『みんなの日本語 初級II 第二版』完全準拠。
導入や練習の仕方、教師として知っておきたい文型のポイントなどを解説します。
学習項目
練習A
1.V[マス]すぎました/イadj./ナadj.すぎます
2.V[マス]やすいです/にくいです(容易・困難)
3.V[マス]やすいです/にくいです(性質・傾向)
4.イadj.-く/ナadj.-にします
5.Nにします
教案
新出語彙
無意志動詞が多く出てきます。また、状態を表す形容詞は使い分けが難しいので、いろいろ例を出してイメージをつかんでもらいましょう。
★ポイント
- 濃い⇔薄い:味や色、密度などに使う。英語圏では「味が強い」という間違いが多いので注意
- 厚い⇔薄い:本、服、卵焼きなど、直方体のものに使うイメージ
- 太い⇔細い:鉛筆、体、麺など、円柱型のものに使うイメージ
練習A-1:V[マス]すぎました/イadj./ナadj.すぎます
たいてい、想定を超えた範囲まで程度を超えたことを表し、望ましくない、という気持ちをあらわす文型です。
「食べ過ぎる」:食べる頻度・量が想定よりも高く、よくない。
「多過ぎる」:量が想定よりも多く、よくない。
なお、「すぎます」は2グループの動詞なので、「~すぎて」と活用します。「Vすぎて」という文型の後件は可能動詞や自動詞、状態を表す形容詞などが多いことも頭に入れておきましょう。
例)食べ/飲み/吸いすぎに注意しましょう
「働きすぎです」は32課で語彙として取り上げていますが、その時は名詞としての扱いでした。混乱を招くので、この名詞「~すぎです」はこの課では提出しない方がよいでしょう。
導入:V[マス]すぎました
T:皆さんは昨日どれぐらい働きましたか。
S1:私は3時間働きました。
T:3時間ですか。私は20時間働きました。
S:ええ!
T:とても疲れました(働くジェスチャー、疲れるジェスチャー)。私はきのう働きすぎました。
S:どれぐらい飲みましたか。
T:皆さんはいつもどれぐらい飲みますか。
S:ビール10杯。
T:私は100杯飲みました。
S:たくさん飲みましたね。
T:はい、とてもたくさん飲みました。
わたしは のみ すぎました。
- ごはんを食べすぎました。
- たばこを吸いすぎました。
- 物を買いすぎました。
- お金を使いすぎました。
- 遊びすぎました。
練習B-1
◆拡大した絵を用いて行う
T:(例の絵を見せる)何をしていますか。
S:お酒を飲んでいます。
T:見てください。ビールと、酒、1,2,3,4,5,・・・お酒を飲み・・・?
S:お酒を飲みすぎました。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
導入:イadj./ナadj.すぎます
「~すぎます」は、その度合いが想定を超え過度でありよくない、という意味をもたせる文型です。基本的にマイナスイメージの言葉につきます。プラスイメージの言葉につく場合もありますが、ここでは「とても~だ」と同じであると思わせないためにも、マイナスイメージの言葉を選んで提出するようにしましょう。
×おもしろすぎる 〇つまらなすぎる
×おいしすぎる 〇まずすぎる
プラスイメージの言葉につく場合について、詳しくは本記事下部の「教師用メモ」をご覧ください。
◆イ形容詞
T:皆さんはどんな家に住んでいますか。広いですか、狭いですか。
S:狭いです。とても狭いです。
T:そうですか。私の家もとても狭いです。これです(狭い部屋の写真を見せる)
S:ええ、狭いです!
T:そうです。先生の家はとても狭いです。先生の家は狭すぎます。
T:そして家賃は・・・
S:いくらですか。
T:20万円です。
S:高い!
T:家賃は高すぎます。
やちんは たか すぎます。
S:遠いすぎます。
S:とおすぎます。
T:そうです。「い」がありません。
この「遠いすぎます」には必ず触れておきましょう。言ってて、しかも書いてもいるんだから1回言えば十分なんて思っていたらダメです。しばらく授業中、休憩中、そして試験でも学習者の多くがこの変換で間違え続けます。ここで徹底的に矯正しておきましょう。
◆ナ形容詞
T:私は先週、新しいカメラを買いました。これは説明書です。
S:ええ、字が小さすぎます。
T:そうですね。(様々なボタンとその機能の説明のページを見せる)複雑です。複雑すぎます。
T:複雑ですは、イ形容詞?ナ形容詞?
