『みんなの日本語 初級II 第二版』完全準拠。
導入や練習の仕方、教師として知っておきたい文型のポイントなどを解説します。
学習項目
練習A
1.尊敬動詞
2.<人>はV[尊敬]
3.お+V[マス]+になります
4.特別な尊敬語
5.<人>は[尊敬語]
6.お+V[ます]+ください/ご+N+ください
教案
新出語彙
特別な尊敬語も語彙として出てきています。
★ポイント
- 勤めます:「<会社>に」勤めます。「働きます」は「<会社>で~」または「<職業>として~」
敬語の基礎知識
敬語とは?
敬語とは話者が聞き手や話題の人に敬意を表すために用いるものです。
話者は聞き手や話題の人との、上下親疎ウチソトなどの社会的人間関係を考慮して、敬語を使います。
敬語を使う相手は「目上(先生など)」、「疎(親しくない・初対面)」、「ソト(話者の属するグループ(家族や会社)に属さない人)」の人に対してです。
敬語を教授する際は、以下の概念を確認してから行うようにしましょう。
①日本では上下関係がある
②ウチ(家族や会社)・ソト
③親・疎(親しくない・初対面)
敬語の種類
敬語は現在「尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ(丁重語)・丁寧語・美化語」の5つに分類できるとされています。詳しくは「敬語5分類と敬語の作り方、二重敬語について」をご一読ください。
みんなの日本語では、49課で尊敬語を扱い、50課で謙譲語Ⅰ・Ⅱを扱います。
謙譲語の方が大事
謙譲語は【アルバイト・入学の際の面接】で、自分の行いを述べる事ができます。日本の日本語学校に通っている学習者にとっては最も重要なものです。
もちろん、尊敬語も大切で、こちらは【店長社長先輩(目上)と仲良くなりたい】場合に用いられます。しかし、例えば「先生は水を飲まれました」のような平叙文ではまず発話されません。尊敬語は、謙譲語とは違い、平叙文ではなく、疑問形で目上に何を行うのかを尋ね、互いを知り、仲良くなっていくためのものとして使っていきます。授業では「L49はほとんど質問で使う」と一言いっておき、さらにフラッシュカードでの変換練習も質問の形で言わせるなどして、「尊敬語=質問で使う」を徹底させるとよいでしょう。
尊敬語の種類
尊敬語の種類は3つあります。
1.尊敬動詞
受身動詞と同じ形で尊敬の意味を表す。行為を表すほとんどの動詞がこの形の尊敬語を作ることができるが、状態動詞(ある・要る)、可能動詞(行ける・できる)、わかる、などの動作性の低い動詞は作れない。「お~になります」の形なら、作る事ができるが、全てではない。
×社長は英語ができられるはずです。
〇社長は英語がおできになるはずです。
2.お+V[マス]+になります
3.特別な尊敬語
「お~になります」と「特別な尊敬語」はどちらか一方しかない。特別な尊敬語がある場合、基本的に「お~になります」は使わない。
〇お書きになります ーーー
〇お読みになります ーーー
×お食べになります 〇召し上がります
×お見になります 〇ご覧になります
×おしになります ○なさいます
×お来になります ○いらっしゃいます
なお、丁寧さは以下のように下がっていきます。
「特別な尊敬語」=「お~になります」>「~(ら)れます」
練習A-1:尊敬動詞
尊敬動詞は、すべて受身動詞と同じです。受身動詞のときと同様、すべてⅡグループ動詞と同じように活用します。なお、動作性の低い動詞については尊敬動詞を作ることができません(例:要る、できる、わかる、等)。
導入:敬語
◆まず、既習の「くださいました」「いただきました」を使って敬語について導入
T:S1さん、これ、どうぞ。手紙です。
S1:ありがとうございます。
T:こんなとき、なんといいますか。先生は私に手紙を・・・
S:くれました
T:先生ですよ。丁寧な言い方を勉強しましたね。
S:くださいました
T:そうです。「くださいました」。じゃ、私は先生に手紙を・・・
S:いただきました。
T:はい。「くださいました」「いただきました」、これは敬語です。
わたしは せんせいに てがみを いただきました。
T:手紙をくださいました、は、だれ?誰がくださいました?する人は?
S:先生です。
T:そうですね。いただきましたは?だれがいただく?もらう?
