学校では学生だけではなく、教師にも禁止事項があります。
学生に背を向ける
禁止事項: ホワイトボード(WB)に板書する際、学生に背を向けてはいけません。
理由: 教師が学生に背を向けると、教室の緊張感が途切れます。学生と視線を合わせない時間が長くなると、学生の集中力が低下し、居眠り、飲食、私語、内職(他の作業)などの問題行動が増えます。これは、教師の「監視」の不在が、学生に「自由な時間」と誤解させるためです。
改善策:
- 体を学生に向ける: 板書時は体を斜めにし、学生と視線を保ちながら書く。
- 短時間の板書: 長時間の板書は避け、必要最小限の内容を簡潔に書く。
- 事前準備: あらかじめ板書内容をスライドや文字カード(LC)で準備し、板書時間を短縮する(例: 文字カードの活用方法)。
少し姿勢は悪いですが、後ろを向けるぐらいなら、まだ下のような立ち姿の方がマシです。

板書はできるだけ短くしましょう。体は学生に向けながら板書しましょう。
黙り込む
禁止事項: 板書中や授業中に長時間黙ってはいけません。
理由: 教師が黙ると、教室のエネルギーが低下し、学生の注意が散漫になります。板書中に沈黙が続くと、学生は教師の「不在」を感じ、集中力が途切れます。ただし、教師が話しすぎるのも問題です。教師の発話量が多すぎると、学生主体の授業が損なわれ、学習者の発言機会が減ってしまいます。
改善策:
- 書きながら話す: 板書中も説明や質問を続けることで、学生の関心を維持する。
- 学生主体の授業設計: 教師の発話を最小限に抑え、学生に質問やディスカッションの機会を多く与える。
- 適切な間(ま)の活用: 沈黙が長すぎないよう、短い間を取り入れつつ、テンポよく授業を進める。
不適切な板書
禁止事項: 雑な字形や不明瞭な板書をしてはいけません。また、ルビを振らないことも避けるべきです。
理由: 日本語学習者にとって、教師の板書は重要な学習資源です。日本語の文字は、トメ・ハネや筆順が正確でないと、学習者が誤った形で覚えてしまうリスクがあります。また、留学生は漢字の読みに不慣れな場合が多いため、ルビを振らないと理解が難しくなります。しかし、ルビを振る作業は時間がかかるため、効率的な方法が求められます。なお、国の方針では、学習者に対してトメ・ハネを厳格に指導する必要はないとされていますが、教師自身は模範となる字形を示す責任があります。
改善策:
- 正確な字形と配置: 字形を丁寧に書き、ホワイトボード上の文字や図の配置を整理する。
- ルビの効率化: 文字カードやデジタルツールを活用し、ルビ付きの教材を事前に準備する。
- マルチタスクの習得: 板書しながら①学生と対話、②次の授業の段取りを考える、③ルビを振る、といった動作を同時進行できるよう練習する。これらのスキルは、経験を積むことで自然に身につく。
学生に下を向かせる
禁止事項: 学生に長時間下を向かせ、ノートを取らせたり作業させたりしてはいけません。
理由: 授業中に学生が下を向いてノートを取ったり問題を解いたりすることは「作業」に近く、教室外でも可能な活動です。一方、教室では対話やディスカッションなど、教師や他の学生と関わる「学び」に重点を置くべきです。下を向く時間が長いと、学生の集中力や授業への参加度が低下し、教室のダイナミズムが失われます。
改善策:
- 対話中心の授業: グループディスカッションやロールプレイを取り入れ、学生が前を向いて発言する機会を増やす。
- ノートテイキングの工夫: 重要なポイントは板書や配布資料で提供し、学生が下を向く時間を減らす。
- アクティブラーニング: 学生が互いに質問し合ったり、意見を共有したりする活動を導入し、教室を「学びの場」として活性化する。
学者口調で話す
禁止事項: 無表情で抑揚のない「学者口調」で話してはいけません。
理由: 単調で感情のこもらない話し方は、学生の興味を削ぎ、眠気を誘います。テレビの学者や一部の大学講師のような、難しい言葉を淡々と並べる話し方は、留学生にとって理解しづらく、授業の効果を下げる原因となります。日本語学習者は、言語の壁に加え、文化や学習環境の違いにも適応しているため、教師の声の抑揚や表情が学習意欲に大きく影響します。
改善策:
- 生き生きとした話し方: 声のトーンに変化をつけ、ジェスチャーや表情を活用して授業を活気づける。
- 簡潔でわかりやすい言葉: 難しい語彙や専門用語を避け、学習者のレベルに合わせた表現を使う。
- 学生との対話: 学生に質問を投げかけたり、反応を引き出したりすることで、双方向のコミュニケーションを促進する。
なぜこれらの禁止事項が重要か
これら5つの禁止事項は、単なる「やってはいけないこと」ではなく、教室を効果的な学習環境にするための鍵です。日本語を学ぶ留学生は、言語の習得だけでなく、日本の文化や社会に適応する過程にあります。
教師の行動や態度が、学生の学習意欲や集中力に直接影響するため、教師は常に「模範」としての役割を意識する必要があります。
さらに、現代の日本語教育では、学生が「話せる」ようになることがますます重要視されています(前稿「留学生は『話せる』ようになるべきか?」参照)。教師が背を向けたり、黙り込んだり、単調な授業を続けたりすることは、学生の会話力や主体性を育む機会を奪うことにつながります。
最後に
教師として成長するために優れた日本語教師になるためには、文法知識や指導力だけでなく、教室運営のスキルが不可欠です。以下のステップで、5つの禁止事項を克服し、効果的な授業を実現しましょう:
- 自己観察: 自分の授業を録画・録音し、背を向けていないか、黙り込んでいないかを確認する。
- 教材の準備: 文字カードやデジタルツールを活用し、板書やルビの時間を効率化する。
- 学生との対話の強化: 授業中に学生の発話を促し、双方向のコミュニケーションを増やす。
- 継続的な改善: 同僚や学生からのフィードバックを受け、授業スタイルを磨く。
テキストをなぞるだけの授業や、過去の教材に頼り続ける姿勢は、学生の信頼を失います。教師としての威厳や指導力は一朝一夕では得られませんが、まずはこの5つの禁止事項を意識し、改善を重ねることで、学生の学びを最大限に引き出す授業が実現できるでしょう。

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