S:ナ形容詞です。
T:そうですね。ナ形容詞のときは、ナ、ダ、デス、ありません。ふくざつ、すぎます。
他例文
- このコーヒー・薄/まずすぎます
- このお風呂・熱すぎます
- この説明書・複雑すぎます
- 日本の物価・高すぎます
- 日本の料理・甘すぎます
- 日本の冬・寒すぎます
- 新宿・人が多すぎます
- ~先生・厳しすぎます
- 漢字のテスト・難しすぎます
- S1の国の~・~すぎます
余談ですが、初級では話が自由に広げやすい、要するにおもしろい文型とそうでない文型があります。この「すぎる」は前者です。少し使える言葉に制限があるものの、「敬語」や「場合」「使役」といった制限の多い文型に比べればかなり楽です。
練習B-2
◆拡大した絵を用いて行う
T:(例の絵を見せ、吹き出しで「あつい・・・」と出す。PPTで作るとやりやすい)この布団は・・・
S:この布団は厚すぎます。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
導入:「すぎる」の活用
◆「すぎる」を活用させて練習する
T:今月私はたくさんお金を使いました。
S:何を買いましたか。
T:服を買いすぎました。
S:お金持ちですね。
T:いいえ、服を買いすぎて、お金がありません。
T:これは何形?
S:テ形です。
T:そうですね。じゃあ、「すぎます」は何グループ?
S:・・・2?
T:そうですね。すぎー--ます、いーますだけど、すいで、じゃなくて、すぎて。2グループです。
T:テ形も普通形も、全部ありますよ。
↓ ふつう形
すぎる
すぎない
すぎた
すぎなかった
練習B-3
◆キュー出しで行う
T:食べました、動きます。食べ過ぎて、うご・・・
S:動きません。
T:(首を振る)この「て」のあとは、無意志動詞。可能形とか、ある、びっくりします、安心します・・・とかだけ。
S:動けません?
T:そうです。食べ・・・
S:食べ過ぎて、動けません。(リピート練習)
39課で勉強した、理由の「て」のあとは無意志動詞、これは何度言ってもなかなか定着しません。忘れているようなら復習しましょう。
練習B-4
◆例を確認してからペアで練習する
「~すぎたんです」という形がうまく作れなさそうなら、初めに全体で練習してからペアでの練習に移りましょう。
練習A-2:V[マス]やすいです/にくいです(容易・困難)
意志動詞に「やすい/にくい」が付いた場合、その行為が容易であるか困難であるかを表す文になります。なお、意志・無意志について、違いと教え方は教師でも難しいので、よろしければ「意志動詞・無意志動詞とは」もご覧ください。
行為の評価:Vにくい
内容の評価:難しい
よくある誤用が「日本語は勉強しにくい」というものですが、「勉強する」という行為が難しいというのは言い得ないので、「日本語は難しい」と訂正しましょう。
導入
T:これは何ですか(短すぎる鉛筆を見せる)。
S:鉛筆です。
T:どんな鉛筆ですか。
S:短いです。
T:そうです。とても難しいです(書くジェスチャーをしながら)。書きにくいです。
T:じゃこの鉛筆はどうですか。難しいですか(普通の長さの鉛筆を見せる)。
S:いいえ。
T:そうですね。この鉛筆は書きやすいです。
この えんぴつは かき やすいです。
T:皆さんは東京タワーの高さを知っていますか。
S:いいえ、知りません。
T:333mです。
S:簡単です。
T:そうです。覚えます、簡単です。覚えやすいです。
T:じゃ皆さん、富士山の高さを知っていますか。
S:いいえ、知りません。
T:3776mです。
S:難しいです。
T:そうです。覚え・・・?
S:覚えにくいです。
練習B-5
余裕があれば、絵などを見せて状況を提示して、「やすい/にくい」のどちらかを考えて文を作らせるといいです。難しいようなら、キュー出しで変換練習を行いましょう。
T:(字が小さい辞書を見せる)見えますか。
S:見えません。字が小さいです。
T:これは?(字が大きい辞書を見せる)
S:見えます。
T:やすい?にくい?
