『みんなの日本語 初級I 第二版』完全準拠。
導入や練習の仕方、教師として知っておきたい文型のポイントなどを解説します。
学習項目
練習A
1.~と思います(推量)
2.~と思います(意見)
3.~と言いました
4.~でしょう?
教案
新出語彙
新出の動詞に、「役に立ちます」など抽象的なものが増えてきました。絵カードなどで伝えることが難しい場合は、具体例を出して理解させましょう。
★ポイント
- 言います:意見を言います/[普通形]と言います
対象(意見、名前、住所等)には「を」、内容(おいしい、学生だ、勉強した等)には「と」を使う - あります:ある事柄(行事など)が行われる。場所は助詞「で」で示す。
7課「お金があります(所有)」、8課「あそこに鞄があります(存在)」、33課「電話があります」 - そんなに:8課の「あまり」同様、否定形と共起
- 本当に:後ろに続く言葉を強調する。参:「本当に好き・本当は好き」違い
練習A-1:~と思います (推量)
導入
推測の「~と思います」は、名詞で導入するのが一番簡単です。まずは推測の意味をつかんでもらって、じゃあ「~と」の前の形は?と言う流れを作りましょう。なお、「だ」の欠落がよく見られますので強調して教えます。
◆教師の昔の頃の写真や、教師が旅行先で撮った拡大写真を見せ、推量の用法の概念を説明する
T:これは誰ですか。(教師の昔の頃の写真を見せる)
S:ええ~、誰ですか。かわいいですね。先生ですか。
T:私?田中先生(一緒に組んでいる先生の名前)?鈴木先生?
S:うーん・・・カキアゲ先生?
T:カキアゲ先生ですか、田中先生ですか、鈴木先生ですか、わかりません。でも、カキアゲ先生だと思います。
◆一見してなんだかわからないおもしろグッズを、何だと思うか聞く
例:畳めるホッチキス、寿司の形のUSB、口紅の形のボールペンなど
T:じゃ、これを見てください。(ワサビチューブのようなマーカーを見せる)これは何だと思いますか。
S:えーワサビ?
T:ワサビ・・・
S:ワサビ、と思います。
T:ワサビだ(強調)と思います。
S:ワサビだと思います。
T:そうですか。違います。ワサビじゃありません。はい、どうぞ。見ていいですよ。
S:ああ、ペンですね。
(いくつか繰り返す)
おもしろグッズを使った導入は2課でも紹介しました。同じクラスでやる場合は、モノがかぶらないようにしましょう。
◆「~と」の前の形が普通形であることを導入
T:はい、「~と思います」、わかりましたか。うーん、どうですか、Aですか、Bですか、なんですか、わかりません。でも、私は・・・(頭を指すなど、「思う」ジェスチャー)ワサビだと思います。
T:はい、「~と思います」の、ここ。(~の部分を指す)カキアゲ先生だ、ワサビだ、寿司だ。なに形ですか。
S:普通形です。
T:そうですね。「~と思います」は、普通形を使います。
すしだ
練習
「普通形+と思います」がわかったら、あとはひたすら練習します。まだ普通形がすらすら言える段階ではないと思うので、様々な品詞、時制、肯定/否定で練習しましょう。
◆キュー出しで変換練習
T:「彼は明日学校へ来ます」、「~と思います」は?
S:彼は明日学校へ来ると思います。(リピート練習)
(以下のような文で練習)
- 母は今日出かけません
- 部屋にだれもいません
- 今日の試合は日本が勝ちます
- 明日は暑いです
- 週末はいい天気です
- 彼は部屋で寝ています
否定の形は
「出かけないと思います」
「出かけると思いません」
の2通りありますが、この課では上の方のみ扱い、「~と思いません」は導入しません。
練習B-1
◆上と同じように、キュー出しで行う
T:ミラーさんは会議室にいます。「~と思います」は?
