答えます。「あ~残念。カキアゲ先生は、たったいま、帰ったところですよ」。このようにつかいます。
T:宿題をします。たったいま?
S:宿題をしたところです。
T:終わります。
S:終わったところです。
・・・
練習B-3
◆例を確認してからペアで練習する
ペアワークのやり方は様々です。まだ文がうまく作れそうにないと感じたら、全体で正しい文を確認してからペアでもう一度練習させてもいいでしょう。また、終わってから教師のキューに続いて全体でリピート練習すると、最後に正しい文を自分の口で練習して終わることができます。
まとめ
T:じゃまとめましょう。「するところです」はどういう意味?「しているところです」は?
S:「するところです」は今からします。「しているところです」はちょうど今しています。
T:じゃ「したところです」は?
S:ちょうど今終わりました。
しているところです:ちょうどいましています
したところです :ちょうどいまおわりました
答えと解説はこちら↓
練習B-4
◆例を確認してからペアで練習する
「~ところです」の前の形を自分で判断する必要があります。いきなりペアでやるのが難しそうなら、まず全体で確認してからペアで練習しましょう。
練習A-2:V[タ]ばかりです
この文型も「~した直後である」という話者の気持ちを表すものですが、「~ところだ」との違いは、「~ところだ」は客観的に見て直後であり、「~ばかりだ」は主観的に見て直後である、という点です。したがって、話者が直後だと思えば2年前の出来事であっても「~ばかりだ」で言うことができます。
×この家は2年前に建てたところだ。
○この家は2年前に建てたばかりだ。
関連 「ばかり」を使った文型一覧
- 用法①:直後
- 「たばかりだ」【N4】
ごはんを食べたばかりだ
- 「たばかりだ」【N4】
- 用法②:継続
- 「ばかりだ」【N2】
成績は下がるばかりだ
- 「ばかりだ」【N2】
- 用法③:過多
- 「ばかり」【N4】
おかしばかり食べる
- 「ばかり」【N4】
- 用法④:累加
- 「ばかりでなく」【N3】
日本語ばかりでなく英語も話しなさい - 「ばかりか」【N2】
日本語ばかりか英語も話せる
- 「ばかりでなく」【N3】
- 用法⑤:原因
- 「ばかりに」「N2」
熱が出たばかりに試験を受けられなかった
- 「ばかりに」「N2」
- 用法⑥:様子の描写
- 「とばかり(に)」【N1】
今日がチャンスとばかりに買いあさる - 「んばかりに」【N1】
あふれんばかりの笑顔だ
- 「とばかり(に)」【N1】
- 用法⑦:だいたい
- 「ばかり」
3人ばかり人手が足りない
- 「ばかり」
導入
T:皆さんは日本語が上手になりましたか。
S:まだです。
T:どうしてですか。
S:まだ半年です/1年です。
T:そう。皆さんは日本へ来たばかりです。
T:半年前に日本に来ました。日本にいる時間は短いですね。そのとき、「ばかりです」を使います。
その他導入・練習例
- 3年前に家を建てたばかりです。
- 去年結婚したばかりです。
- 引っ越ししたばかりです。
- 先週給料をもらったばかりです
- 一週間前に退院したばかりです
- 桜が咲いたばかりです
◆「ところ」と「ばかり」の違い
S:先生、「きたところです」と同じですか。
T:ちょっと違います。「ところです」は、本当に少し前。1分とか、2分とか。ですから、「半年前に日本へ来たところです」は変です。でも、「ばかりです」は、日本に来て半年、これはとても短い!私は短いと思います!私は!私が短いと思うとき、1分でも2分でも、半年でも3年でも、いつでも「ばかり」を使っていいです。
練習B-5
◆例を確認してからペアで練習する
復習:「ばかりなので」と「ばかりなのに」
◆2人の留学生の絵や状況を提示する
T:この男の学生は、2カ月前に日本へ来たばかりです。日本語が上手じゃありません。えーと (男の発話として)「わたしは・・・しゅみの・・・サッカーにします・・・?」2か月前に日本へ来たばかりなので、日本語が上手じゃありません。
T:じゃ今度は女の学生を見てください。この人も、2か月前に日本へ来たばかりです。でも、、、(女の発話として)「私の趣味は映画を観ることです!」ええ!?2か月前に日本へ来たばかりなのに、日本語が上手です。
2かげつまえににほんへ きた ばかりなのに、にほんごがじょうずです。
S:「のに」は、おどろきます。
