日本語教師の実情と希望アンケートにプライベートで教えたいという方が多かったので、私のプライベートでの感想を紹介します。
ツイッターで行ったアンケートもありますので、そちらも参考にしてください。
日本語教師として教えるなら、どれがいいですか。
— 『日本語教師のN1et』のカキアゲ (@kakiagex) September 17, 2018
どちらのアンケートからも、プライベートレッスンの人気がうかがえます。
それでは早速次項からプライベートレッスンのメリットとデメリットを書いていきます。
プライベートレッスンのメリット
授業を自分で組み立てるのは私にとってはかなり大きなメリットです。「あれをこうやって教えるとこうなるから次はこう・・・」と考えるのは楽しいです。組織にいるとなかなか”全て”を決めるというのはできないことなので。
自分で組み立てるというよりも、正確には学習者に合わせてカスタムするわけなのですが、チームで教えるわけではないので、自分の信じる、正しいと思うやり方を誰にも邪魔されずにやれることになります。
しかし、日本語教育機関に属したことのない人がいきなりプライベートレッスンを始めると、それが正しいのかどうかの判断もできないので、まずは組織に属することを強くお勧めします。
プライベートレッスンのデメリット
一人で決め、教えるのはメリットでもあり、デメリットにもなります。後述しますが何をどうやってどの程度教えるのかを全て決めるのはあなたです。相談できる相手も基本的にはいません。日本語教師の友達がいれば意見を仰ぐことぐらいはできますが、学校のように一緒に教えているわけではないことを忘れてはいけません。
いいレッスンを提供できればレッスンは継続し食い繋げますが、できなければ切られ仕事はなくなる。シビアな世界です。
プライベートレッスンの価格の相場
日本語教師の実情と希望アンケートで行ったコマ給アンケートです。
45分のプライベート最高価格が約3100円、最低価格が約1500円です。価格と人数で単純に計算すると、2043円が平均です。こちらのデータは非常勤国内日本語教師のもので、2018年2月7日時点に撮ったスクリーンショットです。
最近は時給がどんどん下がっているため、この値段になっているのでしょうが、準備の時間も含めると、この値段でやるのはあまりおすすめしません。資格や経験があるのなら、少なくともその倍近くはもらわないと割りにあいません。
プライベートレッスンの始め方
ここからはプライベートレッスンの始め方を紹介していきます。
生徒を集める
まずは近所なり知り合いの人に紹介してもらう、店にポスターを張らせてもらうなどで集めるといいでしょう。店はスーパーや喫茶店、施設(公民館・市民プール)、自身が通っている教室(ピアノ・ダンス・歌など)です。そこにいる外国人を狙ってもいいですが、日本人にも見てもらえると確率が上がるので、日本語と英語、できれば中国語や韓国語、最近多くなったベトナム語などでもいいと思います。ただ、プライベートレッスンを申し込む人は英語圏の方が多いので、英語は絶対に入れた方がいいです。
一人でも生徒を得られれば、そこからどんどん増えます。例えば下のように、レッスン中に切り出されます。
S:そういえば
T:はい(きた!)
S:私の友達も日本語を
T:(よし!)