S:ミラーさんは会議室にいると思います。(リピート練習)
(続けて1~4も練習する)
練習:後件作成
◆前件を与えて、後ろの文を「~と思います」で作らせる
T:Aさんは、アメリカに10年間住んでいました。S1さん、文を作ってください。アメリカに10年間住んでいましたから・・・
S1:英語が上手だと思います。
T:いいですね。S2さんは?
S2:うーん、ハンバーガーが好きだと思います。
導入:「きっと」「たぶん」
「きっと」も「多分」も、なくても意味は大きく変わりません。ジェスチャーや声の大きさなどで、ニュアンスを伝えましょう。
◆学生の国で有名なスポーツ、またはワールドカップやオリンピックなどを使う。
T:これはなんですか。(フィギュアスケートの写真)
S:スケートですね。
T:そうです。じゃこの人は?(羽生結弦選手の写真を見せる)
S:ゆづるさんですね。
T:はい。私はゆづるさんが好きです。もうすぐオリンピックがあります。私はきっと!きっと!!(強調する)ゆづるさんが勝つと思います!!
T:じゃ、これは?(サッカーの写真)
S:サッカーですね。
T:はい。来年、ワールドカップがあります。どうですか、S1さん、どの国が勝つと思いますか。
S1:ブラジルが勝つと思います。
T:そうですねえ。日本は?
S1:日本は、あまり・・・
T:どのくらいだと思いますか。ベスト8?ベスト16?
S1:うーん、わかりません。
T:そうですね。私も分かりません。うーん、たぶん、ベスト16だと思います。
練習B-2
◆例を確認して、ペアで練習する
まだ学生の口がうまく回らない場合は、キュー出しなどで行ってもいいと思います。クラスの状況に合わせましょう。
活動:ジェスチャーゲーム
◆教師、または学生の一人が何か動作を行い、見ているものは「~していると思います」で答える。似ている動作があり、いくつか答えが出るものが良い。
T:みなさん、見てください。今私は何をしていると思いますか。
S1:本を読んでいると思います。
T:違います。本じゃありません。
S2:新聞を読んでいると思います。
T:はい、いいですね。じゃ、次S2さん。
(繰り返す)
練習A-2:~と思います (意見)
導入
推量用法の「と思います」との違いをはっきり示したいので、意見がクラスで二分するような話題で導入します。クラスにもよりますが、いきなり経済などの難しい言葉で導入しないように注意しましょう。
T:(人によってイケメンかどうかが分かれそうな絶妙な顔を見せる)皆さん、この人はハンサムですか。
S1:ハンサムです!
S2:ハンサムじゃありません。
T:S1さん、この人はハンサムですね。
S1:はい、好きです。
T:じゃS1さん、どうぞ。(板書を指す)
T:S2さんは?
S2:ハンサムじゃありません、ハンサムじゃないと思います。
T:そうですね。
このひとは ハンサムじゃない とおもいます。
T:じゃこの人は?(先生の写真を見せる)
S:きれいと思います!
T:きれい・・・?
S:きれいだと思います!
「S1さんはこの人がハンサムだと思います。」のように、他人の思考内容を述べる文は正しくありませんので(「思っています」「思いました」等ならOK)、混乱を避けるために「S1さんは~と思います」という文は作らないようにし、常に主語を「わたし」にしておきましょう。
練習
◆キュー出しで変換練習
T:「日本語が上手です」~と思いますは?
S:日本語が上手だと思います。(リピート練習)
(以下のような文で練習)
- 新宿はにぎやかです
- 英語の勉強はむだじゃありませんでした
- 手紙よりメールの方が便利です
- テストは簡単でした
- 野菜は体にいいです
- 日本語は難しいです
- たばこは体によくないです
- 日本のおかしは甘くないです
- 昨日は暑かったです
- この辞書は役に立ちます
- 学生は勉強しなければなりません
◆簡単な意見述べの練習
T:S1さん、日本の物価は安いですか。
S1:いいえ、高いと思います。
T:そうですか。じゃ、S2さん、車と電車とどちらが便利だと思いますか。
S2:車の方が便利だと思います。
T:そうですか。S3さんはどうですか。
S3:うーん、東京は、電車の方が便利だと思います。
(ほかにも以下のような質問が可)
- 犬と猫とどちらになりたいか
- 日本語と英語とどちらが簡単か
- お金と時間とどちらが大切か
できるクラス、またはアカデミックなレベルを目指しているクラスは、理由も聞いて「~から。」で答えさせましょう。初中級以降の意見文の初歩を鍛えることができます。
練習B-3
◆上と同じように、キュー出しで行う
T:漢字の勉強はおもしろいです。「~と思います」は?
