敬語とは、動詞の形を変えたり動詞に部品を加えて聞き手に敬意を表すもののことです。ここでは、日本語の敬語の分類とそれに伴う誤用や誤解について説明していきます。
動詞のグループについて
動詞には3つのグループがあります。あるルールに従ってそのグループは分けられます。構造や仕組みに興味のない方は読み飛ばしてください。
- まず動詞を「ます形(連用形)」にします
読みます 食べます 来ます - マスの前を見ます
読[み]ます 食[べ]ます 来ます(これは覚えるしかありません) - マスの前の文字を伸ばして言った時に[イ]になるものは1グループ(五段活用)で、[エ]になるものは2グループ(一段活用)です※。します・来ますは3グループ(変格活用または、カ変動詞とも)
※一段活用には数は少ないですが、例外があり、起きます 見ます 借ります います 降ります 浴びます 足ります 着ます などはマスの前が[イ]ですが、2グループです。
敬語の5分類
敬語は2007年まで3分類でした。尊敬語と謙譲語、そして丁寧語です。それが2007年に5分類になりました。尊敬語と謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ(丁重語)、丁寧語、美化語です。この5分類については、すでに明治期からある考え方で、特段新しい考え方というわけではありません。
尊敬語:自分よりも上位者や関係の遠い人の行為について述べるもの
例:いらっしゃる、おっしゃる、なさる、召し上がる、お使いになる、ご利用になる、読まれる、始められる、お導き、ご出席、(立てるべき人物からの)ご説明、お名前、ご住所、(立てるべき人物からの)お手紙、御社、お忙しい、ご立派
謙譲語Ⅰ:自分側の行為について述べ、行為の向かう先があります
例:伺う、お目にかかる、差し上げる、お届けする、ご案内する、申す(立てるべき人物への)お手紙、ご説明
謙譲語Ⅱ:自分側の行為について述べ、行為の向かう先がありません
例:両親は愛知におります 私が参ります 先に申しましたように その件は存じております 弊社の製品 そのようにいたします 先生に申し上げます いたす、おる、拙著、小社、弊社、愚息
丁寧語:目の前にいる話し相手に対して敬意を表します。話題の中に立てる相手が出ても、出なくても関係はなく、あくまで話し相手に対する敬意を表します。
例:私は元気です 社長は元気です こちらが注文の品物でございます
➔「私」は立てる相手ではない
美化語:言葉を美化するもので、敬意を表しませんが、それも文脈によります。
例:お手拭・お歳暮・お着物・お手洗い・お尻・お酒、お料理
※〇お仕事は何をなさっているんですか。 ✕私のお仕事は会社員です。
「私の」をつけて変だったら尊敬
敬語は”敬意”を表すだけではない
敬語は”敬意”という言葉では到底片付かない様々な使われ方があります。
厳粛さを表す敬語の用法
「本日ご来賓の皆様には~」
「静粛にお願いします」
相手を敬うというよりも、その場、時間を厳粛な場であることを表す用法です。
距離を置く敬語の用法
(ケンカ相手に)「はいはい、わかりましたよ!」「話しかけないでくださる?」「ちょっと静かにしていただけませんか」
これは敬意とはむしろ逆の用法です。
上品さを表す敬語の用法
スネ夫のママがイメージしやすいです。
「そうなんですの?わたくしも知りませんでしたわ」
他にもありますが、とりあえずこの3つを見るとわかるように、敬語は”敬意”という言葉では到底片付きません。
敬語の作り方
ここからは敬語の3つの作り方についてです。上にあるものほど敬意が高く、つまり【とくべつ(special)】がこの表では最も敬意が高いとされています。
正確ではありませんが、大きく分けると敬語は尊敬語(目上の動作)と謙譲語(自分の動作)の2つです。
上の表の用語を一つずつ説明していきます。
尊敬語
【とくべつ(special)】
これは動詞を特別な形に変える作り方です。
他にも、「座ります」は「おかけになります」、「寝ます」は「お休みになります」など、原型を留めないものが多くあります。
【お+Ⅰ・Ⅱます形+になります】
ます形とは、「食べます」の「食べ」、「書きます」の「書き」の部分です。Ⅰ・Ⅱはちょっと面倒ですが、上の動詞のグループ分けをご覧ください。Ⅰは1グループ、Ⅱは2グループです。
