以下のツイートについて補足をしたいと思います。
日本語能力が初級後半(N5)レベルの留学生がJLPTのN1に合格しました。ほぼ満点で。
簡単に手に入るものに価値などありません。実施機関から今後何も対策なり発表がなければ、JLPTは消滅するでしょう。いつまでこんなことを野放しにするつもりなのか。— 『日本語教師のN1et』のカキアゲ (@kakiagex) January 29, 2018
日本語能力試験(JLPT)とは
以下JLPTについてですが、日本語教師ならば知っていることなので、日本語教師の方は読み飛ばしてください。
日本国内では日本国際教育支援協会(JEES)が、海外では国際交流基金が現地の機関と共同で試験を実施。日本語を母語としない人を対象に日本語能力を認定する検定試験である。日本を含め世界52カ国・地域(2008年時点)で試験を受けることが出来、日本語を母語としない人を対象とした日本語の試験としては最も受験者の多い試験である。
1984年から始まり、初年度の受験者数は1万人に満たなかったが、08年には56万人となった。09年度から7月と12月の二回実施。
受験会場の様子
N1はN1の受験会場で受けます。今回のような「N5の学習者がN1に合格する」ということはどういうことか。簡単です。N5の学習者がN1に申し込み、N1を受験すればいいだけです。
試験監督者が巡視はしているものの、あまり仕事(目を光らせて受験者の挙動を見張る)はしていないと聞きます。「と聞きます」というのは、この試験、日本語母語話者は受けられないため、実際に私が見たわけではないということです。しかし、多くの私の学生からダメな試験監督者だと言われています。数分の遅刻を許す監督者と許さない監督者、試験中居眠りする監督者、カンニングの誤審をする監督者がいます。彼らは外部から雇われたバイトで、実施機関とは関係がありません。
カンニングは一発アウトではなく、1回目に警告のイエローカードを机に置かれ、2回目は退場のレッドカードが置かれ、退場です。
どうやって合格したのか
以上を踏まえ、様々な仮説を立てながら、それぞれ検証してみます。
受験者が頑張ったんじゃないの?
ツイートの反応の中に「いや、そのN5の学習者が頑張ったんじゃないの?」「その人が頭よかったんだよ。センスいい人いるから」「不正を行った証拠でもあるの?」
日本語教育従事者ならばN5の者がN1に合格したというのがどれだけのことなのかはわかると思いますが、従事者でない人にもわかりやすく、これがどれだけのことか説明します。
N5の問題例
まいばん テレビの ( ) を みます。
1 ラジオ 2 ニュース 3 ポスト 4 ノート
N1の問題例
賃上げで消費を底上げし景気浮揚を ( ) 考えです。
1 跳ぶ 2 尊ぶ 3 熟る 4 図る
以上、それぞれの問題例です。N5はひらがなばかりで、分かち書き、簡単な単語で試験全体が構成されています。N1は、難しいです。
この試験の前に該当学習者と話しても、記述を読んでもレベルはN5であることは明らかでした。なお、あまり詳しいことはここでは伏せておきますが、該当受験者は漢字圏の学習者ではないということはここに明記しておきます。
試験でカンニングした
上で書いた通り、N5レベルの学習者でもN1に申し込みさえすればN1の受験者達と並んで受験することはできます。運よく頭のいい人が近くにいて、監督者が巡視をサボってくれれば、合格も容易いでしょう。
しかし、ほぼ満点というのがどうしても気にかかります。
試験前までに受験者が答えを知っていた、盗んだ
カンニング自体は簡単でしょう。全てマークシートですから。腕なりカンペなりに番号を書いておけば合格です。
しかし、答え、これを獲得するにはどうすればいいのでしょうか。学校のようなセキュリティの甘い一機関程度でしたら教務室にちょろっと入って、というのもできそうですが、規模が違い過ぎます。JLPTは世界中で実施されている試験で、組織(企業や学校など)が日本語学習者の日本語能力を判断する上で重要視するものです。そんな大きな組織から一受験者が情報を盗むなんてなかなか難しいでしょう。どこかから答えを得る方が自然な気がします。
試験監督者が答えを教えた
試験監督者は雇われです。JLPT実施機関の者ではありません。試験中に答えを教えることはできるでしょう。
ただ、こんなリスキーなことを監督者がするのかは甚だ疑問です。たった一人からいくらかは知りませんが金銭を得て、合格させる。受験者も監督者も実施する”教室”までは選べないので、この線はないでしょう。
しかし、海外の事情までは私も知らないので、海外での受験はその範疇ではありません。つまり、答えを知っている者、例えば受験監督者が答えを受験者に教え、その答えを二次利用、例えば答えの売却などに転用することも考えられます。
実施機関の関係者が答えを売った
試験の問題と答えがどこで作られているのかはわかりませんが、データはそこから世界中に送信するわけですから、容疑者も増えます。分母が増えれば悪人の数も必然的に増えます。
最近は技術が進歩して、メガネに答えを映したり(Google Glass)、時計に文字が映されるもの(Apple Watch)もあります。ポケットの中のスマホのバイブを1回鳴らして3回鳴らせば問題1の答えは3のようなことも可能でしょう。とにかく答えさえ手に入れればやりようはいくらでもあるということです。
持ち出し禁止のはずの試験の問題が中国のサイトを筆頭に諸外国のサイトに掲載されているのを見ます。学生も自慢気に見せてきます。JLPT作成機関から問題が漏洩している可能性があります。
替え玉受験
別の誰かが写真を偽造して受験、本人は家でうんこでもしていれば自動的に合格します。
教務室でもこの替え玉受験は話題になります。さらに学生も隠す事なく、教室で自慢している者までいます。
これが初めてではない
ツイートで「いつまでこんなことを野放しにするつもりなのか。」と書きましたが、これは、このツイート以前にもこのような不可解な合格者がいたということを表していました。しかし、どれもN5の者がN2に、N3の者がN1に合格と、かなり納得しがたいものでしたが、「ん~~…ん~~~~…~ん~~~~頑張ったんだきっと!」と無理矢理自分を納得させていましたが、今回は天地がひっくり返る出来事です。N5がN1に合格?!圧倒的な不自然さ。
学習者に事情を聞いた?
