絵カードの作り方と新出語導入の基本:場所PCの効果的な活用法

 

 

絵カードの作り方と新出語導入の基本:場所PCの効果的な活用法

日本語教育において、絵カード(ピクチャーカード、以下PC)は新出語の導入や文法の定着に欠かせないツールです。しかし、効果的な絵カードを選び、活用するには明確な基準と工夫が必要です。本記事では、絵カードの作成・選択時の原則と、場所PCを用いた授業での活用法を、具体例とともに解説します。

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絵カードの作成・選択の原則

絵カードは、新出語を直感的に理解させるための視覚的補助ツールです。しかし、市販の絵カードやインターネット上の画像には問題が潜んでいる場合があります。以下に、効果的な絵カードの作成・選択における2つの基本原則を説明します。

原則1:対象語彙のみを明確に示す

絵カードには、教える語彙そのものだけを明確に描く必要があります。多くの市販の絵カードやGoogle画像検索の結果には、余計な要素が含まれがちです。例えば、「水」を教える際に、コップ、ピッチャー、水しぶき、波、山などが一緒に映った画像を使用すると、学習者が「みず=コップ」や「みず=注ぐ」と誤解するリスクが生じます。

以下の画像は、Googleで「水」を検索した例です:

 

この画像では、コップやピッチャーが映っており、「水」そのものを教えるには不適切です。教師が「これは水です」と説明しても、学習者はどの要素が「水」を指すのか混乱する可能性があります。したがって、絵カードは対象語彙以外の要素を極力排除することが求められます。

原則2:動作や抽象概念は適切に視覚化する

動詞や抽象概念を教える場合も同様の注意が必要です。例えば、「噛む」を教える際、英語の「chew」(ガムをくちゃくちゃ噛む)や「bite」(犬が噛みつく)を区別する必要があります。以下のGoogle画像検索の例を見てみましょう:

この画像には、犬が腕に噛みつく場面や「かじる」「食べる」といった別の動作が含まれています。さらに、「カミカミ」といった文字が入っていると、学習者が余計な質問(「カミカミって何?」)を投げかけ、授業の流れが中断するリスクがあります。対照的に、『みんなの日本語 初級I 第2版 絵教材CD-ROMブック』では、「噛む」を以下のように適切に視覚化しています:

この絵カードは、ガムを噛む動作を明確に示し、余計な要素を排除しています。ただし、現代ではタブレット状のガムが主流であるため、よりリアルな画像(例:口元にフォーカスしたタブレットを噛むイラスト)も検討するとよいでしょう。動作を教える場合は、対象の動作が一目でわかるシンプルな視覚化が不可欠です。

イラストと実写の選択:メリットとデメリット

絵カードにはイラストと実写の2種類があります。それぞれの特徴を以下にまとめます:

イラスト

  • メリット:自分で描く場合、余計な要素を排除し、対象語彙を明確に表現できる
  • デメリット:作成に時間がかかる。絵心が必要な場合も。

実写

  • メリット適切な写真を選べば、イラストよりも直感的でわかりやすい。色彩が豊かで、学習者の興味を引き、授業を楽しくする効果がある。
  • デメリット:市販やネットの写真には余計な要素が含まれがちで、選定に注意が必要。

どちらが優れているかは一概には言えませんが、実写は視覚的な訴求力が高いため、私は実写を優先して使用します。ただし、実写を選ぶ際は、余計な要素を排除したシンプルな画像を選ぶことが重要です。

比較を用いた効果的な新出語導入

形容詞や程度を表す語彙(例:「大きい」「暑い」「静か」)を教える際、単独の画像では学習者の注意が対象外の要素(例:机や山自体)に逸れるリスクがあります。例えば、「大きい机」を示す画像だけでは、学習者は「机」に注目し、「大きい」という概念を捉えられない場合があります。

この問題を解決するには、比較を用いることが効果的です。以下の例を参照してください:

「大きい机」と「小さい机」を並べて提示することで、学習者は「大きい」という概念を直感的に理解できます。さらに、画像に「大きい」という文字を添えると、視覚と言語の結びつきが強化され、新出語の定着が促進される。この比較手法は、程度や対比を教える際の基本です。

絵カード選択時の注意点:文化的・感情的配慮

絵カードの選定では、学習者の文化的背景や感情に配慮する必要があります。以下に具体例を挙げます。

例1:クリスティアーノ・ロナウド

有名なサッカー選手の画像は、知名度が高く授業を盛り上げる素材として魅力的です。しかし、以下のような対話が起こる可能性があります:

T:これ、ロナウド、知ってるでしょ?
S:ああ!嫌いです!
T:うん、で、今日は
S:ロナウド!ダメです!
T:そうだね、色々な選手がいるよね。それで
S:あああああきらいいい

熱狂的なサッカーファンの中には、特定の選手に強い感情を抱く者がいるため、授業が脱線するリスクがあります。この場合、教師の選択ミスが原因であり、感情的な反応を誘発する可能性のある人物の使用は避けるべきです。