S:わたしです。
T:はい。この二つは敬語です、と言いましたが、敬語のタイプが違います。「くださいました」は尊敬語、「いただきました」は謙譲語です。
わたしは せんせいに てがみを いただきました。【けんじょうご】
「敬語は難しい」と思っている学生や、わけもわからずバイト先で教えられるままに使っている学生も多いかもしれません。敬語の理解は、「誰の動作か」で尊敬語か謙譲語かが決まる、というところから始まります。そこをしっかり理解させましょう。
導入:尊敬動詞
◆写真や絵を使って導入する
T:この人は部長です。みなさんは社員です。部長には敬語を使わなければなりませんね。(部長がいろいろなことをしている絵を見せる)部長は朝9時に来られます。12時に昼ご飯を食べられます。5時に帰られます。
あさ9じに こられます。
12じに ひるごはんを たべられます。
5じに かえられます。
T:どうですか。
S:受身動詞とおなじですよ。
T:そうなんです。今日は尊敬語を勉強します。これは尊敬動詞ですが、尊敬動詞は受身動詞と同じなんです。
T:じゃ、尊敬動詞にしてください。行きます。
S:いかれます。
T:読みます
S:読まれます
・・・
練習A-2:<人>はV[尊敬]
導入:平叙文
T:もういちど、部長です。(部長がいろいろなことをしている絵を見せる)部長は朝9時に?
S:来られます。
T:今10時です。部長は朝9時に?
S:部長は朝9時に来られました。
T:(新聞を読んでいる絵)部長は今?
S:部長は今新聞を読まれています。
T:(釣りをしている絵)部長は今?
S:部長は今釣りをされています。
(様々な時制で練習を行う)
◆文作練習
『文型練習帳』152ページを使うなどして、尊敬動詞を使った文を作る練習をする。
練習B-1
◆キュー出しで行う
T:部長はもう帰りました。尊敬にしましょう。
S:部長はもう帰られました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
導入:質問文と答え
◆引き続き、部長の絵を使って行う
T:みなさんは社員です。部長に質問してください。今朝何時に来たか聞いてください。
S:今朝何時に来られましたか。
T:部長は答えます。9時に?
S:9時に来られました。
T:いいえ。来られました、は尊敬ですね。自分に尊敬を使いません。部長は来られました、私は来ました。だから、答えるときは「9時に来ました」と言います。
これが第三者について話題に出して話す場合は答えも敬語になるのですが、ややこしいので上の方のクラスでない限り最初からこのことを言わないほうがいいです。とにかく「自分に尊敬は使わない」ということだけ徹底して教えましょう。
◆QA練習。Qは目下、Aは目上。
Q:店長は昨日のシフトに出られましたか
A①:はい、出ました
A②:うん、出たよ
Q:何時まで働かれましたか
A①:9時までです
A②:9時までだよ
このQA練習は時間の許す限り時間をかけてやりたい練習です。なぜなら、学習者の実際の生活では、この関係(職場の上司/先生と学習者)で会話をすることが多いからです。答えは尊敬にならない事に注意させましょう。必ず間違えます。
答え方はA①とA②とありますが、学習者がA②の立場になることはほとんどないのでA②を先生がやっても大丈夫です。
以下、会話のテーマ例
デートはうまくいきましたか
ホテルはキャンセルしましたか
写真を彼に渡しましたか
荷物は下ろしましたか
新しい家を探しています
ゴルフをやっています
電話で申し込みます
ペットを飼っています
休みを取ります
練習B-2
◆例を確認してからペアで行う
ペアワークのやり方は様々です。まだ文がうまく作れそうにないと感じたら、全体で正しい文を確認してからペアでもう一度練習させてもいいでしょう。また、終わってから教師のキューに続いて全体でリピート練習すると、最後に正しい文を自分の口で練習して終わることができます。
練習A-2:お+V[マス]+になります
尊敬動詞を使った尊敬語より強い経緯を示すことができ、実際によく使われます。なお、動作性の低いものでも一部の動詞に関してはこの形を作ることができます(例:おできになります、おわかりになります、等)。
導入:平叙文
T:この人は社長です。みなさんは社員です。社長にも、敬語を使わなければなりませんね。さっき勉強した「~られます」もいいですが、もっと丁寧な言い方があります。(社長がいろいろなことをしている絵を見せる)社長は新聞をお読みになります。社員とお話になります。5時にお帰りになります。
しんぶんを およみになります。
しゃいんと おはなしになります。
5じに おかえりになります。
T:ここ(動詞の部分を指す)は何形?
S:ます形?