S:見やすいです。
T:この辞書は・・・
S:この辞書は字が大きくて、見やすいです。(リピート練習)
(同様に例2,1~4も行う)
練習C-2
◆例を確認してから、ペアで練習する
できそうなら、ペアの人の持ち物について言及し、「~やすい/にくい」で感想を言わせましょう。
練習A-3:V[マス]やすいです/にくいです(性質・傾向)
無意志動詞に「やすい/にくい」が付いた場合、「そのような性質である、そのような傾向がある」といった意味を表します。繰り返しになりますが、意志・無意志について、違いと教え方は教師でも難しいので、よろしければ「意志動詞・無意志動詞とは」もご覧ください。
なお、意志動詞なら何でも接続できるわけではありません。
例)S1さんは授業に遅れ(?やすいです 〇がちです)。
導入
T:(晴れの日の洗濯物を見せる)晴れの日は、洗濯物はどうですか。
S:よく乾きます。
T:そうですね。晴れの日は、洗濯物が乾きやすいです。
T:雨の日は?
S:洗濯物が乾き・・・にくいです?
T:そうですね。
あめのひは、せんたくものが かわき にくいです。
T:(そこが丸くて不安定なコップを見せる)このコップは・・・?
S:倒れやすいです。
T:(しっかりおけるコップを見せる)このコップは・・・?
S:倒れにくいです。
T:この文、「やすい/にくい」の前は意志動詞、無意志動詞、どちらですか。
S:無意志動詞です。
T:そうです。さっきの「この鉛筆は書きやすいです」、これは意志動詞でしたね。「書くことが簡単にできます」、そういう意味でした。でも、「洗濯物が乾きやすいです」、これは無意志動詞。このとき、「たいてい乾きます」、の意味です。
学生が意志・無意志で混乱するようなら、言葉で説明するのではなくとにかく例文をたくさん出して感覚や違いをつかませましょう。
練習B-6
◆キュー出しで行う
T:安い傘は壊れます。「やすい」をつかって?
S:安い傘は壊れやすいです。(リピート練習)
(同様に例2,1~4も行う)
練習A-4:イadj.-く/ナadj.-にします
「~く/になる」(19課)との違い
「~く/になる」:自然に変化することを表す。目的語には「が」を付ける。
・母が掃除をしてくれたので、部屋がきれいになった。
「にする」:意識的に変化させることを表す。目的語には「を」を付ける。
・散らかっていたので、掃除して部屋をきれいにした。
動詞で変化を表す場合は36課で既習の「Vようになる/する」を使います。
導入
◆まずは聞いたことがあるであろう「静かにしてください」で導入
T:(勉強している人の絵と、近くでしゃべっている人の絵を見せる)私は勉強しています。でも、隣で友達が大きい声で話しています。うるさいです。何と言いますか。
S:うるさいです。
T:静か・・・
S:静かにしてください。
T:そうですね。静かにします。うるさい、から、しずか。静かにします。
しずかに します。
S1:半分がいいです。
S2:半分おねがいします。
T:(「~にします」を指す)
S:半分にしてください。
T:いいですね。
はんぶんに します
S:名詞?
T:そうです。ナ形容詞と名詞は「~にします」を使います。
S:短いにしてください?
T:短いに、じゃありません。
S:短く?
T:そうです。短くしてください。イ形容詞は「~くしてください」を使います。
みじかく します。
「になる」「にする」の違いは以下の二文を提示するとわかりやすいです。
・外が暗くなる。
・部屋を暗くする。
こちら↓の導入も参考までに。
◆フラッシュカードで変換練習
T:皆さん、これは?(「長い」を指して)長・・・?
S:長くします
T:これは?(「きれい」を指して)
S:きれいにします
T:じゃS1さん、これは?(「半分」を指して)
S1:半分にします
T:じゃS2さん、これは?(「濃い」を指して)
S1:濃くします
・・・
◆練習
T:私の髪は赤いですか、青いですか。
S:黒いです。
T:そうです。おもしろくないです。でも、毎週土曜日と日曜日は私は黒い髪じゃありません。
S:え、そうですか。
T:見てください(と言って画像加工アプリで髪を青くした先生の写真を見せる)。
S:すごい。先生は髪を青くしますか。
T:私の目を見てください。小さいですね・・・
S:はい!
T:・・・はい、小さいですが、週末はチェンジします(アイプチなどの化粧道具を見せてもいい)。これを使って・・・ほら(と言って画像加工アプリで加工した先生の写真を見せる)
T:先生は?
