『みんなの日本語 初級II 第二版』完全準拠。
導入や練習の仕方、教師として知っておきたい文型のポイントなどを解説します。
学習項目
練習A
1.お+V[マス]+します
2.ご+N+します
3.特別な謙譲語
4.(私が)[謙譲語]
5.謙譲語Ⅱ(丁重語)
教案
新出語彙
特別な謙譲語も語彙として出てきています。
★ポイント
- 私:「私」は本来の読みかたは「わたくし」である。実際には「わたし」にも「私」の漢字を使うが、みんなの日本語では「わたし」はひらがな表記で統一されている。
敬語の基礎知識
敬語とは何かや、敬語の種類については49課にまとめてありますのでよかったらご一読ください。
また、「敬語5分類と敬語の作り方、二重敬語について」にもまとめてあります。
謙譲語の種類
謙譲語は、上記にあるように謙譲語ⅠとⅡ(丁重語)にわけられ、謙譲語Ⅰはさらに2種類あります。
謙譲語Ⅰ
1.お+V[マス]+します/ご+N+します
2.特別な謙譲語
基本的に動詞のⅠ・Ⅱグループは「お~します」、Ⅲグループのスル動詞は一部を除き「ご~します」を使うが、「特別な謙譲語」がある場合、「お~/ご~します」は使わない。
〇お書きします ーーー
〇お読みします ーーー
○ご案内します ーーー
×お食べします 〇いただきます
×おいします 〇おります
×おしします ○いたします
×お来します ○まいります
謙譲語Ⅱ(丁重語)
相手より自分が下であることを見せるために使われるもので、行為の受け手がいない。聞き手に対する敬語、とも言われる。決まった語しかない。
・~と申します
・~より参りました
・~いたします
・~ております
練習A-1:お+V[マス]+します
「いる・見る・する・来る」など特別な謙譲語を持つものは「お/ご~する」の形にならないので、ここでは提出しないように注意しましょう。
導入
◆尊敬語の時と同様、社長の絵を使って導入する
T:今日も社長の絵を使います。皆さんは社員です。49課では、社長がすることに尊敬語を使いましたね。社長は朝9時にいらっしゃいます、とか。5時にお帰りになります、とか。きょうは、私がすることを言うときに使う、謙譲語を勉強します。
T:じゃ、これを見てください。(社長と大きい鞄を見せる)社長の鞄は大きいです。重いです。社長はおじいさんですから、重い鞄を持つのは大変です。何と言いますか。
S:私が持ちます。
T:そうですね。それをもっと丁寧に言います。わたくしがお持ちします。
T:「お持ちします」が謙譲語です。
S:「わたくし」は「わたし」ですか。
T:そうです。私、は「わたし」の丁寧な言い方です。
T:もうひとつ。社長が書類を落としてしまいました。拾うのを手伝いましょう。何と言いますか。
S:お手伝いします?
T:そうです。
「お貸します」「送りします」「お話します」という誤用が非常に多く、目立ちます。これはNとVの読み方の違いによるものです。
しかし、これはこの段階の学習者だけでなく、在日10年以上、配偶者は日本人で、日本の会社で日本語を使っている私の知り合いも頻繁に間違うぐらい難しいところです。
変換練習は重点的にやっておきましょう。
◆フラッシュカードで練習
T:じゃ、お~します、の形を作ってください。書きます。
S:お書きします
T:待ちます
S:お待ちします
T:借ります
S:お借りします
・・・
◆行為の受け手がいない場合には使わないことを教授
T:じゃ、写真を撮りますは?
S:写真をお撮りします。
T:そうですね。私は社長とお客様の写真をお撮りします。これはOK。でも、「私は富士山の写真をお撮りします」はダメです。
S:どうして?
T:ほかの人が関係ないことには、謙譲語を使いません。社長の写真は、社長がいますね。だから、丁寧に言わなければなりません。でも、富士山は人じゃないです。えらくないです。だから、謙譲語を使いません。
◆謙譲語を使うか使わないか練習(動詞絵カードがあるとよい)
T:私は社長の鞄を?
S:お持ちします。
T:私は自分の鞄を?