T:そうですね。「ので」は、日本語が上手じゃありません。どうして?2か月前に日本へ来たばかりなので。どうして?を説明するときに使いますね。
練習B-6&7
◆キュー出しで行う
T:息子は先週退院しました。まだスポーツができません。「ばかり」と「ので」を使って1つの文にしましょう。
S:息子は先週退院したばかりなので、まだスポーツができません。(リピート練習)
(同様に1~4,練習B-7も行う)
余裕があれば、6と7を混ぜて文を提示して、「ばかりなので」か「ばかりなのに」を考えさせたり、これらの文を使って自由に後件作成をさせても面白いです。
練習A-3:~はずです
話者の「確実にこうだ」という推量を表します。自分自身には使えません。
×私は結婚するはずです。
なお、否定形は「ない形+はずだ」で教授し、「~はずがない」は教えません。
推量用法まとめ
はずだ (46課)
でしょう (32課)
と思う (21課)
かもしれない (32課)
導入
◆まずは「確実にこうだ」と言える根拠の強いものから導入
T:(女の人と男の人の絵を見せる)女の人が話します。「私の弟は大学生です。9時から授業があります。いま、9時10分です。弟はいま、大学にいるはずです。」
T:どういう意味ですか。
S:いると思います?
T:そうです。いると思います。でも、この「はずだ」は、「弟は大学生」「9時から授業」「いま9時10分」・・・いろいろインフォメーションがあって、99%いると思います!の時に使います。
T:弟は、5時からアルバイトをします。いま5時10分です。弟は大学に?
S:いないはずです。
おとうとはいまだいがくに いない はずです。
◆ほかの品詞
(数億円するような高い絵画を値段を伏せて見せる。絵は素人目には下手な絵にするといい)
T:これを見てください(絵画を見せる)。
S:何ですかこれは。
T:絵です。どうですか。
S:下手ですね。
T:そうですね。安いですか、高いですか。
S:安いです。絶対安いです。
T:でも本当に安いかどうかわかりませんから100%の「絶対」はだめですね。99%なら?
S:安いはずです。
T:じゃいくらだと思いますか。
S:3000円!
T:ほんとうに?
S:99%!
T:これは3億円です(「300000000円」と板書)。
S:ええ!?
T:誰が書いたと思いますか。
S:わかりません。
T:でも、3億円ですから、絵を描いた人は有名なはずです。
◆推量復習
T:今まで皆さんは「たぶん」の言い方をたくさん勉強しました。例えば何がありますか。
S:なになにと思います。
T:21課で勉強しましたね。
S:なになにかもしれません。
T:32課で勉強しました。46課は「はずです」。
L46:はずだ…90%(自分の推量にかなり自信がある)
L32:でしょう…80~90%(客観的)
L21:と思う…60%(根拠が少なく、主観的判断が強い)
L32:かもしれない…50%(不確実性が高い)
◆QAで練習
Q:先生は結婚できると思いますか
A:はい、できるはずです
- ○○先生は今どこにいますか
- 新しいiPhoneはいつ発表されますか
- この高いケーキはおいしいですか
練習B-8
◆例を確認してからペアで練習する
教師用メモ
中級でも頻出の「ところ」
この初級の「~ところ」の用法は実に簡単で楽しいのですが、簡単過ぎてなめてかかるSも出ます。しかし、実はこの「~ところ」、中級で非常に様々な使い方をし、かなり面倒な文型なのです。
たとえば【ところ+『だ』『だった』『に』『を』『が』】など、他にも偶然の発見など(先生に聞いたところ、答えがわかった)、JLPT文型中でも使い方が多い部類です。ここで少しでも「~ところ」に馴染んでもらうのと、負担を少なくする事を目指しましょう。
関連
勉強する必要性を説く
みん日を二つに分けるなら29課が境目だと29課で書きましたが、45課と46課の間にも大きな壁があるように感じます。「ところだ」、47課の「ようだ」などもそうです。
「たった今仕事が終わったところだ」と言おうが、「たった今仕事が終わった」と言おうが、意味に大差はありません。意味に影響を及ぼさない文型だからこそ、学習者もあまり使おうとしません。
そこで上述した通り、「これを勉強し、覚えたら、こんなニュアンスで相手に伝わる。これがないとこんな問題が起こる」といったことを学習者に説くことで多少はそれを防げます。
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