「できます」という言葉には以下の4つの用法がある。
- 可能
- 準備が終わる
- 新しく建設される
- 新しい人間関係が始まる
赤い枠が2つ目、青い枠が3つ目、緑の枠が4つ目の例文。この考察では4つ目について考える。
新しい子ども?
- 友達 が できました。
- 恋人 が できました。
- 子ども が できました。
という3つの文があります。それぞれの文頭に「新しい」を付けると、1つだけ違和感が生まれます。
- 新しい友達 が できました。
- 新しい恋人 が できました。
- 新しい子ども が できました。
子どもが母親に学校の様子を説明する時に
「ねえねえ、お母さん、新しい友達ができたんだよ」
と言っているのは容易に想像できる画だと思います。
先月彼女と別れたばかりのA君が友達のB君に
「実はさ、俺、新しい彼女できたんだ」
もありそうです。
しかし、妊娠したことを夫に告げる妻が
「新しい子どもができたのよ」
なんて言うでしょうか。非常に嫌な言い方です(と私は思います)。この違和感の正体は何なのか。
ツイッターでアンケートしたものがあるので、ご覧ください。
妻が夫に
「新しい子どもができたの」
と言いました。あなたが夫ならどう思いますか。「出産の喜び」ではなく、「“新しい”の使い方」についての質問です。「“新しい”子ども」という言い方に
— 『日本語教師のN1et』のカキアゲ (@kakiagex) February 27, 2018
どうやら悪い印象を持つのは私だけではなかったようで、安心しました。
「新しい」に含意されたnew以外の要素
①「新しい」にはポジティブなイメージがあります。この点においては3文とも問題ありません。
「新しい服」と言った場合、その服が好きで買ったことになります。「あのバンドの新曲」「新車」「新型」と聞いて、ほとんどの人はポジティブな意味に捉えます。
②「新しい」には待ち望んでいたという意味がありますが、この点においても3文とも問題ありません。恋人も友達も子どもも待ち望んで、ようやくできた、というのが一般的な考えです。
「新しい友達ができたっちゃんだよ・・・はあ」
「要らないのに新しい恋人ができたんだ・・・」
とは言いません。子どもも同様です。作ろうという意志なしには3つともできません。
③「新しい」ということは、「古い」ものの存在を示唆、または暗に比較しています。
- 新しい恋人 が できました。
これを発話した人は、その「新しい恋人」が二人目以上であることは言うまでもありません。この一文だけで、話者が前の恋人と別れたことがわかります。そして、昔の恋人は忘れて新しい恋人との明るい未来が「新しい」という言葉から想像できます。
- 新しい子ども が できました。
「新しい子ども」ということは、2人目以上の子どもだとわかります。「新しい子ども」という表現は、第一子をないがしろにするような発言とも取れます。恋人と違って、長男は長男、次男は次男で、比較すべきものではありません。
「新しい」と言うと、「古い」方を意識させるような印象を与えるので、「新しい子ども」という表現に悪い印象を持つ人が多い
という結論が出て、ここで終われればよかったのですが、次の文がそれをさせてくれません。
- 新しい友達 が できました。
「新しい友達」と言うことで「古い友達(今も関係が続いている友達)」との比較をしている訳ではありません。この場合の「新しい」は良い・悪いではなく、単純に数の話をしているのです。
小結論
少しまとめます。Aが正しいとするならば、以下のBは成立します。そして、Bという結論は、Cによって崩されます。
A: 新しい恋人➔古い恋人を意識させる➔別れた➔古い恋人は忘れる
B: 新しい子ども➔古い子どもを意識させるから不快➔言わない方がいい
C: 新しい友達➔古い友達を意識していない(数が増えたと言っているだけ)
※「古い〈人〉」という言い方は不適切ですが、ご了承ください。
Cが正しいとするならば、Bの 不快 が 不快でない となってしまいます。
つまり、「新しい子ども」に悪い印象を持つこと自体が間違っている、正しい表現である、ということになります。
友達ができた➔問題ない
子どもができた➔問題ない
新しい友達ができた➔問題ない
新しい子どもができた➔(「新しい」のせいで)問題ある
結論
「新しい」には日本人が共通で持つ良いイメージが含意されているため、「新しい子ども」という表現は、第一子をないがしろにするような発言とも取れる。
「新しい友達」「新しい恋人」という表現には良いイメージがあり、これは子どもの場合と違って、発言に他意が含まれない。
「できます」という言葉には以下の4つの用法があるが、
- 可能
- 準備が終わる
- 新しく建設される
- 新しい人間関係が始まる
4つ目の用法を教える際は、
〇新しい恋人
〇新しい友達
✕新しい子ども
と教授する。理由は上述の通りである。
最後に
ここに書かれているのは私の勝手な考察です。根拠も資料もなく、私の頭の中の思考過程と結論をここに書いているだけに過ぎないことをご了承ください。
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