S:持ちます。
T:社長のコーヒーを
S:おいれします
T:私は自分の猫の絵を
S:かきます
練習B-1
◆拡大した絵を用いて行う
T:(例の絵を見せる)社長は忙しそうです。何と言いますか。
S:お手伝いします。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
練習A-2:ご+N+します
Ⅲグループの動詞のほとんどは「お~します」ではなく「ご~します」になるのですが、「お電話」「お洗濯」「お掃除」など例外もあります。
謙譲語は『行為の受け手』がいる動作にのみ使いますが、Ⅲグループ動詞に受け手がいる動詞は少ないです。
ここでは受け手がいる「説明」「案内」「紹介」「用意」「招待」「あいさつ」「相談」「連絡」「予約」を扱います。
行為の受け手がいない(又は行為が自分自身に向かう)例
・私が ×ご(お)勉強 ×ご引っ越し ×ごメモ します
↑これらは言わない/例文を作らせないように注意する
導入
◆上の続きで、「ご~」を導入
T:じゃ、つぎです。社長はいつも社長室にいます。あまり、みなさんと一緒に働きません。でも今日は、みなさんが働いているフロアに来ました。社長は、みなさんのフロアをよく知りません。社長に「私が案内します」と言いましょう。
S:わたくしがお案内します。
T:はい。「案内します」は、「お」じゃなくて「ご」を使います。
S:わたくしがご案内します。
S:先生、いつ「お」でいつ「ご」ですか。
T:だいたい、「~します」のときは「ご~」です。そうじゃないとき、「お~」です。
◆フラッシュカードで練習
T:じゃ、ご~します、の形を作ってください。説明します。
S:ご説明します
T:紹介します
S:ご紹介します
T:用意します
S:ご用意します
・・・
◆「もしも先生が私の国へ来たら」・・・教師が学習者の国へ行くと仮定し、学習者がどんな対応(目上に利益をもたらす行為)をしてくれるのかを聞く
T:私は旅行がしたいです。
S:どこへ行きたいですか。
T:そうですね、S1さんの国がいいです。案内してくれますか。
S:はい、わたくしがご案内します。
T:でも旅行、一人は嫌です。
S:じゃ、友達をご紹介します。
T:バスの乗り方がわかりません。
S:バスの乗り方をご説明します。
T:泊まる家がありません。
S:私の家にご招待します。
T:食事はどうしましょうか。
S:私がご用意します。
練習B-2
◆キュー出しで行う
T:工場の中を案内します。「ご~します」を使いましょう。
S:工場の中をご案内します。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
練習:「お~します」と「ご~します」
◆QA練習。「お~します」「ご~します」を適切に使い分ける。クラスを二分してAは社長、Bは部下で、AがBに普通体で依頼、Bはそれに謙譲語で答える。1つずつABの役割を交代する。
T:じゃAグループの人、この人は何と言いますか(上司が部下に話しかける絵カードを見せる)
A:その資料を見せて
B:はい。すぐお見せします
T:じゃBグループの人、この人は何と言いますか(部下が上司を案内している絵カードを見せる)
B:ここを案内して
A:はい、お案内します
T:ご
A:ご案内します
『文型練習帳』p.158を使って文字で確認してもよいでしょう。
導入:お/ご~ましょうか
T:「お~ましょうか」は最後に「か」がありますね。これは質問です。でも、「お~します」は質問じゃありません。ですから、例えば、「先生お持ちします」はこうです(と言って有無を言わせずかばんをぶんどるように大げさにジェスチャーをする)。「先生お持ちしましょうか」はこうです(と言ってかばんを取ろうとするが、かばんに手は触れない)。「お~ましょうか」はもっと優しい言い方です。
S:ご説明しましょうか。
練習B-3
◆拡大した絵を用いて行う
T:上司のAさんと部下のBさんが話しています。Aさんが言います。この本、面白そうですね。Bさんは何と言いますか。
S:お貸ししましょうか。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
活動
◆困った状況の絵カードを見せる。困った人を助けようとしている人に空白の吹き出しを付けて「ここは?」と言い、吹き出しを埋めさせる。
家賃が払えない←お貸ししましょうか
何かを取ろうとして手を伸ばすが届かない←お取りしましょうか
のどがかわいた←水をお入れしましょうか
時計を欲しがる←お売りしましょうか
忙しそうな人←お手伝いしましょうか
練習A-3:特別な謙譲語
上述のとおり、特別な謙譲語がある場合は「お/ご~します」の形は使いません。
導入
T:社長がみなさんに言います。「ちょっと、私の部屋へ来てください。いつ時間がありますか」。みなさんは「すぐに行きます」と言いたいです。でも社長の部屋ですから、敬語を使わなければなりません。何と言いますか。
S:すぐにお行きします。
T:・・・と思いますが、じつは「行きます」は「お行きします」を使いません。尊敬語を勉強したとき、特別な尊敬語があったのを覚えていますか。いらっしゃいますとか、召し上がりますとか、ご覧になります、とか。謙譲語にも、特別な謙譲語があります。
『文型練習帳』159ページを使うなどして、尊敬動詞を使った文を作る練習をする。
T:食べます。謙譲語語は?
S:いただきます
T:います
S:おります
変換練習はフラッシュカードが便利です。以下のリンクを押すと、無料でダウンロードできます。
ダウンロードはこちら➔50課 フラッシュカード 謙譲語
練習A-4:(私が)[謙譲語]
◆先ほどの例を使う
T:はい、じゃ、社長が「ちょっと、私の部屋へ来てください。いつ時間がありますか」と言いました。私は?
