教師用メモ
敬語体系
L50では謙譲語と、L49で学習した上下ウチソトの敬語全体の体系を把握、適切に使えるようにする
「上げる」「下げる」
謙譲語は話者が聞き手や話題の人に対して敬意を表すために、話者を低めるものだが、「低める」「高める」という語彙はわからないので、「上げる」「下げる」を使う。
授業で気をつけること
1.敬語は全体的に退屈になりがちなので、QAを入れたり、RPや、VFCではなくVPCで練習するなど工夫を。概念理解よりも、FCでの入念な変換練習を。概念理解はそれほど困難ではない
2.敬語の体系を理解するには学習者にとっても教師にとっても大変である。図や表でまとめたページを作ったので、見てほしい。

大別すると3つと書いたが、現在は5つの分類になっている。詳しくは上の記事「敬語5分類と敬語の作り方、二重敬語について」へ。
教案
私がおVマスします 【自分を下げる】
- 教える際の留意点- 1.「いる・見る・する・来る」など特別な謙譲語を持つものは「お/ご~する」の形にならないので、ここでは提出しないように注意 2.謙譲語は『行為の受け手』がいる動作にのみ使うことに注意 3.「お~になります」同様、マスの前一文字とⅢグループ動詞は×。しかし、Ⅲグループ動詞の「お掃除」「お洗濯」「お電話」など、例外もある 参.ましょうか |
導入・練習
◆教師が困っている状況を作り、学習者が申し出をしたくなる状況を作る。その後にそれよりももっと丁寧な言い方があることを述べる
T:荷物重い~
S:先生、持ちます
T:ありがとう。でも、先生、お持ちします、の方が丁寧です
お持ちします。
T:ありがとうございます
お持ちします。
開けます。
お開けします。
つけます。
おつけします。
教えます。
お教えします。
S:ます形
T:そうですね。「お~します」はもっと丁寧です。そしてもっと優しい言い方があります
お持ちしましょうか。
お開けします。
お開けしましょうか。
おつけします。
おつけしましょうか。
お教えします。
お教えしましょうか。
T:「お~ましょうか」は最後に「か」がありますね。これは質問です。でも、「お~します」は質問じゃありません。ですから、例えば、「先生お持ちします」はこうです(と言って有無を言わせずかばんをぶんどるように大げさにジェスチャーをする)。「先生お持ちしましょうか」はこうです(と言ってかばんを取ろうとするが、かばんに手は触れない)。「お~ましょうか」はもっと優しい言い方です。
◆活動。他にも困った状況の絵カードを見せる。困った人を助けようとしている人に空の吹き出しを付けて「ここは?」と言い、吹き出しを埋めさせる。
家賃が払えない←お貸ししましょうか
何かを取ろうとして手を伸ばすが届かない←お取りしましょうか
のどがかわいた←水をお入れしましょうか
時計を欲しがる←お売りしましょうか
忙しそうな人←お手伝いしましょうか
「お貸します」「送りします」「お話します」という誤用が非常に多く、目立ちます。これはNとVの読み方の違いによるものです。
しかし、これはこの段階の学習者だけでなく、在日10年以上、配偶者は日本人で、日本の会社で日本語を使っている私の知り合いも頻繁に間違うぐらい難しいところです。
変換練習は重点的にやっておきましょう。
私がごⅢグループ動詞します 【自分を下げる】
- 教える際の留意点- 1.Ⅲグループ動詞に受け手がいる動詞は少ない。 行為の受け手がいない(又は行為が自分自身に向かう)例 |
導入・練習
◆「もしも先生が私の国へ来たら」・・・教師が学習者の国へ行くと仮定し、学習者がどんな対応(目上に利益をもたらす行為)をしてくれるのかという話で導入する。
T:私は旅行がしたいです
S:どこへ行きたいですか
T:そうですね、S1さんの国がいいです
S:じゃ案内します
ご案内します
T:Ⅲグループの動詞は「ご」を使います
お持ちします。
案内します
ご案内します
S:じゃ、友達をご紹介します
T:バスの乗り方がわかりません
S:バスの乗り方をご説明します
T:泊まる家がありません
S:私の家にご招待します
T:食事はどうしましょうか
S:私がご用意します
◆用途がよくわからないものを見せ、学習者が申し出るまでいろいろ試す
T:う~ん、これは・・・どうやって使うんですか。全然わかりません。うーん、あれー
S:先生、それは~です。私がご説明します
◆QA練習。「お~します」「ご~します」を適切に使い分ける。クラスを二分してAは社長、Bは部下で、AがBに普通体で依頼、Bはそれに謙譲語で答える。1つずつABの役割を交代する。
T:じゃAグループの人、この人は何と言いますか(上司が部下に話しかける絵カードを見せる)
A:その資料を見せて
B:はい。すぐお見せします
T:じゃBグループの人、この人は何と言いますか(部下が上司を案内している絵カードを見せる)
B:ここを案内して
A:はい、お案内します
T:ご
A:ご案内します
◆相手のために機会を設ける
A:ベトナム料理を召し上がったことがありますか
B:いいえ、ありません
A:では、今度私がご案内します
特別な謙譲語(動作の受け手あり) 【相手の事】
- 教える際の留意点- 1.「いる・見る・する・来る」など特別な謙譲語を持つものは「お/ご~する」の形にならない× 2.動作の受け手がある特別謙譲語:伺う・お目にかかる・いただく・拝見する・~いたします 変換練習はFC(フラッシュカード)が便利です。以下のリンクを押すと、無料でダウンロードできます。 FCはこちら➔50 FC 特別な謙譲語 |
導入・練習
T:昨日Aさんは何をしましたか(Aさんは架空の人物。絵カードでAさんを用意しておき、Aさんが店長の家へ行って、色々なことをしたという流れでキューを出していく)
S:店長の家へ行きました
伺いました。
T:店長は上の人ですから、店長の家へ「行きました」は「伺いました」になります
T:Aさんは家で何をしましたか
S:店長の奥さんに会いました
T:「会いました」は「お目にかかります」です。店長の奥さんにお目にかかりました
お目にかかりました。
T:他に何をしましたか。店長の料理を食べ・・・?
