日本語は特殊な言語?┃「比較言語学」と「言語類型論」

「日本語は特殊な言語だ」というフレーズを聞いたことはありませんか。あるいは、現在ご自身がそう思われているかもしれません。はたして日本語は特殊なのか、他の言語と何が違うのか・・・それを明らかにする手がかりを見てみましょう。

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言語学の研究分野

言語学には、「比較言語学」や「言語類型論」といった研究分野があります。

比較言語学
同じ系統だと推測できる言語同士を比較して共通部分をとりだし、「祖語」(親となる言語)を再建するなどして、言語の歴史を明らかにしていく研究

言語類型論
多くの言語を比較して共通する特徴を見つけ、言語をいくつかの類型(グループ)に分類していく研究

今回は、上記2つの研究成果をもとに、日本語が特殊な言語かどうかを検討します。

比較言語学

比較言語学は19世紀にヨーロッパを中心に発達した研究です。
代表的なものに「インド=ヨーロッパ語族」に関する研究があります。これは、現在ヨーロッパで話されている言語やインドで話されている言語は、共通の「祖語」が再建できるため、昔は一つの言語だったのではないか、ということを明らかにした研究です。英語もこの語族にふくまれています。

さて、日本語に目を向けてみます。
実は、日本語の「祖語」が何であるかは、はっきりとわかっていません。いろいろな言語と共通の親を持っているのではないかと研究がすすめられましたが、これと断定できるものがないようです。
こういった言語は他にもいくつかあり、「孤立言語」と呼ばれています。そういった意味では、日本語は「特殊」なのかもしれません。

言語類型論

言語類型論の分野では、さらに「形態論的類型論」と「語順」の2つの立場の研究を見てみましょう。

形態論的類型論

「形態論的類型論」では、言語の形態(おもに文法機能)の観点から、世界中の言葉を3つ(場合によっては4つ)のグループに分類しています。

1.孤立語
文法機能を語順で示し、1つ1つの語はまったく変化をしない言語のグループ
例)中国語、ベトナム語、タイ語など

2.屈折語
文法機能を、1つ1つの語を変化させて示す言語のグループ
例)ラテン語、ドイツ語など

3.膠着語
文法機能を、1つ1つの語にくっつけて示す言語のグループ
例)日本語、韓国語、トルコ語など

(4.抱合語)
おもに動詞に名詞や人称など様々な要素をとりこんでいき、まるで文のような長い一単語を形成していく言語のグループ
例)アイヌ語など

このように、世界の言語を形態の観点から大きく3つ、あるいは4つに分けると、日本語には仲間もいますし、そう「特殊」であるとはいえないかもしれませんね。

ちなみに、英語は屈折語の要素を持っているのですが、その特徴はかなり失われており、どちらかといえば孤立語に近いとされています。

語順

日本語はSOV、英語はSVO・・・なんて呼び方を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。Sは主語、Vは動詞、Oは目的語であり、平叙文(疑問などではない文)において、日本語は

わたしは(S)テニスを(O)する(V)。

となるためSOV、英語は

I(S) play(V) tennis(O).

となるためSVOだといわれています。

世界の言語の多くはSから始まり、Vから始まる言語やOから始まる言語はあまりありません。さらに、日本語とおなじSOVの語順を持つ言語は世界の言語の半数ほどという研究もあります。
この観点からみると、日本語はまったく「特殊」な言語ではない、ということもできるでしょう。

まとめ

少し難しいことばも出てきましたが、「日本語は特殊な言語なのか」という問いに対する答えは見つかったでしょうか。観点によって「特殊である」とも「特殊ではない」ともいうことができますね。

日本語母語話者でも、自分の頭の中だけで考えられることには限界があります。日本語についてもっと知りたい、という方は、以下の本なども参考にしてみてくださいね。

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