日本語教育において、「未習語」とは学習者が学校や授業でまだ習っていない語彙を指します。初級レベルの授業では、未習語の使用に対して慎重な姿勢が取られることが一般的です。しかし、私は特定の条件を満たす場合、未習語を積極的に活用すべきだと考えます。この記事では、未習語の使用が避けられる理由と、効果的に使用するための2つの条件を解説し、適切な活用法を提案します。
未習語の使用が制限される理由
初級レベルの日本語教育では、未習語の使用が敬遠される傾向があります。その主な理由は、未習語が学習者の理解を妨げ、授業の焦点である学習項目への集中を阻害する可能性があるためです。例えば、以下のような状況を考えてみましょう。
学習者が「電気屋で新しいパソコンの所在を質問し、店員の返答を理解する」というタスクに取り組んでいるとします。このとき、教師が次のように発話した場合:
「重さ2キロ以内で仕様書付き、日本製のブルートゥース対応パソコンはどこですか?」
この発話には「仕様書」「ブルートゥース」など、初級学習者にとって未習の語彙が多く含まれます。結果として、学習者は内容を理解できず、混乱し、タスクの達成が困難になります。このような事例から、未習語の使用が授業の効果を下げるリスクがあると考えられています。
未習語を効果的に使うための2つの条件
しかし、未習語の使用が常に不適切とは限りません。私は、以下の2つの条件を満たす場合、未習語を積極的に取り入れるべきだと主張します:
- 画像や視覚的手段で簡単に説明できる
- 学習者の興味を引き、学習ニーズに応える
これらの条件を満たす未習語は、学習者の理解を助け、授業をより魅力的かつ実際的にします。以下で、この2つの条件を具体例とともに詳しく説明します。
条件1:画像で簡単に説明できる
未習語が画像やジェスチャーで直感的に理解可能であれば、学習者の負担を軽減し、効果的な学習を促します。例えば、「マウス」や「キーボード」といった語彙は、初級学習者にとって未習である場合が多いですが、パソコンやその部品の画像を見せることで一瞬で意味を伝えることができます。このような視覚的補助を用いることで、未習語が学習の妨げになるリスクを最小限に抑えられます。
対照的に、複雑な概念を含む未習語(例:「仕様書」)を画像だけで説明するのは困難です。このような語彙は、初級段階では避けるべきでしょう。以下のような対話例を比較してみましょう:
非効果的な例
教師:ジェットコースターって知ってる? あの、遊園地…遊園地わからない? 東京ディズニーランドとか知らないかな? 遊びます、大きい場所、乗り物、わー楽しい!(ジェスチャー)
学習者:ああ……たぶんわかります…効果的な例
教師:ジェットコースターって知ってる? これ(ジェットコースターの画像を見せる)
学習者:ああ、はい、わかります!

このように、画像を用いることで未習語の意味を迅速かつ明確に伝えることが可能です。
条件2:学習者の興味を引き、ニーズに応える
未習語が学習者の日常生活や関心に関連している場合、学習意欲が高まり、記憶にも残りやすくなります。例えば、以下のような語彙は、初級学習者にとって未習である可能性が高いものの、日常生活で頻繁に接する実用的な語彙であり、学習者の興味を引きます:
- 靴下
- ハンガー
- ティッシュ
- レジ
- レシート
これらの語彙を画像とともに提示すると、学習者は「へえ、あれはそういう名前なんだ!」と興味を示し、積極的にメモを取る傾向があります。なぜなら、これらの語彙は教科書で学ぶ「保証書」や「山登り」といった語彙よりも、学習者の実生活に密接に関連しているからです。このように、学習者のニーズに応える未習語は、学習効果を高める強力なツールとなり得ます。
未習語使用に慎重な姿勢が必要な理由
未習語の使用を推奨する一方で、全面的な賛成ではなく「一部賛成」の立場を取る理由があります。
それは、未習語の適切な選定には教師の経験と判断力が求められるためです。特に、経験の浅い教師にとって、どの語彙が学習者にとって理解可能で、どの語彙が画像で効果的に説明できるかを判断するのは容易ではありません。
例えば、1回の授業で10~20もの未習語を導入したり、画像で説明しにくい抽象的な語彙を無理に取り入れると、学習者の混乱を招き、学習意欲を低下させるリスクがあります。このため、未習語の使用には「取捨選択」が重要であり、適切な語彙の選定と視覚的補助の活用が成功の鍵となります。
結論:柔軟な未習語の活用を
私のレッスンを受けている方で日本語教師養成講座の方が多くいらっしゃいます。そして、講座では、「未習語を使うな」と厳しく指導されることが多いようです。皆さんこの「未習語禁止」に悩んでいます。
私はこのような厳格な禁止は必ずしも必要ないと考えます。学習者の実生活に役立ち、画像で簡単に説明できる未習語は、学習の効果を高め、授業をより魅力的にします。
学習者のことを考えてそう注意しているのでしょうが、ガチガチに未習語禁止を徹底させるから教師が教案を見ながら授業をしてしまうのです。
未習語の使用は、①画像で示せること、②学習者の興味やニーズに応えることという2つの条件を満たす場合に限り、積極的に取り入れるべきです。このバランスを保つことで、学習者の理解を深め、実践的な日本語力を養うことができるでしょう。詳細な指導法については、こちらの記事も参考にしてください。


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