教師用メモ
敬語
敬語とは話者が聞き手や話題の人に敬意を表すために用いる。
話者は聞き手や話題の人との、上下親疎ウチソトなどの社会的人間関係を考慮して、敬語を使う。
敬語を使うのは「目上(先生など)」、「疎(親しくない・初対面)」、ソト「(話者の属するグループ(家族や会社)に属さない人)の人に対してである。
敬語の種類
敬語の種類は大別すると3つ。尊敬語・謙譲語・丁寧語。L49では尊敬語を扱い、L50では謙譲語を扱う。尊敬語は話者が聞き手や話題の人に敬意を表すために、聞き手や話題の人の行為や状態、所有物などを高める。聞き手や話題の人に所属する物や人などにも尊敬の接頭辞オまたはゴをつける
謙譲の方が大事
謙譲は【アルバイト・入学の際の面接】で、自分の行いを述べる事ができる。日本の日本語学校に通っている学習者にとっては最も重要なもの。
もちろん、尊敬も大切で、こちらは【店長社長先輩(目上)と仲良くなりたい】場合に用いられる。しかし、例えば「先生は水を飲まれました」という平叙文ではまず発話されない。謙譲とは違い、平叙文ではなく、疑問形で目上に何を行うのかを尋ね、互いを知り、仲良くなっていくためのものである。授業では「L49はほとんど質問で使う」と一言いっておき、さらにフラッシュカードでの変換練習も質問の形で言わせるなどして、「尊敬=質問で使う」を徹底させる
尊敬動詞の作り方
変換練習はフラッシュカードが便利です。以下のリンクを押すと、無料でダウンロードできます。
ダウンロードはこちら➔49課 フラッシュカード 尊敬語
可能、受身、尊敬は一部同形で、混乱しやすいです。さらに、ら抜きも実社会で多く聞かれ、学習者からも「日本人は「着れます」と言います。でも学校で「着られます」勉強します。どっちがいいですか」と聞かれることもあるので、以下の記事で予習しておくことをおすすめします。

大別すると3つと書いたが、現在は5つの分類になっている。詳しくは上の記事「敬語5分類と敬語の作り方、二重敬語について」へ。
教案
~(ら)れます N4 【尊敬動詞】
- 教える際の留意点- 1.受身動詞と同じ形で尊敬の意味を表す。行為を表すほとんどの動詞がこの形の尊敬語を作ることができるが、状態動詞(ある・要る)、可能動詞(行ける・できる)、わかる、などの動作性の低い動詞は作れない。「お~になります」の形なら、作る事ができるが、全てではない。 2.受身動詞同様、尊敬動詞は全て2グループ動詞である。 3.「お~になります」が使えない場合は「特別な尊敬語」、さらに「特別な尊敬語」が使えない場合は「お~になります」を使う。 4.丁寧さは以下のように下がっていく。 5.以下、敬語を教える上で難しい、注意する点です。 |
導入・練習
◆教師自身でもいいし、ネタが少なければ、教師と学習者で共通して知っている先生を話題にする。先生の習慣や趣味などを調べておく。
T:S1さんは休日何をしますか
S1:写真を撮ります
T:S1さんは写真を撮ります
T:実は私も休日写真を撮ります(学習者が言った答えと同じにする)
T:ここは?(下線を指差して)
S:撮られます
T:そうです。先生ですから、撮られます。じゃ、田中先生はよく何をするか知っていますか
S:田中先生はよく旅行します
◆敬語を勉強する意味を説明する
S:先生、尊敬動詞は難しいです。「ですます」はダメですか
T:難しいです。「ですます」でもいいです。でも尊敬を使ったら、もっといい人になります
S:いい人?
T:今日勉強しているのは尊敬です。来週50課で勉強するのは謙譲といいます。この2つは敬語といいます。敬語は日本人でも難しいです。だから、皆さん、外国人が敬語を使ったら、日本人はこうなります。「すごい!敬語が上手です!私の大学、会社にぜひ入ってください!」。
S:へえ
T:だから、「ですます」でもいいですが、敬語が上手だったら、他の日本人よりも大学や会社に入りやすくなります。どうですか。勉強したくなりましたか
S:はい!

実際「ですます」でも日常生活レベルであれば十分なのですが、仕事をする上では必要な時も少なくありません。尊敬の形は3つ、謙譲も3つ、全部で6つも形があり、しかも使い方が難しいです。適宜モチベーションアップを図りながら教えないと学生の顔がどんどん暗くなっていきます。
◆QA練習。Qは目下、Aは目上。
Q:店長は昨日のシフトに出られましたか
A①:はい、出ました
A②:うん、出たよ
Q:何時まで働かれましたか
A①:9時までです
A②:9時までだよ

