クラスに時々いるやる気がない学習者。しかし、実はやる気がないのではなく、教師の導入方法が原因でそうなってしまったのかもしれません。やり方を変えればそのような学習者を減らすことができます。
なぜ”人”は勉強しようと思うのか
下の記事で外発的動機づけと内発的動機づけについては詳しく述べましたが、
今回は学習者の学習意欲を上げる方法について書いていきます。読むのが面倒くさい人は飛ばしても大丈夫です。次の項へお進みください。
そもそもなぜ人は勉強しようと思うのでしょうか。それはさきほども述べた外発的動機づけと内発的動機づけの二つに分けられます。内発的動機づけには
知的好奇心:新しい知識を得ようとする気持ち
例:あそこの角は曲がったことないけど、いったい何があるんだろう。行ってみよう。
理解欲求:事象の因果関係を理解したいという気持ち
例:なぜ「家に寝る」じゃなくて「家で寝る」なんだろう?
向上心:ある分野、技術においてもっと上手になりたいという気持ち
例:JLPT対策は苦手だけど、初級ぐらいは完璧に、絵カードなどももっと上手に見せられるようになりたいなあ。家に帰って一人で練習だ!
があります。これらは人間のような賢い動物でなければ生まれない気持ちと言われています。ハチは「もっと他のハチよりも早く花の蜜を届けられるようになりたい」とは、象は「もっと私達が住むこの地域の気候を理解できれば水の在りかも容易に知る事ができよう」とは思いません。
自分が教えている学習者は上の3つのどれには当てはまるでしょうか。まずはそれを考えた上で、下のモチベーションを上げる方法を見てみるといいでしょう。
モチベーションアップ法┃「て形」を例に
ここからはモチベーションが上下する仕組みを説明します。
学習意欲の初期値
学習者が、初級でて形を初めて見たとします。
なんだこの複雑なルールは!と驚きます。その後、学習者ごとに反応が異なります。
- 学習者A:て形っていうんだこの形。見たことも聞いたこともあるし、大丈夫だろう。
- 学習者B:難しそうだけどなんとか覚えられそうだ……。でもこのて形というやつは何に使うんだろう。
- 学習者C:無理だね!何に使うのかもわかんねえし。
Aの学習意欲が90、Bが40、Cは0です。
一人ずつ説明していきます。
Aはて形に対して既知です。なんとなく知ってる状態ですが、しっかり勉強したことがないので、変換は完璧ではありません。
Bは覚えられそうだと期待を持っています。しかし、て形に対しては未知で、て形を何に使うのか、どうやって使うのかをわかっていません。Aと大きく違うのは「て形を何にどうやって使うのか」を知っているかどうかということです。
CはB同様、て形に対しては未知です。て形の煩雑な変換ルールを見て無理だと決めつけています。期待0です。B同様、て形を使う場面も知りません。
アトキンソン(1964)の期待・価値理論
少し話は逸れます。アトキンソン(1964)の期待・価値理論というものがあります。これは「動機づけは期待と価値の積によって決まる」というものです。
上の学習者Aさん、Bさん、Cさんの学習意欲(期待)はそれぞれ90、40、0でした。Aさんは問題なさそうですが、Bさんはまだ救えます。なぜならまだ教師がて形の価値を説明していないからです。期待・価値理論では積で決まると述べているので、Bの40という決して高くはない期待にて形の価値をかけてあげればいいのです。
小まとめ
少しまとめると、て形やじしょ形、ない形など、~形というものがあります。これらはいきなり形の練習から入るのではなく、最初に「~形を使えばこんなことができる」と状況を示してから、形の変換練習をすれば学習者のやる気を減退させずに授業ができるのです。
Bさんの期待40×て形の価値50=200!!
になります。ではAさんはどうなるでしょうか。
Aさんの期待90×て形の価値50=450!!!
になります。残念ながらCさんはというと
Cさんの期待0×て形の価値50=0!?
で、上がりません。
アトキンソンの期待・価値理論とはそういうことです。どちらかが0だと、どんなに片方が高くても学習意欲は0なのです。
しかし、教師の導入方法を変えることでCさんも救えます。
Cさんを救う方法
簡単です。先述の通り、変換練習➔て形の使用場面を反対にすればいいのです。
て形などという言葉は使わず、状況の絵カードでて形の使用場面を提示し、それから変換練習をするのです。
さらに、Cさんのような学習意欲の初期値が低い人は一筋縄ではいきません。だからこそ導入は全ての人が楽しめる、かつ理解しやすく、身近な話題を選ばなければならないのです。
まとめ
Cさんを救え
Bさんも救え
Aさんは放っておいても頑張るぞ
今回3人の学習者を例に取り説明したのでイメージしにくかったかもしれませんが、これは実際の教室と同じです。だいたいクラスにはAさんが5人、Bさんが10人、Cさんが5人ぐらいの割合でいます。つまり、「BさんとCさんを救う」ということは、クラスの大半を救うことに繋がります。そして、Aさんは伸ばせるところまで伸ばしてあげましょう。
協同学習などでは、AさんとCさんを、BさんはBさんと組ませるなどの工夫でうまく授業が運ぶでしょう。
難しそうだと思った方、導入に悩んでいる方は以下の記事も参考にしてみてください。
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