これを読んでいる人がもっとも私に聞きたいことは「じゃそれだけ疑惑いっぱいの学習者には何か対応をしたのか」ということだと思います。答えは「何もしません」。
「しない」というより「できない」「無駄」と言う方がいいでしょう。彼らは、自分の能力とかけ離れた資格を取得した後のことは考えられませんが、「どうやって合格したの?」と聞いて真実を話すほど馬鹿でもありません。聞いて教えてくれる学習者はそもそも不正など行いません。
今後のJLPT
今後、もし国際交流基金と財団法人日本国際教育支援協会から何も発表がなければ、この試験は消滅するでしょう。
お金を稼ぐには努力が必要です。それが簡単に手に入る、作れるならば誰も努力をしなくなります。偽造紙幣が貨幣価値を貶めるのと同じで、不正や偽物は本物それ自体の価値を落とすのです。
合格が簡単に偽証できる試験に価値はありません。組織(企業や学校など)はJLPTをあてにして評価をしなくなります。JLPTが積み上げてきた権威は失墜します。
提案
記述もなければ面接もないJLPT。私がプライベートで教えている方で口頭能力は確実にN1レベルに達している社会人の方がいますが、N1には合格できません。JLPTがはからんとすることが机上での日本語能力だからです。聴解は確かにあります。その社会人の方なら満点を取れるでしょう。しかし、結局漢字やほとんど使わない意味不明な文型で落とされます。
JLPT批判はこれぐらいにして、私が「JLPTはこうなればいい」という提案を挙げます。
日本語能力をはかるものをかえる
記述、面接を加える。世界中で行われるJLPTでこれを行うのは難しいでしょうし、試験料もかなり高くなることと思われます。
しかし、放っておけばこの試験の存続自体が危ういです。N1に合格することによる恩恵は機関自身がご存じのはずです。高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度も受けられます。詳しくは長くなるので、以下のリンクをお読みください。
高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度 – 入国管理局
まとめ
N5の受験者が実力や運、センスでN1に合格することはありません。しかもほぼ満点で。ということは不正(上述のどれか)を行ったということです。私は本人が現場で監督者の目を盗みせっせとマークシートに記入したという姿がどうしても思い浮かばないのです。どうしても。
これが初めてではない、これまでにも不可解な合格者がいたことから、やはり何者かが対価、おそらく金銭の授受、を得るために情報を売った、または替え玉受験をした、という結論に至ります。
得た情報を試験会場で見ることは、私の学生によると、監督者のずさんな巡視から、どうやらそれほど難しくはないようです。顔写真の照合も完璧ではありません。
日本語能力試験の実施機関から何か対策があることを期待します。
コメント
ネパールやスリランカの学生は、普通に周りの人の回答を見てカンニングします。
私は15年以上日本語教師をしていますが、彼らは日本人が思っている以上に視力が良い(2.0かそれ以上)ので、前や横の人の答えを見るというノーマルなカンニング方法です。動体視力も猫のようによいので、ちょっと隙間ができた瞬間でも捉えることができるようです。
そして、非漢字圏の学生だと、「中国人などの漢字圏の学生をカンニングすると受かりやすい」と言っています。非漢字圏の学生は聴解ができるので、漢字や読解をカンニングします。
カンニングに関してですが、大学や大学院を出た学生ですら普通にカンニングする始末で、特に悪いと思っていないようです。
むしろ、「みんなで一緒になって問題を解決する」という考えが根強いようで、「どうしてカンニングが悪いのか」と逆切れする学生もいる有様です。
確かに、中国人の受験者のカンニング行為をする可能性高い。
外国人の僕は元々中国に何年留学した、中国語を流暢に話せる。
今年の七月に行ってJLPT N1(東京)で、休みの間には二人の中国人の受験者の話を聞くと皆誰から答えをもらいました。
休みの間には前に座った受験者の携帯の画面には問題用紙の写真だった。
記事を書いていただきありがとうございます。
日本語能力試験の問題構成にも 問題がありますね。
このようないい加減な試験を大学入試や就職試験に利用されることも問題だと思います。
僕も、N1を持って日本の大学に留学している外国人で、全く日本語を話せない人を知っています。おそらくカンニングをしたのでしょう。
真面目に合格をめざして努力している人がなかなか受からないのも知っています。
こんな試験、即刻中止するべきですね。作成機関の試験管理などの杜撰さを一度 国から調査してもらうことはできないのでしょうか。