このQA練習は時間の許す限り時間をかけてやりたい練習です。なぜなら、学習者の実際の生活では、この関係(職場の上司/先生と学習者)で会話をすることが多いからです。答えは尊敬にならない事に注意させましょう。必ず間違えます。
答え方はA①とA②とありますが、A②を先生がやっても大丈夫です。学習者がA②の立場になることはほとんどありませんから。
以下、会話のテーマ例
デートはうまくいきましたか
ホテルはキャンセルしましたか
写真を彼に渡しましたか
荷物は下ろしましたか
新しい家を探しています
ゴルフをやっています
電話で申し込みます
ペットを飼っています
休みを取ります
お+ます形+になります
- 教える際の留意点- 1.尊敬動詞(受身の形)よりも強い敬意を示す 。 2.尊敬動詞では状態動詞(ある・要る)、可能動詞(できる)、わかる、などの動作性の低い動詞はダメだったが、「お~になります」の形なら、作る事ができるが、全部ではない。 3.「3グループ動詞」と「います、寝ます、見ます」などマスの前が一文字の動詞は「お~になります」の形が使えない。 4.依頼は「お~になってください」だが、普通は「お+動詞のます形+ください」を使う。しかし、この「お~になってください」は触れない。 5.「ご+動作性名詞+になります(ご説明/出席になります)」はこの課では教授せず、L50で扱う。 6.尊敬語とは、謙譲とは違い、平叙文ではなく質問の形で目上に何を行うのかを尋ね、互いを知り、仲良くなっていくためのものである。 |
導入・練習
◆導入
T:S1さんは週末何をしますか
S1:料理を作ります。先生は?
T:私も料理を作ります
S1:何を作りますか
T:何を作られますか
S1:ああ、作られますか
T:もう一つあります。先生は何をお作りになりますか
S:ええ・・・何が違いますか
お作りになります > 作られます > 作ります
T:それから、「見ます・寝ます・います・着ます・出ます」はダメです
T:見ますや寝ますは全部「ます」の前がひらがな1つです。1つの言葉はダメです
◆「お~になります」の変換練習
◆QA練習。Qは目下、Aは目上。Aは「ありがとう」で固定
Q:この傘、お使いになりますか。
A:ええ、ありがとう。
◆QA練習。Qは目下、Aは目上。疑問詞と時制が入り、Aも様々
Q:いつ佐藤さんにお会いになりましたか。
A:きのう会いました。
特別な尊敬語
- 教える際の留意点- 1.活用のルール通りだと「買います→買う」で「いらっしゃいます→いらっしゃう」「おっしゃいます→おっしゃう」となるはずだが、ならない事に注意。 2.「おっしゃる」のマス形は「おっしゃります」じゃなくて「おっしゃいます」だが、後ろに「たい」がつくと「おっしゃいたい」よりも「おっしゃりたい」のほうが普通(非教授) |
導入・練習
◆導入
(教師と学習者が話している絵カードを用意。
T:私と~さんは一緒にごはんを食べに行きます。ここはレストランです。Sさんは何を食べますか
S:寿司を食べます
T:そうですか。(学習者に、先生にも質問するよう促す)
S:先生は何を食べますか
T:先生は何を召し上がりますか
S:「食べますか」と何が違いますか
召し上がります > お食べになります > 食べられます > 食べます
◆練習前に尊敬語のふつう形練習
いつパーティーへ来ましたか(3日
夏休みはどちらへ行きますか(ハワイ
◆尊敬語のふつう形練習。Qが尊敬語のていねい形で、Aが尊敬語のふつう形を使う
Q:先生はもう学校へいらっしゃいましたか
A:はい、いらっしゃったと思います
敬語まとめ
お+動詞マス+ください
- 教える際の留意点- なし |
導入・練習
◆学習者と教師が一緒にレストランなどに行くなど状況を設定し、会話をする。
T:お腹が空きました
S:お食べください

尊敬動詞は「~てください」の形がないと教えているので(×待たれてください)、「では何を使うのか」と学習者に聞いた後、「お+ます形+ください」が使えると教えます。
T:「食べられる」の「てください」はないと教えました。覚えていますか。「待たれてください」「読まれてください」はダメです。じゃどうすればいいですか
S:わかりません
T:お待ちください、お読みください
お待ちください
お+読みます+ください。
お読みください。
T:「書きます」は?
S:お書きください
T:「使います」は?
S:お使いください
◆【お+動詞マス+ください】変換練習。絵カードを見せて文を言わせる。
自由におかけください
◆状況の絵カードを見せて、学習者に「お+ます形+ください」を言わせる。
T:ここはどこですか(居酒屋の絵カードを見せる)
S:居酒屋です
T:そうです。S1さんは働いていますね。この店員はお客さんに何といいますか
S:こちらでお待ちください
T:これは?靴を
S:靴をお脱ぎください
◆先生が困った様々な状況をジェスチャーし、学習者に「お+ます形+ください」を言わせていく。
T:あ、雨・・・傘、傘・・・ありません!
S:先生、・・・えーー
T:傘を・・・?
S:先生、傘をお使いください
お+和語N ご+漢語N
- 教える際の留意点- 1.和語はオだよ、などの言い方はせず、一つの語として扱う 2.他にもあるが、やらない。必要最低限に留める |
お+動詞マス+です
- 教える際の留意点- 1.どの形にしても違和感のある一部の動詞の紹介を上クラスならばしてもいい ×お知りですか 〇ご存知ですか ×お住みですか 〇お住まいですか |
考察
言いやすさ
敬語にはこの『言いやすさ』というものが深く関わっている。
例えば「社長はどれぐらいお泳ぎになりますか」は言いにくくはないだろうか。普通「社長はどれぐらい泳がれますか」を使う。前者は文法的にはあっているものの、あまり口にされない。
もちろん、この言いやすさを学習者に説いても余計混乱させるだけなので、授業ではこちらが取捨選択し、言いやすさに則った動詞を提示、練習させること。
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