「て形」を使った”記憶”のシステム┃短期記憶と長期記憶

日本語学習者にとって「て形」は初級の難関です。

しかし、いつのまにか彼らがて形を使いこなしているのに気づきませんか?それはなぜでしょうか?

①いい覚え方 ②日本語教育能力検定で役立つ記憶のシステム
この二つについて今日は説明していきます。

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当サイト管理人による、日本語教師養成個人レッスンの詳細はこちら

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記銘・保持・検索

記憶には段階があり、それぞれ記銘、保持、検索とあります。

学生が覚えた語の意味や、て形のルールを思い出せない(検索できない)のは、記銘がしっかりできておらず、その結果、保持に至っていないということです。

 

記銘┃いい覚え方と復習のやり方

それではここから語や変換ルールなどのいい覚え方を説明します。

リハーサルする

何度も繰り返し覚える活動、例えば漢字を覚えようとするなら何度も書けば形を、同時に発声すれば音(読み方)を覚えます。

イメージするだけでも効果があります。レンブラントの絵を覚えたい時、その絵を見た後に何度も頭の中でその絵をイメージすれば、忘却を防ぐことができます。

て形のルールを覚えるなら何度も発声し、書き、教師が見せた図を頭の中でイメージすれば記銘が促進されます。

時間をおく

一度学んだことをもう一度時間をおいて学びなおすことで、

「学ぶ」というと、机に向かってペンを持っているイメージですが、それだけが学びというわけではありません。時間をおいてもう一度いくつかのて形を書いたり、発声したり、見たり、聞くだけでも効果があります。

情報を処理する

学んだ事をそのままにしないで加工すると、記銘が促進されます。

て形とた形の変換はテとタが違うだけで、全く同じです。た形を覚える時にて形と関連付けて覚えたり、逆にそうすることでて形の変換の記銘も促進されます。

 

保持┃覚えにくくなる影響

時間

記憶は時間が経つと薄れて、なくなっていきます。て形も使わなければ忘れていきますが、日本で生活する上で、て形を使わない(発話にしろ聞くにしろ)ということは不可能に近いです。だから、て形は覚えやすく、受身は覚えにくいのです。

実際は受身もよく使う、というか日本人は主語を言わないことが多いため好んで受身を使っているのですが、それでもて形に比べれば使う頻度は下がります。
 

干渉

授業中、類義語と対義語を同時に教えることがありますが、これは干渉といって、先に記銘された情報が後から入った情報によって薄れたり、なくなったり、混乱したりするのです。

こんなことはありませんが、例えばじしょ形とて形を同時に教えれば、どうなるかぐらいは学習者でも予想できます。

しかし、類義語や対義語を同時に覚えた方がいい、つまり紐付けて覚えさせた方がいいとする意見もあります。学習者の様子を見ながら、同時に教えるかどうかは決めた方がいいでしょう。

記憶のモデル

アトキンソンら記憶のシステムについて、短期貯蔵庫と長期貯蔵庫の2つの貯蔵庫が相互にやり取りをし、全体として動いているというモデルを提案しました(Atkinson & Shiffrin 1968)。

短期記憶

街できれいな女性を見かけた男性がその女性の顔を覚えている時間はせいぜい数秒から数分でしょう。そういったとても短い、自身にとって重要ではない記憶と、て形のルールのような重要な記憶を一緒くたにとりあえず入れる場所が感覚登録器と呼ばれます。

女性の顔は忘れてもいいですが、て形のルールはそうはいきません。そのような重要な記憶を感覚登録器からピックアップして格納する場所が短期貯蔵庫と言い、その中にある記憶を短期記憶と言います。

この短期貯蔵庫に記憶を移したとしても、保持する時間は短く、すぐ忘れてしまいます。これを防ぐためにリハーサルをするのです

長期記憶

短期記憶に入った情報がリハーサルなどを経ることで長期貯蔵庫に入ることがあります。長期貯蔵庫に入った記憶を長期記憶と言います。

説明できるようにする

記銘、保持、検索がしっかりできていれば、ルールや語の意味を説明できるはずです。自分でそれについて話せるということはもう完全に覚えたということです。

記憶には宣言/陳述的記憶手続き的記憶とがあります。簡単に言うと、前者は言葉で説明できる記憶、後者はそれができない記憶のことです。て形の変換ルールの説明は宣言的記憶で、泳ぎ方は手続き的記憶です。

 

授業では学習者に、最終的に説明できるようにすればいいのです。変換ルールも語の意味も、読解の段落の大意も、聴解で流れた話の意味も、説明できれば覚えた、理解できたという意味なので、そこを目指して授業を行うといいでしょう。

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