例2:バラク・オバマ

同様に、有名な政治家の画像(例:バラク・オバマ元大統領)を使用すると、特定の政治的背景を持つ学習者が反発する可能性があります。政治的な話題は授業の焦点を逸らし、学習環境を損なうリスクがあるため、政治的・宗教的・ジェンダー関連の題材は慎重に扱うべきです。

例3:戦争と平和

「平和」を教える際、「戦争」との比較を用いるのは効果的ですが、注意が必要です。以下のような対話が起こった例があります:

教師:平和は、戦争がありません。皆笑います。平和です。
学習者:先生、戦争がありませんは平和ですか?戦争はいいことです。

戦争を経験した国出身の学習者にとって、「戦争」の画像は強い感情を呼び起こす可能性があります。この場合、平和と戦争を1枚の絵カードで並べたことが議論を誘発し、授業の進行を妨げました。したがって、戦争や政治的テーマを含む絵カードは、学習者の背景を考慮して慎重に選ぶことが重要です。

場所PCの活用法:無限の例文製造機

場所PCは、特定の場所(例:コンビニ、新宿、病院)を提示することで、学習者が自ら文脈に応じた例文を生成するきっかけを提供します。これにより、教師の発話を最小限に抑えつつ、学習者の主体的な発話を促すことができます。以下に、具体的な場所PCの活用例を紹介します。

活用例1:コンビニ

日本のコンビニは多機能で、可能表現(例:「~ことができます」)の練習に最適です。以下の対話例を参照してください:

教師:ここは?
学習者:コンビニ
教師:コンビニで何ができますか?
学習者:コピーができます。
教師:コピーだけ?他には?
学習者:買い物できます/荷物を受け取れます/お金を払えます。

学習者が自ら例文を生成するため、教師の準備負担が軽減されます。関連文型として、「~ことができます」可能動詞が活用できます。

活用例2:新宿

広範な場所(例:新宿)は、さまざまな活動を連想させ、動詞の練習に適しています。
例:

教師:新宿で何ができますか?
学習者:映画を見ます/友達と遊びます/買い物します。
教師:~たり、~たり?
学習者:映画を見たり、友達と遊んだりします

例:

T:ここは?
S:海
T:海へ・・・?
S:海へ泳ぎに行きます
T:じゃここは?
S:デパートへ靴を買いに行きます

教師:ここは?
学習者:海
教師:海へ・・・?
学習者:海へ泳ぎに行きます
教師:じゃここは?
学習者:デパート
教師:デパートへ?
学習者:デパートへ靴を買いに行きます

場所PCを提示することで、学習者の回答が単調(例:「寝ました」)から具体的(例:「映画を見ます」)に変化し、授業が活性化します

活用例3:美術館・図書館・学校

これらの場所は、禁止表現(例:「~てはいけません」)や義務表現(例:「~なければなりません」)の練習に適しています。例:

教師:ここは?(美術館PC)
学習者:美術館
教師:美術館で?(写真を撮るジェスチャー)
学習者:写真を撮ってはいけません。

図書館なら「話してはいけません」、学校なら「たばこを吸ってはいけません」など、場所に応じたルールを想起させ、文法の定着を図ることができます。

活用例4:病院・学校

存在表現(例:「~がいます/あります」)の練習にも場所PCは有効です。例:

教師:病院に?
学習者:医者がいます。
教師:教室に?
学習者:先生と学生がいます。

関連文型として、「~がいます/あります」が活用できます。

活用例5:汎用的な場所PC

レストランや学校などの場所PCは、「~をします」「~へ行きます」などの基本文型の練習にも適しています。例:

教師:(レストランPC)ここで?
学習者:ごはんを食べます。
教師:(学校PC)ここで?
学習者:勉強します。

関連文型として、「~へ行きます/来ます/帰ります」が活用できます。

場所PC以外の例文製造機:パソコンとケータイ

場所PC以外にも、「パソコン」や「ケータイ」は多様な例文を生成する優れたツールです。

これらを用いると、学習者は「メールを送る」「写真を撮る」「ゲームをする」など、実生活に関連した無数の例文を生成できる。これにより、授業が実践的かつ楽しくなり、学習者の発話量が増えます。詳細な活用法は、こちらの記事も参照してください。

まとめと注意点

絵カードは、新出語の導入や文法の定着に不可欠なツールですが、対象語彙を明確に示し、余計な要素を排除することが成功の鍵です。特に、場所PCを活用することで、教師の発話を最小限に抑えつつ、学習者の主体的な発話を促し、授業を活性化できます。ただし、以下の点に注意が必要です:

  • 試験では、答えが明確な語彙を選び、授業では多様な発話を促す語彙を選ぶ
  • 政治的・宗教的・感情的なテーマ(例:戦争、特定の人物)は、学習者の背景を考慮して慎重に扱う

適切な絵カードの選定と活用を通じて、学習者の理解を深め、実践的な日本語力を養う授業を実現しましょう。

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