初級の、できるクラスではこの「こと」「の」の違いについて聞かれる。みんなの日本語でいうと、38課の「Vジのは(が)~です(評価・感想・能力)」「~のを忘れました/知っています」のタイミングだ。この文型内に含まれているのが形式名詞である。
名詞は実質名詞と形式名詞に分けられるのだが、この実体を持たない形式名詞について解説していく。
なお、このページではみんなの日本語以外の”初級”教科書で提出される文型も扱う。
形式名詞
形式名詞とは文を名詞に変えるという文法上の働きをする名詞の事。
- 名詞の性質を持つが、
- 実質的な意味はなく、
- 修飾要素なしでは使えず、
- 主語にならない
事物や概念よりも、文の組み立てに焦点を置き、補足節、副詞相当句、副詞節、「~だ」で述語として機能する(はずだ、わけだ)。「こと」「の」「わけ」「もの」「はず」などが存在する。
いろいろある形式名詞だが、難しい話は後半で。まずは冒頭で述べた学生からの質問に対する答えを説明する。
「こと」「の」は入れ替えできる場合が多い
「こと」「の」は多くの場合入れ替えできる。
・漢字を覚える(こと/の)は難しい
・彼は朝早く起きる(こと/の)が苦手だ
しかし、それぞれが使われやすい場合と、「の」だけが使われる場合とがある。
「こと」が使われやすいもの
意志動詞:依頼/提案/決意/約束+する、命じる
祈願動詞:祈る、望む
・この仕事を辞めることを決意した
・合格できることを祈った
これらは「の」でも言えるのだが、「こと」が好まれる。学生に質問されたら、簡単にこう答えればいい。
S:この「こと」は「の」を使ってもいいですか
T:いいけど、「こと」の方がいい
「の」が使われやすいもの
感想・評価:Vジ+のは~です
・料理を作るのは楽しい
嗜好・能力:Vジ+のが~です
・料理を食べるのが好き
行為:Vジ+のを忘れました
・子どもの料理を作るのを忘れた
行為:Vフ+のを知っていますか
・彼が料理を作るのを知っている?
全てみん日ならば38課だが、接続に注意。これらは「こと」でも言えるのだが、「の」が好まれる。学生に質問されたら、簡単にこう答えればいい。
S:この「の」は「こと」を使ってもいいですか
T:いいけど、「の」の方がいい
形式名詞「こと」を伴う句。「こと」「の」入れ替え不可
これは、「の」との入れ替えができないもので、もう句として形が決まっているもの。
可能:Vフ+「ことができる」
・彼は日本語を話すことができる
反復:ふつう形+「ことがある」
・このバスはよく遅れることがある
経験:Vタ+「ことがある」
・英語を勉強したことがありますか
決定:Vフ+「ことになる/する」
・転勤することになりました
学生に質問されたら、こう答える。
S:この「こと」は「の」を使ってもいいですか
T:ダメ
「の」だけが使われるもの
感覚動詞:見る、聞こえる
強調構文:「~のはAだ(Aの強調)」
・彼が怪しい動きをしていたのを見た
・私が好きなのはAです(私はAが好きです」よりも「A」を強調できる言い方)
「~のを見る」はみん日以外の初級の教科書ならば提出されていることもある。強調構文はだいたい初級段階でやる。
初級以上の「こと」「の」
ここからは初級以上で使われるものの解説をする。初級のみを教えている教師は見る必要はない。
補足節を作る形式名詞
名詞相当句を作る形式名詞には「こと」「の」「ところ」などがある
・彼は車の調子が悪いことに気づかなかった
・彼は朝早く起きるのが苦手だ
・その泥棒は窓から逃げようとしているところを捕まえられた
・ことの重大さは身にしみてわかった。
ここで使われている「こと」は出来事という本来の意味で、通常の普通名詞だが、
・僕は話をすることが苦手です。
この「こと」には「話をする」に形式的につけられているだけなので形式名詞となる。
副詞相当句、副詞節を作る形式名詞
時 :とき(に)、おり(に)、うち(に)
・今度会った時に、またその事は話そう
原因:ため(に)、おかげ(で)、せい(で)
・事故のために列車は30分遅れた
様態:とおり(に)、よう(に)、かわり(に)、ほか(に)、ついで(に)、まま(で)
・言われたとおりにやってみた
※おかげ、かわり、ついで、などは文脈から明らかな場合は、修飾要素を省ける
・(あなたの)おかげで助かりました
「ところ」
「名詞+の+ところ」 という形で場所でない名詞を場所名詞にしたり、全体の位置を示す
・私のところへ遊びに来てください
・そこのところを、もう少し詳しく言ってください
「こと」
「こと」には具体的な人やものを表す名詞について名詞に関することがら、名詞の属性などの意味を持つ
抽象的な名詞を作る用法がある
・いつもあなたのことを考えています
・私はその人のことを女だと思っていた
コメント