尊敬語の例:
Ⅰ お書きになります お読みになります お使いになります
Ⅱ おかけになります お調べになります お知らせになります
Ⅲ ✕お紹介になります ✕お案内になります
なお、とくべつ(special)がある動詞については、基本的にこの「お~になります」の形はありません。また、敬意レベルとしてはとくべつ(special)と同じです。
例:
×お行きになります、お食べになります、お来になります
尊敬動詞
尊敬動詞は受身動詞と同じ形です。
行為を表すほとんどの動詞がこの形の尊敬語を作ることができますが、状態動詞(ある・要る)、可能動詞(行ける・できる)、わかる、などの動作性の低い動詞は作れません。
例:
Ⅰ 渡されます 包まれます 手伝われます
Ⅱ 届けられます 知らせされます かけられます
Ⅲ ご紹介します ご案内します 紹介されます 案内されます
謙譲語
【とくべつ(special)】
謙譲語にも、動詞を特別な形に変えるものがあります。
【お+Ⅰ・Ⅱます形+します】【ご+Ⅲ+します】
尊敬語と同様、とくべつ(special)がある動詞については基本的にこの「お~/ご~します」の形はありません。
謙譲語の例:
Ⅰ お渡しします お包みします お手伝いします
Ⅱ お届けします お知らせします おかけします
Ⅲ ご紹介します ご案内します
二重敬語(三重敬語)の見分け方
二重敬語とはさきほど上で説明した3つのルールの内、”同じ”ルールを2つ重ねて使用した敬語のことです。三重敬語というのもありますが、これは3つ重ねて使用したものです。
以下それぞれの例と、正用です。
二重敬語の例
- 先生は召し上がられますか(特別+尊敬) ➔召し上がりますか
- どうぞお召し上がりになってください(「お~になる」+特別) ➔お召し上がりください/召し上がってください
- ご覧になられてください(特別+尊敬) ➔ご覧になってください
- 先生は今本を読まれていらっしゃいます(尊敬+特別) ➔読まれています/お読みになっています/読んでいらっしゃいます
- 先生はお乗りになられますか(「お~になる」+尊敬) ➔お乗りになりますか/乗られますか
- 先生がおっしゃられたと思います(特別+尊敬) ➔おっしゃった
- 先生がお越しになられました(特別+尊敬) ➔お越しになりました
こう見てみると、「とりあえず何でも尊敬にしとけば丁寧になるだろう」という意図がわかります。
二重敬語の原因
ではなぜ二重敬語などが使われるに至ったのでしょうか。それは、
人々が、敬意が足りない、またはもっと敬意を足したいと思ったからです。
「お乗りになりますか」だけでは敬意が不足している感じたからさらに尊敬動詞を足して「お乗りになられますか」と言ったり、「ご覧になってください」を「ご覧になられてください」と言うのです。
私はそれでもいいと思います。私は決して使いませんが、身近にいる人が使う事に関しては特に何も思いません。私が二重敬語を注意するのは同業者だけです。
また、注意はしませんが、評価はしています。どこか高いホテルなりレストランなりに行って、上で紹介した敬語を使っている店員がいたら「ふ~ん・・・なるほどねえ」とは思ってしまいます。
世の中にはワインの味やヴァイオリンの音色を聞き分ける”一流”芸能人なる方々がいるようですが、その人達の日本語を聞いて「日本語は三流か・・・」とイヤな奴になってしまいます。
まとめ
- 敬語は【2007年までは3分類】【2007年からは5分類】に分けられた
- 正確ではないが大きく分けると敬語は尊敬語(目上の動作)と謙譲語(自分の動作)がある
- 尊敬語や謙譲語を作る際には型がある
- 敬語は敬意のみを表すものではない
バイト敬語、マニュアル敬語といったものがあります。マニュアルには堂々と「こちらご注文の品になります」を是として書かれていますが、別に普段使う分、安い店で働いている分にはいいと思います。
しかし、もしあなたが公共に掲示物を出す立場の人であったり、立派な所のサーバーであるならば、自分の使う言葉に気をつけた方がいいでしょう。日本語すら正しく使えない会社のサービスは受けたくないと思う人もいるかもしれません。
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