日本語を効果的に教えるためには、学習者が直感的に理解できる方法が求められます。直接法は、日本語を日本語だけで教えるアプローチであり、特に多国籍の学習者が集まる環境で有効です。
この記事では、直接法を用いた単語と文型の教授法を、具体的に解説します。教師が「喋りすぎない」ことや、視覚的・実演的な手法を活用することで、学習者の理解を深める方法を中心に紹介します。
単語の教え方:動詞・名詞・形容詞
単語の指導は、学習者が新しい語彙を自然に吸収できるように設計する必要があります。動詞、名詞、形容詞のそれぞれについて、具体例を交えて解説します。
動詞の教え方:実演で直感的に
動詞は動作を表すため、ジェスチャー(以下、G)を活用することで直感的に理解させることが可能です。例えば、「食べる」や「泣く」といった初級レベルの動詞は、教師の実演で効果的に伝えられます。
例:食べる
学生(S):食べますは何ですか?
教師(T):(箸を持ち、食事をするG。音を立てて食べる動作を見せる)
S:(動作を見て理解)
このように、言葉よりも動作で示すことで、学習者は意味を即座に把握できます。教師が言葉で説明しすぎると、学習者は混乱し、表情が曇ってきます。そのため、教師は注意深く観察し、必要最低限の言葉で教えるべきです。
例えば、以下のように具体例を交えると効果的です:
S:食べますは何ですか?
T:ごはんを食べます(G)。パンを食べます(G)。ジュースは?
S:飲みます!
この手法は、具体例と確認問題を組み合わせることで、学習者の理解を深めます。同様に、「泣く」も泣くGや笑うGを対比させることで、言葉を使わずに意味を伝えられます。
ただし、動詞によっては誤解のリスクがあります。例えば、「歩く」を教える際、歩くGだけでは「移動する」「動く」「進む」という単語を教えていると誤解される可能性があります。この場合、以下のように対比を用います:
- T:歩きます(歩くG)。
- T:走ります(走るG)。
これにより、「移動する」という曖昧な解釈を排除し、ついでに「走る」も教えられます。より複雑な動詞(例:「判別する」「顧みる」)は初級では扱わず、段階的に導入しましょう。
名詞の教え方:視覚的アプローチ
名詞は具体的な事物を指すため、画像や実物を使うと効果的です。例えば、「テレビ」を教える場合、画像を見せるだけで意味が伝わります。これは幼児が言語を獲得する過程に似ており、視覚情報が学習を加速します。未習語(学習者がまだ知らない語彙)も、画像を用いれば一発で理解可能です。詳細は以下のリンクを参照してください:
形容詞の教え方:比較で明確に
形容詞は抽象的で、誤解を招きやすいため、比較を用いた指導が有効です。例えば、「おいしい」を教える際、以下のようなジェスチャーは誤解を招く可能性があります:
S:おいしいは何ですか?
T:(頬に手を当て、恍惚の表情で「ん~♪」とG)
S:(「甘い」「幸せ」と誤解)
同様に、「高い」は「値段が高い」「背が高い」「気温が高い」など多義的です。特に、学習者の母語(例:中国語では「年齢が大きい」)との違いが誤解を招きます。解決策は、比較対象を提示することです:
T:(背の高い学生を呼び、背の低い教師と並ぶ)〇〇さんは背が高いです。私は背が低いです。
このように、具体的な比較で焦点を絞り、誤解を防ぎます。
誤解を防ぐ指導のポイント
単語指導では、学習者の誤解を防ぐことが重要です。例えば、青くて透明な大きめのコップを指して「これはコップです」と言うと、学習者は「水」「青い」「大きい」と誤解する可能性があります。
このような場合、複数例(小さいコップ、ガラスの・金属のコップ、赤いコップなど)を提示することで、正確な理解を促します。
文型の教え方:状況設定が鍵
文型指導では、適切な状況設定が不可欠です。学習者が文型の使用場面をイメージできないと、理解が困難になります。以下の例で、悪い導入と良い導入を比較します。
悪い導入例
カッコ内は学生の心の声です。
T:ここはデパートです(え、教室じゃないの?)。何を買おうかな?あ、かわいいかばん!(何もない)すみません、これはいくらですか(誰に話しかけてるの?)
この例では、状況が不明確で学習者が置いてけぼりになります。
良い導入例
T:(デパートの写真を見せる)ここ(デパートの写真を指差しながら)はどこですか?
S:デパートです!
T:デパートで何が欲しい?(各階の案内掲示板を見せる)
S:かばんが欲しいです!
T:店の人がいます(店員の写真を指差しながら)、すみません、これはいくらですか
このように、視覚的補助(絵カード)を使い、対話を通じて状況を共有することで、学習者は文型の使用場面を自然に理解します。絵カードは教室の制約を打破し、教師の説明を最小限に抑える強力なツールです。詳細は以下を参照:

丁寧体の重要性
当サイトでは初級の授業での教師の話し方が全て「~です」「~ます」になっています。これは丁寧体と呼ばれるものです。
なぜこのような話し方をするのかというと、丁寧体で話さないと学習者がわからないからです。
日本語は活用が面倒です。(例:「行く」の「行きます」「行って」「行けば」など)は初級学習者にとって複雑です。「行けば」が「行く」の条件形だと理解するのに時間がかかります。丁寧体を用いることで、学習者は一貫した形に慣れ、会話がスムーズに進みます。
中級ぐらいになれば丁寧体でなくともわかるのですが、初級の内はこうしないとなかなか授業になりません。
詳細な活用形については以下を参照:
直接法と間接法の比較
最後に、直接法に対して、間接法というのがあります。この間接法とは日本語学習者に学習者の母語で言語を教えることです。
日本語を日本語で教えることを直接法と呼びますが、この直接法は日本国内では広く用いられています。その理由は様々な国籍の留学生が集まる教室で使える共通語が日本語だからです。
間接法は主に国外で用いられており、例えば韓国の日本語学校に集まる日本語学習者は韓国人なので韓国語で教授しても問題ないのです。
機関によっては国内でも日本語を学生の言語で教える場合もあります。学校の学生が単一国籍の場合がそれに当たります。他にも時間のないビジネスパーソンには間接法が用いられることが多いです。
まとめ
直接法による日本語指導では、教師の言葉を最小限に抑え、ジェスチャーや視覚的補助を活用することが鍵です。
動詞は実演、名詞は画像、形容詞は比較で教えることで、学習者の直感的な理解を促します。文型指導では、絵カードを用いた状況設定が効果的です。
さらに、丁寧体の一貫使用で初級学習者の負担を軽減します。これらの手法を実践することで、教師は学習者の理解を深め、効果的な授業を展開できるでしょう。

コメント
いつも不思議に思うのですが、物や簡単な形容詞を直接法で学習者に理解させることは
簡単だと思いますが、ごく普通に使っている言葉「とんでもない」だの「気を利かす」だのを直接法で教えられるものでしょうか?
可能です。というか、教えられないものはありません。確かに抽象的な、ご質問にあるような語は難儀しますが、そのような語を教える段階の日本語学習者ならば、状況を設定して説明したり、例文をわかるまで提示することで教授できます。
返信ありがとうございました。日本語を直接法で教えるのは骨が折れることだな、という
ことは理解できました。