S:いただきました
T:そうです。「食べます」は「いただきます」になります
いただきました。
T:他には?
S:店長の昔の写真を見ました
拝見しました。
T:ダメです。「伺います」や「お目にかかります」「いただきます」など、特別な言い方がある言葉は、「お/ご~します」はダメです
特別な謙譲語(動作の受け手なし) 【自分の事】
- 教える際の留意点- 1.これまで謙譲語は『行為の受け手』がいる動作にのみ使うと教えてきたが、ここでは主に自分の事に対して、自己紹介などで使われる。つまり行為が他にいかず、自分で完結している。 2.本格的なウチソトが入る。社長は目上だが、会社外の人(自分グループではない人)に対しては社長の行為に謙譲語を用いる。 4.行為の向かう先に注意。 部:部長 ◆以下正しい文。 部:今週末は何するの? 部:昨日のドラマ見た? 私:ちょっとトイレへ参ります。(トイレは目上ではない) ◆以下正しくない文。 部:会議室の片づけ、どうしようかな。 部:昨日送ったメール見た? |
導入・練習
◆自己紹介をし、それのもっと丁寧な言い方があると紹介する。
T:ここはABC会社です(会社のイラストを見せる)。S1さんはこのABC会社に入ったばかりです。自己紹介ができますか
S1:はじめまして。私はチョウと言います。中国から来ました。よろしくお願いします。
T:クラスメイトに、「はじめまして、私は田中と言います」はいいですが、もっと丁寧な言い方があります
中国から来ました → から参りました
授業記録
学生の誤用
「お貸します」「送りします」という誤用が目立つ。
「お話します」も多く、これはNとVの読み方の違いによる。
敬語の使用場面を意識させる
進学校ばかりの日本語学校が多いのに、学生にとって縁遠いように思われがちな敬語。専門・大学の面接、就職希望者ならば会社の、そして、進学先やアルバイト先で円滑に人間関係を進める上で敬語は必要不可欠である。しかし、彼らは「先生、大丈夫です。私達はガイジンですから」と危機感がまったくない。是非使用場面を練習に織り込みながら授業を進めてほしい。
考察
「お降ろしましょうか」
「お降ろしましょうか」は言えないが、「お送りします」はOK
尊敬謙譲の形のまとめ
尊敬
尊敬語(受身と同形)
おVマスになりました※一文字は×(お見になる)
おVマスください(「おVマスになってください」が失礼だから)※一文字は×(お見になってください)
特別な形(いらっしゃいます)
・相手を高くする言い方
・主語は相手(先生はいらっしゃいますか)
謙譲
おVマスします
ごⅢグループ動詞します
特別な形(参ります)
・自分を低くする(=相手を高くする)
・主語は自分(私は木村と申します)
コメント
教案の作成で参考にさせて頂いております。
よく纏まっている、といつも感心致しております。
ところで、50課の資料で敬語を「尊敬と謙譲」と分けてご説明なさっている表ですが、僭越ながら、「私がお食べします」の例は如何なものかと思っております。なかなか普段の生活でこの文言を使うケースが想像できません。「お貸しします」「お話しします」「お礼します」等ならありそうですが…..
いずれ、もし、加筆なさるような事がありましたら、修正をご検討願います。
コメントありがとうございます。管理人のカキアゲです。
できるだけ学習者にとってわかりやすさを重視し、以下の2点で「食べる」を選出しました。
1.その単語(食べる)を知らない学習者がいないこと
2.変換が容易であること
しかし、おっしゃる通り違和感があると思います。修正しておきました。また何かございましたら、ご連絡いただけると助かります。