試験には小テストから期末試験、科目で分ければ読解や聴解、語彙、文法の試験と様々な種類があります。試験作成の際に心がけるべきこと、試験の作り方、そして作成時に役立つワードのちょっとした操作のコツなども紹介していきます。
試験作成法
試験作成の際、私が最も気をつけている事は途中で休憩せず一気に作り上げる事。途中休憩や、作成が自宅なら寝る事もありますが、試験を作ってる時はそれが大変危険。試験は語彙や読解と分かれているものなら作りやすいですが、初級~初中級ぐらいは総合的な問題、副詞助詞文型漢字語彙読解活用を試す問題などを全て詰め込むため、どこか一つを見落とすと答えがバレてしまいます。具体的には大問1で
車( )欲しいです
という助詞の問題を出します。飛んで大問4で
( )が欲しいです
という名詞を書かせる問題を出します。これだと大問1の答えがバレます。この辺に気をつけながら、試験を作っていきます。
総合
初級では総合的な力を測る試験が実施されます。上でも書きましたが、総合的とは、副詞や助詞、文型、漢字、語彙、読解、活用を試す問題などを全て1つの試験に詰め込んだものです。
日本語能力試験(JLPT)の出題形式と異なる部分が多いのもこの「総合」の特徴の一つです。例えば、JLPTでは選択肢が4つですが、学校で行う試験は4つとは限りません。
以下、いくつか形式の例を紹介します。
助詞を括弧に入れる問題
適当な副詞を括弧内の選択肢から選んで丸で囲む問題
画像を見て、文を完成させる問題
四角の中の語群から一つ選び、括弧内に正しい形にし、指示通りに書く問題
上の画像にはないものも含まれています(私が入れ忘れました)が、初級段階ならば、まず例を、その後 1)➔2) と作った方がいいでしょう。
ルビも上の画像では私が入れるのを忘れていますが、下記記載の理由により、入れてください。
聴解(点数調整用)
聴解はどうするのか。
使用しているテキストのスクリプトを少し変えて、同僚に協力してもらい、音声を入れて作れます。
それから、試験で厄介なのが、点数の調整です。これはディクテーションがおすすめです。
まずは自由にテストを作ってみて、余りの点数をディクテーションで埋めると楽です。
単語を変換させて表内に書く問題
ワードに慣れていないと、少し作りにくい表かもしれません。以下に作り方を説明します。
知っている方は飛ばし読みしてください。
まず、2つの表を並べるのがす。まずは4行×5列の表を挿入します。完成品では4列になっていますが、後で1列消します。
以下のような表が現れます。
次に、以下のように、中央部を選択し、ホームタブから罫線を選び、下罫線、上罫線、横罫線を選択します。これで、真ん中の線が消えます。
点線に見えますが、
これを印刷画面にすると、以下のようにちゃんと消えているのです。
後は、レイアウトタブの配置から両端揃え(中央)を選択すると、きれいに見えます。
ちなみに、表に書かせる問題は、下の画像のように表の高さが低いと、学習者が書きにくいですし、採点者も答えを近くに書きにくいので、表の高さは10mm以上にするといいです。
以上、表の挿入のやり方でした。変換だけでなく、様々な場面でも使えます。
配点法
配点は、簡単な問題は点数が低く、難しいものは高いというのがセオリーですが、逆にすることもあります。つまり、問題が簡単なのに点数を高く設定するのです。
なぜそうするのか。できないクラスに自信を持ってもらうためです。負け癖がついてしまった学習者やクラスはテストに対する意欲が著しく低いです。そんな彼らに「自分はできるんだ!」と勝ち癖をつけてもらうためにこのような対応をします。
難しい問題は0点になる訳ではないので、できる学習者は難しい問題も正解して他の学習者と差ができることに満足できます。
まとめると、以下のようになります。
【Aパターン】
問題が簡単 :点数低い
問題が難しい:点数高い
- クラス内の点数格差が大きくなる
- できない学習者の意欲が下がる
- 負け癖がつく場合がある
【Bパターン】
問題が簡単 :点数高い
問題が難しい:点数低い
- クラス内の点数格差が小さくなる
- できない学習者の意欲は下がらない
- 勝ち癖がつく
ルビの付与
ルビは非漢字圏が多ければ、付けた方がいいでしょう。
例えば、文法の試験で、全ての漢字にルビが振られていなかったとしたら、下の2点が問題になります。
- 不公平
- 測りたい能力が測れない
漢字圏の学習者は習っていない漢字でもなんとなく意味がわかります。読めなくても問題ありません。しかし、非漢字圏の学習者は意味はもちろんわかりませんし、読むこともできません。
漢字圏グループをA、非漢字圏グループをBとしましょう。AとBの文法の能力はまったく同じです。文法、読解、活用、何の試験でも構いませんが、とにかく試験を実施したとします。試験の問題文や選択肢には一つもルビがありません。AとB、どちらのグループが高得点を取るかは日本語教師でなくてもわかります。
これが不公平という意味です。
2つ目の、測りたい能力が測れないという事について。例えば、読解の試験を実施します。試験の問題文や選択肢には一つもルビがありません。読解能力を測りたいのに、Bグループは漢字が読めないので読解に集中できません。
「漢字も含めて日本語だ!」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、だったらなぜ科目ごとに試験を行うのかを考えてみてください。