S:漢字の勉強はおもしろいと思います。(リピート練習)
(続けて1~4も練習する)
練習B-4
◆例を確認して、ペアで練習する
先ほど同様、まだ学生の口がうまく回らない場合は、キュー出しなどで行ってもいいです。余裕があれば、これらの内容について学生の意見を聞いてみましょう。
導入:Nについてどう思いますか
「Nについて」は、話題としてNを取り上げ、意見を述べたりするときに使う表現です。日常生活ではあまり使わず、ややかたい表現になりますので、教師側から話題を提供するとよいでしょう。
◎ 日本の経済/物価について
? 昼ごはん/宿題について
◆学生の興味のありそうなトピックを選ぶ
T:みなさんは電車に乗りますか。
S:はい、毎日乗ります。
T:そうですか。日本の電車について、どう思いますか。便利ですか。きれいですか。
S1:きれいと思います。
T:きれい?と?
S1:きれいだと思います。
T:S2さんは?日本の電車について、どう思いますか。
S2:便利ですが、ちょっと難しいと思います。
… [ふつうけい] と おもいます。
◆様々なトピックで意見を問う
- 日本の学生について
- 日本の文化について
- 自分の国の文化について
- インターネットについて
- 日本のコンビニについて
練習B-5/練習C-1
◆例を確認して、B-5はペアで、C-1は3人グループで練習する
余裕があれば、これらの内容についても学生の意見を聞いてみましょう。また、練習Cでは「~ですが、~と思います」、「私もそう思います」の言い方を確認します。
練習A-3:~と言いました
導入:「~~~」と言います(直接引用)
これは練習AやBにはありませんが、例文には提出されています。ここでは、あいさつを用いて直接引用を導入・練習します。
T:日本で、ご飯を食べます。あいさつは何ですか。
S:いただきます。
T:そうですね。ご飯を食べる前に、「いただきます。」と言います。
T:じゃ、ご飯を食べました。何と言いますか。
S:「ごちそうさまでした。」と言います。
T:はい、じゃ、出かけます。何と言いますか。
S:「行ってきます。」と言います。
T:はい、じゃ、うちに帰りました。何と言いますか。
S:「ただいま。」と言います。
(以下のようなあいさつで練習する)
- おはようございます
- おやすみなさい
- こんにちは
- こんばんは
- さようなら
- ありがとうございます
- すみません
導入:~~~と言いました(間接引用)
◎私は部長に会社を辞めると言いました。
△(Bさんに向かって)Aさんは会社を辞めると言いました。
伝言でない場合は、「~と言いました」で他者の発言を間接引用することができます。
◎Aさんは私に会社を辞めると言いました。
◎キング牧師は、夢があると言いました。
◎今、店の放送で今日はセールがあると言いましたか。
◆絵カードやPPTなどで絵を見せながら、自分の発言の引用で導入
T:これは私です。私は部長に言いました。「会社を辞めます。」(吹き出しで、私の横に出す)それから、友達に会いました。友達に言います。「私は部長に、会社を辞めると言いました。」(吹き出しで、私の横に出す)
S:普通形?
