Q:どうして従業員っていう日本語があるのに、スタッフって言うの?
A:従業員というよりもやわらかく聞こえるから。
カタカナの用法
『スタッフ募集!!』
街の張り紙によく見られるものです。単にアルバイト募集と書いてあるところも多いです。「アルバイト募集」は日本語で「非正規雇用者募集」となります。これを聞いてあなたはどう感じますか。
It is often seen in the street papers below. There are many places where it is simply written as part – time job recruitment. “Part-time job recruitment” means “recruitment for non-regular workers”. How do you feel about how it is saying?
ひらがなや漢字の代わりにカタカナを使う事で、いくつかのチカラが働きます。5つの用法を考えたので、一つずつ見ていきましょう。
①文の中で特定の言葉をカタカナにして強調する┃To emphasize specific words in sentences as katakana
例:力➔チカラ ごみ➔ゴミ 日本➔ニッポン
『力』と書かずに、『チカラ』と書くと、
「お、なんだろうコレ、何の力だろう」
と興味が湧く。そしてゴミ。よくごみはかたかなで書かれる事が多いが、この用法を使い、カタカナで書いて強調している。ニッポンも同様だ。
②言葉の持つ意味を弱める┃To weaken the meaning of words
例:ローンと借金 試験とテスト
ローン、つまり借金のことである。家を買う時もローンとよく言うが、これも借金。しかし、借金と言うとなんだか重い感じがするため、融資会社は借金と言うのを避ける。カタカナには言葉の持つ印象を軽くする用法がある。
試験とテスト。「日本語能力テスト」と言うとなんだか落ち着かない。逆に「小試験」と言うとこれまた落ち着かない。漢字は重く、カタカナは軽い。
漢字:厳正さを表す
カタカナ:やわらかさ、ポップさを表す
Kanji: represents strictness
Katakana: represents softness and kindness
従業員とスタッフもこれによる。従業員募集と言われると、「何だろう、何されるんだろう。重労働なのかな。拘束時間も長そう」と応募者に応募するのを躊躇させてしまう。(お小遣い程度のお金が欲しい大学生なんかは特にこれに当てはまる)
③文章内での言葉を浮かせる、埋もれ防止効果┃To make words stand out
例:スべる トチる ボケる
これは①の用法と非常に似ているが、言葉が文の中で埋没してしまうのを防ぐ効果がある。
「ぼけとつっこみ」「ボケとツッコミ」
Aあのこんびはぼけとつっこみがはっきりわかれていない
Bあのコンビはボケとツッコミがはっきりわかれていない
Aの文はどこが「言葉の切れ目」なのかわかりにくい。
④格好よさ┃To make words cool
「ビジネス」 > 「経済」
「コンシェルジュ」 > 「総合的な世話係」
カタカナがかっこよさ、プロっぽさ、先進的な印象を与える用法。
逆に日本語の方が格好いいという場合も多いので、これは個人的な感覚に拠るところが大きい。「シェフ」と「料理人」ならば、どちらの方がかっこいいだろうか。
⑤代用可と不可なもの。和製化┃To substitute words
そのカタカナを、カタカナ以外でも似た意味で代用できる場合があるが、その場合ひらがなで書くと和製の、という意味が出る
例:菓子とスイーツ
しかし、この⑤の用法には気を付ける点がある。まずは以下の言葉を聞いて同じかどうかを考えてほしい。
ベッドと布団 ライスと米 宿とホテル
それぞれ似てはいるが、別物だ。ベッドは脚があるもの、布団は敷くもの、ライスと米は盛る皿が平皿か茶碗かの違い。だから、安易に
ベッドは布団です
と言ってはいけない。ちゃんと絵を見せるなりして違いを教える必要がある。さらに、まったく意味が違うものもある。マジックは日本語で「手品」、英語では「魔法」と「手品」2つの意味がある。
⑥文章の難易度を調節する┃To adjust the difficulty of sentences
以上が、カタカナの基本的な5つの用法です。宣伝学などを勉強した広告のプロは意識して使っていると思いますが、私達はこれらの効果をほとんど無意識に使っています。