T:そうですね。お+ます形+になります、で、もっと丁寧な尊敬語を作ることができます。
◆「お~になります」の変換練習
T:よみます。お・・・
S:お読みになります
T:かきます
S:お書きになります
・・・
このとき、特別な尊敬語を使うものを入れないようにしましょう。
練習B-3
◆キュー出しで練習
T:先生は新しい車を買いました。お~になりました、を使いましょう。
S:先生は新しい車をお買いになりました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
導入:質問文と答え
◆QA練習。Qは目下、Aは目上。Aは「ありがとう」で固定
T:社長に聞きましょう。この傘使いますか。
S:この傘、お使いになりますか。
T:ええ、ありがとう。
『文型練習帳』152ページも参考になります。
練習B-4
◆例を確認してからペアで行う
ここでも、答えは尊敬語にならないことを再度確認しましょう。
練習A-4:特別な尊敬語
導入
◆上の流れから、特別な尊敬語を使うものを提示
T:じゃ、います、は?
S:おいになります
T:・・・と思いますね。でもちがいます。じつは、この「お~になります」は、使えない言葉がいくつかあります。「お~になります」が使えない動詞は、特別な尊敬語を持っています。
メインどころはここに挙げた物ですが、ほかにも「寝ます→お休みになります」「要ります→ご入用です」などがあります。基本的に、マスの前が1文字のものは「お~になります」がなく、特別な尊敬語が存在します。ただ、ここで細かいところを全部教えるのは無理なので、よく使われるいくつかに絞って教えるのが良いでしょう。
『文型練習帳』153ページを使うなどして、尊敬動詞を使った文を作る練習をする。
T:食べます。尊敬語は?
S:めしあがります
T:います
S:いらっしゃいます
変換練習はフラッシュカードが便利です。以下のリンクを押すと、無料でダウンロードできます。
ダウンロードはこちら➔49課 フラッシュカード 尊敬語
◆活用の練習
T:この特別な尊敬語も、辞書形やテ形があります。辞書形はちょっと難しいです。(下記のような表を見せる)
T:マスの前が「い」で終わるのを見てください。例えば「買います」の辞書形は「買う」ですね。辞書形は「い」が「う」なんですが、特別な尊敬語のときは、「い」が「る」になります。そして、ナイ形は「わない」じゃなくて「らない」です。
◆フラッシュカードで練習
T:召し上がる。ナイは?
S:召し上がらない
T:タ
S:召し上がった
T:なかった
S:召し上がらなかった
・・・
練習A-5:<人>は[尊敬語]
◆再び社長の絵を用いて行う
T:はい、じゃ、社長です。社長は朝9時に・・・
S:いらっしゃいます。
T:12時に昼ご飯を・・・・
S:めしあがります。
T:週末は釣りを・・・
S:なさいます。
あさ9じに いらっしゃいます。
12じにひるごはんを めしあがります。
しゅうまつはつりを なさいます。
~られます < お~になります or とくべつなそんけいご
練習B-5
この練習B-5のみ、第三者について尊敬語を用いて話しています。したがって、質問文でも答えの文でも尊敬語が使われています。その違いをしっかり理解させてから練習に臨みましょう。
◆例と絵を用いて、第三者について話していることを確認する
T:この絵を見てください。ミラーさんと女の人が、松本部長について話しています。松本部長は偉い人です。ミラーさんも女の人も、敬語を使います。ミラーさんは、松本部長はもう来ましたか、と聞きたいです。何と言いますか。
S:松本部長はもういらっしゃいましたか。(リピート練習)
T:そうですね。敬語をつかいます。女の人は、はい、もう来ました、と答えたいです。さっき、答えの時は尊敬語を使いませんでした。でもそれは、私のすることだから、です。これは、松本部長がすることですね。だから、尊敬語を使います。はい、もう来ました、は?
S:はい、もういらっしゃいました。(リピート練習)
T:いいですね。
T:じゃ、つぎです。どなたがあいさつをしますか。
S:どなたが挨拶をなさいますか。(リピート練習)
T:小林先生がします
S:小林先生がなさいます。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
例をしっかり確認出来たら、練習はペアで行ってもいいです。クラスの様子を見て進めましょう。
練習B-6
◆例を確認してから、ペアで練習する
余裕があれば、インタビュアーと回答者になって自分の情報を使って答える練習をしても面白いです。
作文
◆誰かの行動について、尊敬語を使って説明する文章を書く練習
『文型練習帳』154ページ等も参考にしながら、誰か尊敬語を使うべき人物を指定し、その行動を説明させる。
練習B-6:お+V[ます]+ください/ご+N+ください
導入:お+和語、ご+漢語
和語、漢語といっても分からないので、よく聞くものを中心にいくつか紹介しましょう。また、「美化語」等のことばも混乱を招く恐れがあるので、「お」や「ご」が付いたら丁寧になる、とだけ教えます。
T:みなさん、「酒」は聞いたことありますね。「お酒」は?