S:日本語の先生を探しているんです
T:ありがとうございます
S:先生の連絡先を教えてもいいですか
T:是非
といった感じです。私は紹介だけで1週間に3人生徒が増えたこともあります。
どうしても自分では見つけられないという方は、どこかの機関に登録する方法もあるので、やってみてください。たぶん、「求人 プライベートレッスン 日本語教師」のように検索すると見つかるかと思いますが、機関に所属すると、取り分は少なくなるので、そこは覚悟の上、行ってください。
レベルチェック
生徒が集まったらまずすることはその人のレベルのチェックです。
日本語教育機関ならほぼ全ての学校でプレイスメントテストというものをやりますが、それを一人でやることになります。口頭と筆記と2つ方法があります。私はもっぱら口頭で1時間話しレベルチェックを行います。経験がない方は日本語能力試験(通称、JLPT)という多くの日本語学習者が取得を目指す試験の模擬試験などを受けさせてもいいと思います。
レッスンを進めていくうちにわかること、例えば「この人は形容詞の変換がダメだな」とか「助詞の使い方は完璧だ」などもありますから、途中で計画を修正してもいいでしょう。プライベートレッスンの強みは個人の長所と短所に合わせて細かい軌道修正ができることです。集団授業だとこうはいきません。
また、生徒も「やっぱりこれも勉強したくなった」「これは私には不要だからやらなくてもいい」という要望が出るので、その都度対応していくことになります。
ターゲット調査
生徒が日本語を使って何をしたいのかを細かく聞いていきます。
仕事で使うのか、日本語で日常会話ができるようになりたいのか、アカデミックな日本語の獲得、JLPTの合格、EJU高得点の獲得等々、その人のターゲットにあわせてレッスン計画や進度を決めます。
教材選定
テキストは何を使うのか、そもそもテキストは要るのか、フラッシュカードやピクチャーカード、レアリア、インターネット環境があるか、あるならそれをどのように活用していくのか、適切なアプリケーションの選定等々、どれを使っていくかも大変重要になります。
テキスト選定はこちらのタグを参考にしてみてください。私が使ったテキストからおすすめのものをレビューと併せて紹介しています。
プライベートは学習者に合わせられるのがいいところですが、学習者全員の言う事を聞いていたらこちらの準備が追い付かず、いいレッスンができません。自分の許容範囲を知り、譲れるところ、譲れないところを取捨選択していきましょう。
レッスンを行う場所
スカイプという無料で通話ができるアプリがあります。それを使えば、どこにいても相手と顔を見ながらレッスンができます。他にも、ZOOMといったアプリ、LINEやFacebookでも無料通話はできます。旅行先でもパソコン(ケータイでも可能)を持って行けばレッスンができます。
オンラインレッスンができない環境の方は現地で会ってレッスンを行います。カフェやカラオケ店、公民館、レンタルスペースなどが選択肢としてあります。
- カフェはコーヒー代だけででき、安いですが周りに人がいると恥ずかしい・集中できないという生徒だとできません。ホワイトボードもありません。
- カラオケ店は音こそ流れてはいますが、防音は完璧です。個室ですが、店員さんや周りのお客もいるので女性でも多少安心です。
- 公民館は無料のところとそうでないところがあります。有料のところはカフェとカラオケ店にはないホワイトボードとペンが借りられるところが多いです。
- レンタルスペースがスカイプに次いでおすすめです。ホワイトボードやプロジェクター、ペン、スクリーンなどがあり、個室です。値段や設備はまちまちなので(意外と安い)、周辺のレンタルスペースを調べてみてください。「ここレンタルスペースだったんだ!」と驚くほどあります。
直接会ってレッスンをする場合は、その分レッスン料を割高にします。Skypeレッスンとは違って教師を移動させるわけですから。
直接法か間接法か
直接法:日本語で日本語を教えること
間接法:学習者の母語で日本語を教えること
クラスレッスンでは直接法がいいと思いますが、プライベートレッスンであれば間接法と直接法の折衷法で教えることが多いです。
直接/間接法について詳しくは以下の記事で述べています。
そして、間接法が使えるということは、質問が山のように来るということでもあります。
直接法で教えている初級の集団授業ならそもそも質問ができないので、経験がなくても怖くありません。ですから、プライベートレッスンで教えることは、かなり経験を積んでからでないと厳しいのです。
生徒との約束