つまり、こういったことを「意識して使う」と良い文章が書けるということです。しかし、使いすぎると目がチカチカして見づらいですから、気をつけてください。
これをうまく使えば文章をわざとわかりにくくすることもできます。
3.11の時、各省の大臣、政治家たちがこぞってカタカナばかりの難しい言葉でお茶を濁していると話題になっていました。説明をわざと難しい言葉で説明し相手からの非難を最小限に抑える、これが6つ目の用法です。
弊害か利点なのかわからないのもあります。例えばサブプライムローン。意味、ご存知でしょうか。
「アメリカの低所得者層や信用度の低い個人を対象にした住宅融資」のことです。これをあなたならどう訳しますか。例えばですが、「低所得者層住宅融資」などと訳せるかもしれません。「サブプライムローン」と「低所得者層住宅融資」、どちらがいいでしょうか。
氾濫するカタカナ
ネット上には上のような意図せずしてわかりにくいカタカナもあります。
『より自由にデプロイメントからプロビジョニングを実施するためのインターフェースが利用できます。定義済み構成の構築やアプリデプロイの自動化により、より柔軟な実行環境を構成でき、自動化や柔軟度が向上します。』
上の文章は私が実際にとある所でヘルプを押して出たものです。勘弁してほしいです。だいたいネット用語はこんなのばかりで、パソコンの説明書を読むための説明書が欲しいぐらいです。
カタカナの弊害です。うまく使えば便利で、効果的なんですが。上の説明を書いた人は消費者全員がこれを理解できると思って書いたのか疑問です。
新しいカタカナ語は訳語を作ることで誤解を生む可能性があったり、流入するスピードに訳語を作るスピードが追いつかなかったり、様々な問題もあるとは思いますが、それにしても酷いものです。
カタカナの歴史┃History of Katakana
万葉仮名・ひらがな・カタカナ
万葉仮名とは、日本語を表記する為に古代の日本人が考案した漢字を利用した表音文字のことです(万葉集に多く見られることからこう呼ばれる)。漢字の音によって、基本的に1つの漢字を当てて日本語を書き表しました。万葉仮名を草書化したものが「ひらがな」で、一部を取り出したものが「カタカナ」となりました。
ちなみにひらがなは、867年の『有年申文(ゆうねんもうしぶみ)』には「ふ」と「と」などのひらがなが見られ、10世紀には完成していたと言われています。「かんな」「かな」「女手」とも呼ばれていました。
文字統一
明治維新の頃、志賀直哉という人が「漢字、ひらがな、カタカナが日本語の癌だ。全てアルファベットにしよう」と言い出しました。一時期本気でそれは考えられていましたが、現在の日本を見てわかる通り、その提案は実現しませんでした。
しかし、そのとんでもない提案を実際に行ってしまったのがトルコです。トルコ語はアルファベットのみの言語です。
効率的な日本語の表記体系
漢字、ひらがな、カタカナの3種類の表記体系は非効率的であるとよく聞きますが、分業によってとても効率的なのです。
漢字は主に名詞、形容詞、動詞などの内容語の語幹として用いられ、ひらがなは主に機能語として。カタカナは主に外来語や動植物の名称に使われます。また、漢字はアナログ的、仮名はデジタル的であるという特質も識別しやすさに大きく寄与しています。じっさいにぶんをすべてひらがなでかいてみればそのぶんぎょうせいにかんしゃせざるをえないでしょう。カタカナニシテモオナジデス。トニカクスベテカタカナヒラガナトナルトヒジョウニヨミニククナルハズデス。
カタカナの表記の揺れ
カタカナには表記の揺れがあります。いくつか例を見てみましょう。
① カタカナには【表記の揺れ】がある
『揺れ』とは『人によって表記が異なる』という意味です。「クオリティー」と表記する人もいれば、「クオリティ」と表記する人もいます。この長音の揺れが特に多いです。
② 専門的に扱う業界では頻繁に短縮される
例えば、IT業界で働く人は「コンピューター」よりも「コンピュータ」と短くして用いる事が多いようです。
③ 発音に忠実にしようとする流れがある
表にある「レヴェル」は最近ニュース等でよく見るなあと思うカタカナです。「ヴァケーション」や「ヴァイオリン」は許されたような感じがありますが、「レヴェル」からは違和感を拭えません。「エディソン」も同様です。
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