S:すぐに伺います。
練習B-4
◆キュー出しで行う
T:きのう先生のお宅へ行きました。謙譲語を使いましょう。
S:きのう先生のお宅へ伺いました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
練習B-5
◆例を確認してからペアで練習する
ペアワークのやり方は様々です。まだ文がうまく作れそうにないと感じたら、全体で正しい文を確認してからペアでもう一度練習させてもいいでしょう。また、終わってから教師のキューに続いて全体でリピート練習すると、最後に正しい文を自分の口で練習して終わることができます。
練習A-5:謙譲語Ⅱ(丁重語)
これはいわゆる「聞き手に対する敬語」で、主に自己紹介やスピーチなどのときに用いられます。行為の受け手がいない、つまり偉い人がかかわってこないもので、「参る、申す、いたす、おる」等、数は限られています。
たとえば「伺う」は謙譲語Ⅰで「参る」は謙譲語Ⅱですが、「伺う」は向かう先の相手に敬意を示しているのに対し、「参る」はその行為を伝える相手に敬意を示しています。したがって、
×姉の家に伺います←姉は尊敬対称ではないため×
○姉の家に参ります
となります。
また、謙譲語Ⅱは聞き手に敬意を示すため、通常丁寧語とともに使われます。謙譲語Ⅰは行為者に敬意を示すため、そのような制約はありません。したがって、
○昨日部長のお宅に伺ったよ
×昨日姉の家に参ったよ
のように、謙譲語Ⅱは普通体で使うことができません。
導入
◆自己紹介をし、それのもっと丁寧な言い方があると紹介する。
T:ここはABC会社です(会社のイラストを見せる)。S1さんはこのABC会社に入ったばかりです。自己紹介ができますか。
S1:はじめまして。私はチョウと言います。中国から来ました。よろしくお願いします。
T:クラスメイトに、「はじめまして、私はチョウと言います」はいいですが、もっと丁寧な言い方があります。
○○から きました→まいりました
よろしくおねがい します→いたします
T:謙譲語にしましょう。言います
S:もうします
T:いきます
S:参ります
練習B-6
◆キュー出しで行う
T:丁寧な自己紹介です。カリナと言います。カリナと・・・
S:カリナと申します。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
活動
◆自己紹介
丁寧な言葉を使って自己紹介させる。『文型練習帳』p.160も参考になる。
まとめ:尊敬語と謙譲語
練習B-7
◆インタビュー活動。インタビューする人は尊敬語、される人は謙譲語を使って答える。例を確認してから、ペアで練習する。
余裕があれば、ぜひ自分の情報を使って練習させましょう。
練習C-3
◆例を確認してからペアで練習する
教科書では尊敬語の部分はすでに尊敬語で書かれていますが、これも敬体のない形になおして提示してから行うと、かなりいい練習になります。学生の様子を見ながら進めましょう。
練習問題
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教師用メモ
敬語の使用場面を意識させる
進学校ばかりの日本語学校が多いのに、学生にとって縁遠いように思われがちな敬語。専門・大学の面接、就職希望者ならば会社の、そして、進学先やアルバイト先で円滑に人間関係を進める上で敬語は必要不可欠です。しかし、彼らは「先生、大丈夫です。私達はガイジンですから」と危機感がまったくありません。是非使用場面を練習に織り込みながら授業を進めてみてください。
謙譲語にできない動詞
尊敬語は、尊敬動詞の存在で意志動詞であればほぼすべて尊敬語にすることができたのですが、謙譲語に関しては意志動詞であってもどうしても謙譲語にしにくい動詞があります。
- 降ろします(?お降ろしします)←お下げします、等はOK
- 怒(おこ)ります(?お怒りします)←お叱りします、等はOK
このように、動詞の頭に「お」がつくと「おお・・・」となって謙譲語にしにくくなります。ただこれにも例外があり、「お送りします」はOKです。
コメント
教案の作成で参考にさせて頂いております。
よく纏まっている、といつも感心致しております。
ところで、50課の資料で敬語を「尊敬と謙譲」と分けてご説明なさっている表ですが、僭越ながら、「私がお食べします」の例は如何なものかと思っております。なかなか普段の生活でこの文言を使うケースが想像できません。「お貸しします」「お話しします」「お礼します」等ならありそうですが…..
いずれ、もし、加筆なさるような事がありましたら、修正をご検討願います。
コメントありがとうございます。管理人のカキアゲです。
できるだけ学習者にとってわかりやすさを重視し、以下の2点で「食べる」を選出しました。
1.その単語(食べる)を知らない学習者がいないこと
2.変換が容易であること
しかし、おっしゃる通り違和感があると思います。修正しておきました。また何かございましたら、ご連絡いただけると助かります。