教えるレベルが高くなるほど検定が活きてくる

日本語教育能力検定試験(以下、検定)について批判的な私ですが、検定の勉強は無駄ではありません。

それでは、検定の知識が具体的にどのように役に立つのか、私の実際の授業での利用法を交えながら紹介していきます。

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当サイト管理人による、日本語教師養成個人レッスンの詳細はこちら

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文法・語彙 試験Ⅰ

特に試験Ⅰの初めの部分です。5つの選択肢から瞬間的に種類の違うものを選び取る能力は、実際の授業では必須です。

初級

S:先生、①間違えやすいと、②間違いやすい、どちらがいいですか
T:(わからない・・・。どうしよう)
違いを事前に準備していなくてもその場で、遅くても5秒以内で”答えられる”というよりも”考えられる”のがプロと素人の違いです。

「意志動詞+やすい」は~するのが簡単
「無意志動詞+やすい」は~にすぐなる(傾向)

「間違える」は意志、「間違う」は無意志なので、②が正しいという結論に至る訳です。ここからさらに、教師の腕の見せ所といわれるもので、彼らのレベルに合った説明をしなければなりません。これも素人にはできません。
ネットでは「言いやすいので①が正しい」や「『間違い』は名詞だからやすいに接続しない」「五段活用が云々」というのが多く見られ、意志無意志に触れたものはありません。もちろん学習者の前で検索してる暇もありません。学習者からの質問は無限にあります。全ての日本語の質問には答えられません。しかし、その場で考えられるのが専門家なのです。その能力を検定を勉強することで養っておきましょう。

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中級・上級

上級にもなると、かなり難しい、抽象的な語彙の質問が増えます。5つの選択肢から瞬間的に種類の違うものを選び取る能力は、文法だけでなく、語彙においても重要です。
「結構です」や「大丈夫です」の意味を例文とともに正しく説明する能力、「につれて・にともなって」違い、「開ける」「結果論」「むしろ」これら動詞、名詞、副詞を日本語で易しく教えられる能力、瞬時に違いを見つけ出す、それをすぐにアウトプットするまでを10秒で行う能力を検定の勉強で養います。

調音法・調音点 試験Ⅱ

特に試験Ⅱのことですが、ⅠからⅢにまたがって出題されます。これは初級から上級に至るまで学習者を信頼させるツールとして大変有用なものとなります。

初級

最近はベトナム人学習者が多いですが、彼らは中舌を持ち上げるクセがあります。ミャンマー人ならば前舌を歯茎にくっつけずに発音しがち。「つ」を発音せると、

  • ベトナム人:「ちゅ」
  • ミャンマー人:「す」

のようになります。これを指導する場合に調音法/点が活きます。バカみたいに教師の発音をただ真似させる、ひたすら発音させるだけの指導法では教師も学習者もストレスが溜まる一方です。以下のように指導しなければなりません。

発音の悪い指導法
T:つ!つ!はい、つ!
S:ちゅ! S:す!
T:ちっがーーう!つーー!
S:ちゅーーすーーー!

発音のいい指導法
T:ベトナム人はここ(中舌を指す)が上になるから、もっと下げて
T:ミャンマー人はここ(前舌を指す)がここ(歯茎を指す)にこう(両手を上下に叩く)ならないから、ちゃんとこう(両手をくっつける)して

ちゃんとどこを訂正すればいいのかを的確に指示することで、学習者の発音は矯正され、学習者にも一目置かれるでしょう。

中級・上級

JLPTの聴解の4つ目、【即時応答】が顕著ですが、レベルが高くなればなるほど変音現象(縮約形や短縮句、連濁など)が増えてきます。撥音化を起こす際、

  • なにもない ➔なんもない
  • 暑いんだもの ➔暑いんだもん
  • これは私のだ ➔これは私んだ
  • わからない ➔わかんない
  • お帰りなさい ➔お帰んなさい

を一覧で見せ、「何か気づかない?」と少し時間を与えます。その後、「な行」と「ら行」など、歯茎を使うものは口の負担が大きいので、それを軽減するために撥音化を起こす、と説明すれば問題を解くヒントにもなりますし、知識を得た満足感も与えられます。

教授法 試験Ⅲ

教授法も上記と同じく、出題形式はずいぶんマシになりましたが、検定に登場しています。それだけ大事だということです。

  • できない学習者の指導法
  • 学習者と衝突した際の対処法
  • 作文の指導法
  • 導入のやり方
  • 様々な練習方法
  • レアリアの活用法
  • グループワークのやり方

これらは全て検定出題の範囲ですが、範囲とかはどうでもいいんです。私は、今、これら検定を受ける上で学んだ知識を実際に授業で活かしています。研究者や教育者が考案した最新のやり方を毎日トライ&エラーで実践し、効果を上げたものは続け、上げないものは数回限りで捨ててしまいます。

言葉について 試験Ⅲ

特に試験Ⅲ。方言や若者言葉、これは初級ではまったく出てきませんが、中級以上からだんだんとその姿を現してきます。

中級・上級

読解のテーマとして方言や若者言葉を学ぶことも、実際にそれらを中心に授業をし教授することもあります。

特に若者言葉は学習者が待ってました!と言わんばかりの積極性を見せますし、方言も「めっちゃ」や「ねねね」などおもしろい語感のもの、方言が共通語になっているものもあり、大変盛り上がります。

他にもら抜きについて突然質問されることがあります。正しい知識があれば、なぜら抜きが起こり、どんな語が起こりにくいのか、現代におけるら抜きの扱いなども検定を目指し勉強することで、学ぶことができます。

これらの知識が増えれば、教えられる幅も広がります。

国と国の関係 試験Ⅲ

台湾、中国、ベトナム、韓国など、主にアジア各国と日本との関係、これらは切っても切れない関係で、どこかで問題が起こるとそれは必ず日本語教育機関にも波及します。そんな中、歴史を知らないばかりに学習者に

T:最近あなたの国大変みたいだけど、なんかあったの?
T:なんで王さんとタンさんケンカしてるの?

なんて言おうものなら、衝突は免れません。毎年この不用意な発言で学習者と衝突している教師がいます。
検定で勉強することも大事ですが、合格いかんにかかわらず、時事、特に国家間のものは常に気にとどめておいてください。

知識を得る>合格

合格できないまま教師になった人もたくさんいますが、合格に価値を見出さず、勉強し得た知識に価値を見出すことで多少は検定に対する憎しみが減るのではないかと思います。

ちなみに、検定に対してどのように否定的なのか、勉強法と併せてこちらの投稿にまとめてあります。

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