ルビは全て入れる必要はありません。「男」や「出」「見」「日本語」など、複雑ではない漢字は例えば50課であればさすがに入れなくてもいいです。
JLPTも全ての漢字に振られているわけではないので、ある程度はあえてルビを振らず、「これぐらいの漢字は最低限わからないとJLPTの問題も解けないよ」というメッセージを伝えなければなりません。
もしこれで学習者から「漢字がわからなかったのでできませんでした」とクレームが来たら、「じゃJLPTも合格できないし、専門学校や大学の試験もできないよ。この学校でやっている試験はそういう学校の試験、JLPTの試験に合格するための練習だから、これぐらいの漢字は読めるようにしておいて」と諭します。
カンニング対策
日本語教育機関ではカンニングが蔓延しています。カンニングをやらせないことに尽力するよりも、できない環境作りに尽力した方が賢明です。
日本語能力試験(JLPT)の不正行為(カンニング・情報流出)はどのように行われるのか
できない環境作りの一例を紹介します。
マークシート方式での解答欄作成です。
文法
語彙
読解
聴解
しかし、このマークシート方式は、下のような問題文に解答欄があり、直接書き込む解答形式
と違って学習者にとってのデメリットが大きいです。上のような解答形式を直接記述式と呼ぶことにし、それぞれのメリットとデメリットを説明します。
直接記述式
メリット
- 問題文の中に解答欄があるので、書くところを間違えるということがほとんどない
- 学習者に返却した際に、学習者が見直ししやすい
デメリット
- 教師の添削が大変
- カンニングがしやすい
マークシート方式
メリット
- 試験作成が比較的楽
- カンニングがしにくい
デメリット
- 問題文の中に解答欄がないので、書くところを間違えるということが起こりやすい
- 学習者に返却した際に、学習者が見直ししにくい
なぜマークシートだとカンニングがしにくいのか。
小さいからです。通常のマークシートより小さめに作ることで、席が近くても答えが何番か判別できなくなります。
学習者を優先するか、添削者を優先するか
「教師が楽するために学習者に苦労を強いるのか、そんなの教師失格だ!」と言われることがありますが、教師は教師である以前に学習者と等しく人間です。学習者のためを思い過ぎて添削が大変になることは往々にしてあります。しかし、その添削の量があまりにも人間的でなくなるということは避けなければなりません。
ただ、初級は直接記述の方がいいです。初級はまだ日本語に慣れていません。そんな状況で問題と解答欄が分かれていると、能力以外のマイナス点が増えてしまい、学習者の正しい力が測れません。
試験を評価する者とされる者
試験は作る人と、それをチェックする人がいます。
- 一人で作って、
- それを自分でチェックし、
- 実施
までいくことはプライベートで教えていない限りありません。
プライベートで教えているならば、自分の家族か友人に頼んでチェックしてもらった方がいいと思いますが(素人のチェックではありますが、しないよりマシでしょう)、教育機関に属しているのなら、同僚にチェックをしてもらうようにしましょう。どちらにしても理由は同じ、自分の間違いは自分では気づかないからです。
指摘されて初めて「なぜこんなことも気付かなかったんだろう」という間違いが見えてきます。
私はテスト作成を後輩に指導する際、あまり細かく言うことはしません。特に「こうした方が見やすいよ」という言葉は、よく私が指導を受けていた際にもらっていた言葉なのですが、「見やすさ」なんて主観的なものです。
しかし、試験には絶対に外せない要素というのがあります。例えば、問題1と問題2を以下のAとBのパターンで作ったとします。
【A】
問題1 この道( )曲がります。
問題2 友達( )会います。
【B】
問題1 この道( )曲がります。
問題2 友達( )会います。
Aは問題と問題の間が狭く、これは2問しかないのでわかりにくいですが、例えばこれが10問も続いていたとしたら、非常に
- 見にくい
- 問題の区切りがわかりにくい
などといった問題が出てきます。この問題間の間隔は一例に過ぎません。他にもテストに欠かせない要素はいくつもあるので、作成する際は先輩教師に聞いてみてください。
officeはエクセルで作るか、ワードで作るか
エクセルは中級者向け、ワードは初級者向けです。慣れればエクセルの方が効率的で、きれいに作れます。
しかし、エクセルの重さには注意です。作業中にフリーズ、自動シャットダウン、データ喪失、復元不可ととても実用的な働きをしてくれません。原因も調べ、アニメーションをオフにする、自動保存を切るなど色々やりましたが、無駄でした。
ちなみに上のマークシート方式の画像ですが、最後の聴解はエクセルで作成、他3つはワードです。印刷してしまえば同じ出来栄えなので、データ喪失のリスクを負うぐらいなら、慣れたワードで作った方がいいかもしれません。
まとめ
- 初級は詰め込んだ形式の試験が多い
- ルビは学生間で不公平にならないように
- 試験はマークシートで作ると色々楽
- マークシートは学習者に負担を強いる
- 初級は直接記述の方がいい
- 作った試験は見てもらう
- 試験作成はなんだかんだでワードが無難
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