S:先生は目を大きくします
以上のようにして、画像加工アプリを使って様々な例文を作りだせます。しかもかなり盛り上がるのでおすすめです。今はPhotoshopなどの仰々しいものでなく、無料の簡単にできるものがあります。
練習B-7
◆拡大した絵を用いて行う。変化前と変化後を分けて提示するとわかりやすい
T:(例の絵の、字が薄いほうを見せる)この字を見てください。見えますか。
S:よく見えません。薄いです。
T:そうですね。字が薄いので、・・・(矢印と、濃い字を見せる)
S:濃くしてください。
T:そうですね。字が薄いので、濃くしてください。(リピート練習)
(同様に1~4も行う)
この練習は絵の提示しかありません。学生に自由に文を作らせましょう。
練習問題
答えと解説はこちら↓
練習A-5:Nにします
導入
◆同種のものを見せて、学習者に選ばせる
T:ここは携帯電話の店です。S1さん、いらっしゃいませ。S1さんはどのスマホにしますか。(au、ソフトバンク、ドコモの社名を見せる)
S1:ソフトバンクがいいです。
T:ソフトバンクにします。
S1:ソフトバンクにします。
T:S2さんは?
S2:わたしはauにします。
T:私とS3さんは一緒にレストランにいきました。何か飲みましょう。えーと、私は決めました。ビールにします。S3さんは?
S3:私はコーヒーにします。
メニュー表を拡大したものを提示、ごはん・デザートなど、教師が例を示し、学習者に次々と発話させ口慣らしをするのと、「~にする」が決定の用法であることを示す
◆疑問詞
T:皆さんで旅行に行きましょう(と言って、様々な観光地とその上に地名が書かれた画像を見せる)どこ・・・?
S:どこにしますか。
S:ハワイにしましょう。
T:いつ・・・?
S:いつにしますか。
S:どちらにしますか
練習B-8
◆例を確認してから、ペアで練習する
ペアワークのやり方は様々です。まだ文がうまく作れそうにないと感じたら、全体で正しい文を確認してからペアでもう一度練習させてもいいでしょう。また、終わってから教師のキューに続いて全体でリピート練習すると、最後に正しい文を自分の口で練習して終わることができます。
発展:パーティーの計画を立てよう
ペアになって、パーティーの計画を立てる。その際、「~は(疑問詞)にしますか」「~にしましょう」の文型を使うことを意識させる。
『文型練習帳』p.124を使うとわかりやすい。
教師用メモ
~すぎる:プラスをマイナスに変える機能と例外
「すぎる」は、ここではマイナスの言葉に付くと教えます。では、「元気」には付かないのでしょうか。元気はプラスの言葉ですが、「彼は毎日元気すぎる」と言った場合、「元気すぎてうるさい。授業の邪魔ばかりする」という意味になり、「とても元気」を通り越して悪い意味になります。他にも「この仕事は楽すぎる」と言えば、「楽過ぎてつまらない」というニュアンスが出ます。
つまり、「~すぎる」は、マイナスの言葉につくというより、ついた言葉にマイナスのイメージを持たせる、といった機能がある文型です。それがマイナスの言葉につけば、さらに度を越して悪い、といったイメージを引き起こすのです。
しかし、マイナスのイメージを持たせない場合もあります。例えば、「この猫可愛いすぎ~!」「この肉おいしすぎる!」「あの人のギャグ面白すぎ」といった表現には、マイナスの意味が含まれません。これは、「~すぎる」の持つ「よくない」というマイナスのイメージがなくなり、「想定より超過している」という機能のみ残った形であると言えるでしょう。
学生がよく日本人の日本語を観察していたり、漫画やアニメなどに触れている場合、上記のような例を挙げて質問してくるかもしれません。そのときはどのように教えるか、あらかじめ考えておいた方がいいでしょう。
授業に役立つプリント
◆どちらが いいですか。
①でんきを けして、へやを くらく (します・なります) 。
②やさいを たべると、けんこうに (します・なります)。
③へや(が・を) きれいに なりました。
④ケーキ(が・を) はんぶんに して ください。
⑤みずを れいぞうこに(いれて・いれると)、つめたく します。
⑥この ボタンを(おして・おすと)、おとが おおきく なります。
⑦この ずを (おおきく・おおきいに)できますか。
⑧なにを のみますか。わたしは ビールに(します・なります)。
この練習問題は、意志・無意志が大きくかかわってきます。比較的よくできるクラス向けです。
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