レッスンの詳細が決まったら、最後に生徒に伝えなければならないことがあります。それは
「〇カ月/年でこれができるようになります」
という約束です。これを伝える理由は2つ、
- 生徒にも教師にも、なんとなく進みがちなレッスンに緊張感を持たせる
- 生徒を安心させる
ボランティアでない教師はできるだけ長く生徒にレッスンを受けてほしいと思っています。それが収入源になるわけですから。しかし、例えば、期限を1年と設定し、1年後達成できたと思ったら生徒にレッスンを終了してもらいたい、というのは嘘になりますが、いつまでもダラダラとやっていても虚しいだけなので、私はこうしています。
それを聞いて生徒も安心できます。さらに、「もっと早くできないか」と言われたら「では、レッスンを週に2回ではなく、3回にしなければなりませんが、よろしいですか」と交渉します。
焦らせる常套句としても使えます。例えば学習者がレッスンを急にキャンセルしたり、遅刻したりした時に次のように注意できます。
「最初に1年後に~ができるようになると言いましたよね。仕事だからといってキャンセルされると期限内に目標を達成できませんし、できなくても文句を言わないでくださいね」
そして、「もっと上のレベルを目指したい」と思わせるレッスンをやれば、向こうから「もっと教えてほしい。レッスンを継続したい」と申し出も来ます。
とにかく、期限も決めずになんとなくだらだらとやるレッスンはいいレッスンとは言えません。
自ら収入源を〇カ月/年後に終わらせる宣言をするというのは躊躇してしまうかもしれませんが、レッスンにメリハリがつけられます。
漢字の扱い
生徒には様々な細かい要望を聞き、計画を立てます。その中でよく問題になるのが漢字です。「教えてほしい」という方、「要らない」という方がいます。
ルイス・フロイス
「日本人は全生涯を文字の意味を理解することに費やす」
と非難されるように、日本語は文字が面倒です。特に漢字。「勉強したいんだけど難しい」と生徒に言われたら、私は「読めるようになればいい、日本人だって書けないから」と提案します。
ただ、「絶対漢字勉強したくない!難しすぎる」という生徒もレッスンを進めていくうちに心変わりします。漢字を読めないと勉強すらできないことに気づくからです。
ルール決め
始める前に大事なのが、ルール決めです。社会人ですので、日程変更やキャンセルは当たり前だと思ってください。私達にとっては仕事ですが、彼らの人生においてレッスンなんてものは二の次三の次です。「朝公園を散歩していたらレッスン忘れてたよ、hahaha!」なんて日常茶飯事です。まずこの認識の違いを心得なければなりません。
しかし、こちらも召使いや便利屋ではないので、しっかりルールを決めます。例えば、キャンセルは当たり前とはいえ、当日の、レッスン開始1時間前に「すまん今日無理」なんて言われたら、こちらにとっては大きな損失です。その時間に他の方のレッスンができたかもしれませんし、友達と遊べたかもしれません。その急なキャンセルに何のお咎めもないのは不公平極まりない。
ということで、私は以下のようにルールを作っています。
- キャンセルは前日までに連絡をもらえればお咎めなし
- 当日キャンセルや忘れていた場合はレッスン料の全額をこちらがもらう
というものです。これで、生徒にレッスンを意識した生活を送ってもらえますし、キャンセルされても教師は納得できます。「全額はさすがに酷、せめて半額か7割程度がいいのでは」というご意見もあるかと思いますので、そこは先生の裁量におまかせします。
一つだけ言えることは、専門学校や大学で「欠席したからその日の分の授業料は払わない」という学校は世界のどこにもないということです。
プライベートレッスンに経験は必要か
”プライベート”で日本語を教えるための資格はありません。①教員免許も②日本語教育能力検定試験合格も、③日本語教師養成講座受講も、④420時間も、⑤大学での専攻も何も要りません。生徒さえいればすぐに始められます。
しかし、資格こそ必要ありませんが、知識がなければ現場で苦労するのは必然だということは、ここまで読まれている方ならよくわかったかと思います。上の①~⑤をやっておくことで、質のいいレッスンを提供できます。日本人だから教えられるとおごっていると、学習者の質問に答えられず、契約を切られます。他の人を紹介してもらうこともありません。
繰り返しになりますが、まずは機関に属して経験を積むことを強くおすすめします。組織の中で周りの教師の動きや教え方を学び、どのようなテキストがどのような学習者に使われ、教材はどんなものがあるのか、試験や宿題はどんな形式で出せばいいかなどを身につけることができます。
コメント