S:あります。同じです。
T:そうですね。「酒」も「お酒」も同じ。「お酒」は、「酒」を丁寧にした言い方です。この丁寧な言い方が有名な言葉もあります。お茶とか、お金とかです。
T:ほかにも、「お」を付けて言う言葉があります。何か知っていますか。
S1:お名前
S2:お国
S3:お仕事
T:いいですね。
・おなまえ
・おしごと
・おやくそく
・おでんわ
・おわすれもの
・おはなし
・おへや
・おといあわせ
S:お住所?
T:いえ、実は住所は「お」じゃなくて、「ご」を使います。「ご」を使うものもいくつかあります。
・ごいけん
・ごりょこう
・ごかぞく
・ごりょうしん
・ごきょうだい
・ごねんれい
・ごあいさつ
・ごしつもん
「お元気」「お忙しい」「ご親切」「ご自由に」など、一部名詞以外の敬語もあります。余裕があればここで触れてもよいでしょう。『翻訳・文法解説』p.151にもいくつか記載があります。
導入:お+V[ます]+ください/ご+N+ください
◆駅の車掌の言葉を使って導入
T:この人は駅のスタッフです。スタッフの人は言います。「黄色い線の内側でお待ちください」「ホームドアにご注意ください」。聞いたことがありますか。
S:はい。
T:どういう意味ですか。
S:待ってください、注意してください
T:そうですね。「お待ちください」は「待ってください」、「ご注意ください」は「注意してください」です。
ごちゅういください
S:「お」と「ご」ですか。
T:そうですね。「お~になります」があることばは「お~ください」、特別な尊敬語があることばは「ご~ください」か、特別な尊敬語を使った「ください」があります。
・おまちください
・おかきください
・おつかいください
とくべつなそんけいご
・なさってください
・いらっしゃってください
・めしあがってください
・ごらんください
これにも「お電話ください」など例外があります。また、「いらしてください」「お召し上がりください」など別の言い方があるものもあります。全部を網羅するのは難しいので、よく聞くものを中心に教授しましょう。
◆フラッシュカードで練習(お~くださいとご~くださいに分けてやる)
T:じゃ、お~くださいを作ってください。かけます
S:おかけください
T:かえります
S:おかえりください
・・・
◆状況の絵カードを見せて、学習者に「お/ご~ください」を言わせる
T:ここはどこですか(居酒屋の絵カードを見せる)
S:居酒屋です。
T:そうです。S1さんは働いていますね。この店員はお客さんに何といいますか。
S:こちらでお待ちください。
T:これは?靴を
S:靴をお脱ぎください。
練習B-7
◆キュー出しで行う
T:こちらにご住所とお名前を書いてください。丁寧に言いましょう。
S:こちらにご住所とお名前をお書きください。(リピート練習)
(同様に例2、1~4も行う)
教師用メモ
お+V[マス]+です
- お持ちになっていますか
- 持たれていますか
上二つでもいいのですが、
- お持ちですか
と言う事も実際にはよくあります。他にもこれが当てはまる動詞は「持つ 勤める 使う 住まう」ですが、「住まう」はちょっと形が違うので注意が必要です。
- お勤めですか
- お使いですか
- ×お住みですか 〇お住まいですか
言いやすさ
敬語には、実は『言いやすさ』というものが深く関わっています。
例えば「社長はどれぐらいお泳ぎになりますか」は言いにくくはないでしょううか。普通「社長はどれぐらい泳がれますか」を使います。前者は文法的にはあっているものの、あまり口にされません。
もちろん、この言いやすさを学習者に説いても余計混乱させるだけなので、授業ではこちらが取捨選択し、言いやすさに則った動詞を提示、練習させるのが大切です。
敬語を勉強する意味
S:先生、尊敬動詞は難しいです。「ですます」はダメですか。
T:難しいです。「ですます」でもいいです。でも尊敬を使ったら、もっといい人になります。
S:いい人?
T:今日勉強しているのは尊敬です。来週50課で勉強するのは謙譲といいます。この2つは敬語といいます。敬語は日本人でも難しいです。だから、皆さん、外国人が敬語を使ったら、日本人はこうなります。「すごい!敬語が上手です!私の大学、会社にぜひ入ってください!」。
S:へえ。
T:だから、「ですます」でもいいですが、敬語が上手だったら、他の日本人よりも大学や会社に入りやすくなります。どうですか。勉強したくなりましたか。
S:はい!
実際「ですます」でも日常生活レベルであれば十分なのですが、仕事をする上では必要な時も少なくありません。尊敬の形は3つ、謙譲も3つ、全部で6つも形があり、しかも使い方が難しいです。適宜モチベーションアップを図りながら教えないと学生の顔がどんどん暗くなっていってしまいます。
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