T:そうです。「~といいました」の前も、普通形です。
直接引用と間接引用の違いは、今はそこまで徹底して教える必要はありません。以下のような質問が出たら、対応します。
S:先生、じゃ、「いただきます」は「いただく」ですか。
T:いいえ、「いただきます」は、あいさつですから。「いただく」じゃよくわかりませんね。あいさつのとき、「 」を使います。(板書の「いただきます」のカッコを指す)
S:先生、それを使って、「私は部長に「会社を辞めます。」と言いました」もいいですか。
T:はい、いいです。でも、ちょっと長いですね。ですから、よく普通形を使います。
◎わたしはぶちょうに、かいしゃをやめる といいました。
〇わたしはぶちょうに、「かいしゃをやめます。」といいました。
練習B-6
◆絵を拡大したものを用いて行う
T:(例の絵とセリフを提示する)この人はキング牧師です。キング牧師は何と言いましたか。
S:夢があると言いました。
T:そうですね。キング牧師は夢があると言いました。(リピート練習)
(続けて1~4も行う)
例)キング牧師(Martin Luther King, Jr.:米)
夢があります→I have a dream.
牧師=Father, Pastor
1)ガリレオ(Galileo Galilei:伊)
地球は動きます→E pur si muove!
「それでも地球は動く/動いている」として有名な言葉
地動説=the Copernican theory, the Heliocentrism
2)アインシュタイン(Albert Einstein:独)
私は天才じゃありません→I have no special talent.
「私には特別な才能などありません」として有名な言葉
3)フランクリン(Benjamin Franklin:米)
時間はお金です→Time is money.
「時は金なり」という諺のもとになった言葉
4)ガガーリン(Yurii Alekseyevich Gagarin:露(ソ連))
地球は青かったです→The Earth was bluish.
宇宙飛行士=astronaut
練習A-4:~でしょう?
ここでは、聞き手に対する事実の確認や同意の期待である、文末が上昇調の「でしょう?」を扱います(断定に近い推量の「~でしょう。」は32課)。これは目上の人に使うと失礼になるので、導入や練習も第三者を使ったほうがよいでしょう。
導入
◆窓の外に雪が降っている絵、母親と、外から帰ってきた子供の会話で導入
T:ここ、見てください。(窓の外を指す)これは何ですか。
S:雪です。
T:そうですね。暑いですか、寒いですか。
S:寒いです。
T:はい、そして、この男の子。今、家に帰りました。頭に雪がありますね。お母さんは言います。「寒かったでしょう?」(吹き出しで出す)お母さんは、外が寒いです、知っています。知っていますが、男の子に聞きます。「寒かったでしょう?」ここは何形?(「寒かった」を指す)
S:普通形ですね!
さむかった
T:じゃ、これ、(夫婦の絵を見せる)この人は夫です。この人は妻です。今夜の10時です。夫がうちに帰りました。妻は何と言いますか。
S1:つかれたでしょう?
S2:おなかがすいたでしょう?
さむかった
つかれた
おなかがすいた
T:夫は今朝、明日は休みだと言いました。妻はもう一度明日は休みですか、チェックしたいです。何と言いますか。
S:明日は休みだでしょう?
T:明日は休みでしょう?名詞と、それからナ形容詞の時は、普通形の「だ」を使いません。
さむかった
つかれた
おなかがすいた
あしたは やすみ
しごとは たいへん
T:この、「~でしょう?」は、友達や家族にだけ使います。先生や店長に使ってはいけません。
練習B-7
◆キュー出しで行う
T:明日は休みです。「~でしょう?」は?
S:明日は休みでしょう?(リピート練習)
(続けて1~4も行う)
練習B-8
◆例を確認して、ペアで練習する
「~でしょう?」の上昇調アクセントは、難しいと感じる学生も多いようです。ペアワークの後に全体でもう一度練習してもよいでしょう。
教師用メモ
~でしょう?
「教え方の手引き」にはこれを目上に使うと失礼ということは言っていないのですが、実際には失礼にあたります。普通形は「だろう?」ですが、「でしょう?」も目上には使わないように言った方がよいでしょう。
例:×(先生に)外は寒かったでしょう?
×(店長に)店長、明日も来るでしょう?
「~でしょう?」の代わりとして、目上にも使えるのは「~ですよね?/ますよね?」が近いですが、終助詞のニュアンスの説明をするのは難しいです。目上にはどのように言ったらいいか聞かれたら、「外は寒かったですか」や「店長、明日も来ますか」と、知っていても知らないていで聞く言い方を提示しましょう。
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